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がやりがやりと……一般の目から見れば賑やか極まりなく、和やかに対話が繰り返されたり、子どもが走り回ったりするその場所は明るく惹かれるものとして映るはずなのに、蓮の歪んだ心根で見るそれらはただひたすらに拒絶したくなる場所であった。
うぅ……と内心で呻きながらお使いを押し付けてきた兄を心から怨む。
『俺、今日はどうしても行けないから』
たったのその一言と木で編まれた篭を押し付けられ、窓からひょいっと放り出され、ぴしゃりと閉められた。
虐待だ。絶対に虐待だ。
蓮が最も嫌とすることを強要してくる兄を帰ったら思う存分にブーツで踏みつけてやる、と窓から放り出される度に蓮は心にそう誓う。
誓う……のだが、それは大概蓮の大好物であるさくらんぼが思いっきり惜しみ無く使われたおやつによって相殺されてしまう。
さくらんぼの魅力につられて忘れているわけではない。そう、相殺されているのだ。相討ちなのだ。引き分けであり、断じてさくらんぼの魔力に負けているわけではないのだ。と蓮はいつもさくらんぼのおやつを食べ終えた後に自分にそう言い聞かせる。
もう一度言うが、律に上手く操作されているわけではない。決して!
うんっ、と蓮は誰に言われたわけでもないのにひとりで頷く。
時折頼まれるお使いは、大抵悪魔を『散らした』翌日にやって来る。
まだ……悔しいかな、幼い身である自分には何か言えないことをしているのだろう……と蓮は推測している。
いつか大きくなれば教えてもらえるだろうか……としばしの感傷に似たような気持ちに浸ってみたりするが、けれどそれは僅かな間で。
はっ、と気付いた翌日にはこうしてお使いに放り出される。
そうしてしばし草が伸びきった庭の真ん中でどよりどよりと心に暗雲を覆わせて、決して晴れることのない暗い雲を引きずりながら蓮はここまで重たい足を引きずってやってくるのだ。
で、例により隠れている。今日は背に隠してくれる律がいないから、葉のない木の後ろに。
家を出たのは朝だったはずなのに、いつの間にか昼の鐘が鳴っている……と言うのはいつものこと。
銀色の……この寂れた町に唯一“物”としては美しい鐘は、町の真ん中に建っていた。
商店街から見上げるそれはやや小さく、なんとなく『大きいのだろうな』と思う程度。
ごぉ……ん、と澄んだ音色に蓮は耳を傾けるが、溜め息を増量させるものでしかない。
たかがお使いに何時間かけているのか、と律に馬鹿にされてしまう。
こればかりは避けたくても避けられぬ運命なのだ。と、自身の内弁慶を華麗なまでに蓮は保護する。
頭が痛くなってきたが、そろそろ動かねばならない。買って帰らねば律は家にいれてくれないし、蓮はあの癖のある扉を開けられない。




