第30話 前金大好きマネーマン参上!?
◆
売り言葉に買い言葉、とはよく言ったもので、いざ練習開始となると、
「うぇーー……やる気が出ねぇ……」
「あれだけ啖呵切っといてぇ? そういうところコテツらしいよねぇ〜〜」
「いやぁ、照れるなぁ」
「褒めてないよ?」
やはり柊は俺のことをよく知っているな。なんだかんだ付き合いは長いからか、俺のやる気スイッチを理解している。
「そもそも、なんであんなこと言ったの? 普段のコテツなら言わないじゃんよ。一銭にもならないことなら尚更さ」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「え、金の亡者? マネーモンスターかな?」
「おっと、柊の中での俺は相当クソみたいだな。一旦話し合おうか」
「もちろん良い意味だよ!」
おい、最後に“良い意味で”って言ったら、なんでも許されると思うなよ?
これぞ日本語マジックだぁ? 喧しいわ。
そんなことよりも、だ。
「あれについて説明してくれよ」
「ん? あーー……あれね」
時間は放課後、ゴリ先から教室の使用許可を貰い、机たちを端に寄せてから雛子の演技練習を開始したわけだが、
「おぉーー!! ロミオ! 貴方様は何故ロミオ様なのでしょうか!! わたくしは寂しいですわ!! およよよ」
雛子が露骨な泣きの演技をしている。
嘘くさい、非常に嘘くさい。だが、それよりも重要なことがあるわ。
「なんで“ロミオとジュリエット”なんだ? アイツのやつ劇と違うだろうに」
練習を始めた雛子は何故か、劇で自分がやる役ではなく、誰もが見覚えのある演技を始めた。
なんで今やってる劇の練習じゃないんだ?
「雛子ちゃん曰く、他の生徒へのネタバレ防止らしいよ? ほら、劇を待ってるファンと演劇部の人たちのための配慮だって!」
「アイツにそんな高等な脳があったのか!? あの雛子に!?」
っと、いけないな。
これはさすがに言い方が良くないか。一応は可愛らしいお嬢様だし、少しは気をつけるか。
「それに、有名な劇を参考にして演技の幅? を広げたいんだって!」
「アイツにそんな高等な脳があったのか!? あの雛子に!?」
「コテツ来る前は浦島太郎の亀の演技をしてたよ!」
なにそれ見たい。よりにもよって亀って、アイツはカメレオン女優でも目指してんのか?
とにかくだ。
「あれだけのことを言ったんだ。やれることはやるさ」
「おーー! さすがコテツ! 転んでもただじゃ起き上がらないね!」
「まだ転んでないんだけど? 勝手に転ばさないでくんない?」
「現役の演劇部の人たちだよ? いくらコテツでもさぁ……」
ほほう、お前も言うようになったな。
お前は忘れたのか? 俺の無駄な特技を。
「え? ……あーー!! そういえばコテツって、中学の時に演劇部に仮入部してたじゃん! それで」
「おう。むかつく先輩を演技で負かしてやったわ。俺は意外と特技が多いんだよ」
「金銭が絡むとでしょ? あの時も確か投票で勝った方に駅前ラーメン屋の無料券出てたじゃんよ!」
あぁ……あの時は金欠でな。
あれがなければ餓死してたわ……いや、そこは置いといて。
「とにかく、俺はやればできる子ってわけよ」
「コテツ……それを自分で言ってるのはなかなか格好悪いよ……!」
「小鉄様ーー! どうですの! わたくしの今の演技は!」
「おう良かったな。なんかこう……雛子な感じが出てたわ」
「それは! ……褒められていますの?」
褒めてる褒めてる。向上心があるのは俺的にポイント高いからな。
で、そこで相談なんだがな? 雛子?
「分かっておりますわ。教えてもらう立場として、わたくしもそこはちゃんといたしますわ」
「え、マジで!? ……あ、いや、騙されないぞ」
今まで報酬って聞いて騙されてきたんだ。俺だってそんなチョロくないんだからねっ。
「前金に五万、劇の発表後に五万でお支払いいたしますわ! お先に前金を……はい! お渡しいたしますわ!!」
「下僕とお呼びくださいお嬢様」
「コテツが堕ちるとこまで堕ちたーー!!?」
うるせぇーー!! 現金だぞ!? 報酬がもう目の前にあんだよ!!? ここは雛子お嬢様の奴隷にだってなってやるわ!!!
「小鉄様? わたくしが欲しいのは下僕じゃなくて、お友達で相棒の小鉄様ですわよ? いつも通り接してくださいまし」
「分かりました雛子お嬢様! いつも通り接します!!」
「お話聞いておりませんわね??」
おっといけない。嬉しい思いが溢れすぎて、気をつけて接すわ。
雛子お嬢さ……雛子からのお願いだしな。
「ここまでコテツの態度が変わるなんて……初めて見たよ!?」
「は? いつもと変わんないだろ?」
全く柊は、なにを言ってんだよ。
「ささ、雛子ちゃん? 一緒にお勉強しようか?? お兄さんに雛子ちゃんの素敵な姿いっぱい見せて欲しいなぁ」(劇を)
「ど、どうしましたの小鉄様……? いつもと違いますわよ……?」
「どうしたのかなぁ? お兄さんはいつも通りだよぉ?」(にちゃぁぁ)
「夏希さーーん!! 小鉄様が壊れてしまいましたわーー!!?」
「雛子ちゃん! コテツに前金渡しちゃ駄目なんだよ!? 変になるんだよーー!?」
「先に言ってくださいまし!?」
どうしたんですか二人とも? そんなに慌てて?
私はいつもと変わりませんよ? やれやれ。
――さてと、
「あまりにも貰った金が大金過ぎて気持ち悪くなってきた……金に酔ったわ……」
「あ、いつものコテツだ」
「あ、いつもの小鉄様ですわね」
おぇ……気持ち悪……。




