3-1
少女が出かけて一息。
白いソファーにだらりと腰かけている彼は流れ星色の髪の青年に問う。
真っ黒の髪をたらりと流して。
「律ー?」
「はい、優さん」
呼ばれた流れ星色の青年は忠犬よろしく優に歩み寄ってソファー横に腰を降ろした。
優は紫暗色の瞳を細めて我が子同然の律の頭を撫でた。
娘同然の蓮が喩えた通り、流れ星のように細い髪がさらりと優の指をすり抜ける。
気持ち良さそうに目を細めた律に……申し訳ないが、訊かれたくないだろうことを、優は敢えて訊く。
「……昨日の、悪魔は……」
「若草色の、四枚翼だったそうですよ」
重たい口を開く前に、かわりに重たい口を開いてくれた律に優は目を丸めて、苦笑する。
ああ、本当に辛いだろうに。
記憶に疼かない日はないだろうに。
律と言う我が子は、いつも頑張ってくれる。
それは蓮も同じなのだが。
大きくなったのにも関わらず自分を『大切』だと恥ずかしげもなく言ってくれる律。
しあわせであれ。
そう願わない日はない。
くしゃり、と頭を撫でもうひとつ問う。
これは蓮が知らない律の役割のひとつ。
とても大切な役割のひとつ。
「祈って……くれたか?」
祈り。
それは悪魔に……『散らせた』悪魔に捧げるもので、優にも出来ず、蓮にも出来ず、
律にしか、出来ないこと。
『ぜんぶぜんぶなくなっちゃえばーーーーー』
「心から、きちんと」
祈りました。そう言った律に、幼かった頃の律が重なった。
まだ名さえなかった頃の、悲痛な少年は今や優のよき理解者であり、補佐であり、
「ついでに蓮のお使いが無事にすむことも」
よき兄になった。……少しばかり意地悪なようだけども。




