↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職一日目  作者: 春賀
PR
7/7

7日目

二ヶ月後。


「はい。では次に自己PRをしてください。

 じゃあまず、三浦さんから。」



「はい。私の長所はーー。」


一瞬、言葉に詰まった。


二ヶ月前なら、

こんな質問になんて答えていただろう。


責任感があります。


コミュニケーション能力があります。


最後まで諦めません。


ネットで調べると出てくる

ありきたりな言葉を並べていたかもしれない。


「.....困っている人を、放っておけないことです。」


面接官が手元の資料から顔を上げる。


「以前の会社ではリフォームの営業をしておりました。

 正直、営業成績が良かったとも言えません。」


隣に座る応募者が

ちらりと一瞬こちらを見た。


自分でも思う。

面接で言うようなことじゃない。


「でも、お客さんの家に行って、

 仕事とは関係ないことを頼まれることが結構あって、


 電球を交換してほしいとか。

 家具の移動を手伝ってくれとか。


 業務とは関係ないんですけど、契約にも繋がらないんですけど、

 そういうの断れなくて。」


少しだけ笑った。


「そのせいでよく怒られてました。」


面接官の一人が

ふっと笑った。


「なので...要領は、

 あんまり良くないと思います。」


自分でも話していて

何のアピールかわからない。


「でも俺ーー、」


言い直す。


「私は、そういう仕事がしたいです。」



不思議と、

今度はすんなりと言葉が出てきた。


「目の前に困ってる人がいれば、

 自分が出来ることをする。


 それが当たり前にできる人間になりたいと思ってます。」



「.....以上です。」



質問に対する回答がめちゃくちゃだ。

喋り終わった後に一人恥ずかしくなって顔を伏せる。


顔から火を吹きそうだ。


横の応募者もクスクス笑っている。


ちらっと目の前を覗くと、

面接官が何かを書き留めていた。


落ちたかなぁ。


でも、

二ヶ月前より少しだけ、

自分が何をしたいかははっきりとしていた。



面接会場を出ると、

外は少し肌寒く感じた。


今日は夜まで予定がない。


ふと思い立ち、

目の前を通りかかったタクシーを停める。


ガチャ。


後部座席の扉が開き、

律はタクシーに乗り込んだ。


「お客さん、どちらまで?」


「あ、えーっと、白里海水浴場まで。」


「もう海水浴のシーズンは終わりだよ?」


「良いんです。」


変なことを言うなと思い、

ルームミラー越しに運転手の顔を見る。


「あ。」


「久しぶりだね。お客さん。」


ミラーの中には、

見覚えのある笑顔があった。


車は静かに走り出す。


「あ、あの。

 その節はありがとうございました。」


「はて、何のことか?

 忘れちゃったね。」


相変わらずへらへらと笑っている。


「仕事、見つかった?」


律は窓の外を見ながら答える。


「まだです。

 でも、まぁ...何とかなりそうです。」

「そうかそうか。

 そりゃよかった。」


「あの日をきっかけに、

 改めて自分のやりたい事を探してみました。

 

 自分にとっての天職ってなにかなって。」



ミラー越しの老人の顔は

一瞬驚いた表情をしてすぐに緩んだ。


「どうりで、前とは違う。

 凛々しい顔つきになったと思ってね。」


「そ、そうですかね?」



それから、律は以前タクシーに乗った日から、

今日までのことを運転手に話した。


一方的に話す形になってしまったが、

ミラーを見ると、老人は嬉しそうな表情で

うんうん。とずっと頷いていてくれた。




「よし。お客さん。

 着いたよ。」


「ありがとうございます。」


「はい、じゃあお会計はーー。」


「あ、ちょっと待っててください。

 海を一瞬見に来ただけですので。」


老人は不思議そうな顔を浮かべる。


「この後、前の職場の人たちと飲み会があるんですよ。

 そこまで乗せてってください。」


ふと老人の表情が緩む。


「そういうことかい。」




律は堤防の上に登り、

海を眺める。


「不思議ですね。

 空は曇ってるのに、この前より海が光って見える。」


老人も車を降りてきて、

煙草に火を付ける。



「お客さん、何言ってんだい。」


「え?」


「お客さんの気持ちが晴れてるから、

 海も光って見えるんだよ。天候なんて関係ない。」



「え、だってこの前...。」



「海ってのはね。

 そういうもんなのさ。」



そういうと、

老人は顔のシワをクシャっとして笑った。


「...そう、ですね。」



その時、スマホの着信が鳴る。


画面には『五条』の文字。


「もしもし?」


『おう万年無職!面接は終わったか?』


「うるせぇ終わったよ。」


『そしたら飲み会の前に、一軒行こうぜ。

 報告しときたいことがあるんだ。』


「報告?なんだよ。」



『それを言うから早く来いって言ってんの!じゃあな!』


通話が一方的に切られた。


「友達かい?」



「あ、いえ。

 前の職場の同僚で。」


「いいねぇ。

 そういう仲間大事にするんだよ。」



「....はい。」



もう一度、律は海を見る。

水平線は果てしなくどこまでも続いている。


海を見納めると、堤防を降り

老人に声を掛ける。



「それじゃ、次のとこまでお願いします。」



老人は煙草を携帯灰皿に押し込むと、

運転席へと戻った。


「よっしゃ、出発だ!」



律を乗せたタクシーは、ゆっくりと走り出した。




ー完ー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。