表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『文字』が絶滅した世界で、地下の清掃員だけが古代の数式を読める件 〜エリート歌姫の暴走魔法を口笛一吹きで上書きしたら、なぜか聖女候補に執着されるようになりました〜  作者: GenerativeWorks
第1楽章:不協和音のプロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

第4話:【既製品(スクリプト)の限界と、真理の咆哮】

1. 牙を剥く「特別調律師」


カイの地下倉庫に、不快な電子音が響き渡った。

それは、空間の静寂を無理やり切り裂くような、高周波のサーチ音だ。


「……チッ、嗅ぎつけられるのが早すぎるな」


カイがモニター代わりに使っている古いブラウン管が、激しくノイズを走らせる。

そこには、純白の防護服に身を包んだ三人組の男たちが、重厚な音響兵器を構えて通路を直進してくる姿が映っていた。


「聖詠学院の特務部隊……『特別調律師エグゼキューター』。最悪ね」


リアの顔が、恐怖で強張る。彼らは芸術家ではない。

歌声を「武器」として扱うことに特化した、政府直属の執行官たちだ。

彼らが使うのは、個人の感情を排除し、効率のみを追求した軍事用スクリプトである。


「リア、奥に隠れてろ。あいつら、対話する気はねーぞ」


「いいえ、私も戦うわ。……昨日の私じゃないところを、あいつらに見せてやりたい」


リアの瞳には、怯えとともに、カイに教わった『真理』への確信が宿っていた。

カイは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに口角を上げた。


「……いいだろう。拡声器スピーカーとしての性能、テストしてやる」




2. 重低音の監獄


倉庫の重い扉が、衝撃波によって吹き飛ばされた。

煙の中から現れた執行官の一人が、冷徹な声で詠唱を開始する。


「ターゲット確認。強制回収プログラム——《 束縛の重低音グラビティ・ベース 》!!」


男の喉に埋め込まれた軍用デバイスが赤く発光し、指向性の重力波を放つ。

ドォォォォン! という鈍い音と共に、リアの身体が床に縫い付けられた。

地上の最新スクリプトによる、圧倒的な質量攻撃。


「くっ……体が、動かない……!」


「無駄だ。我々の詠唱は国家のスパコンによって最適化されている。一人の喉で抗える出力ではない」


執行官が勝ち誇ったように笑う。

だが、その背後でカイが呆れたように鼻を鳴らした。


「……最適化? 笑わせんなよ。その数式、小数点以下の誤差を丸め込みすぎて、構造がスカスカだぞ」


カイがリアの耳元で囁く。


「リア、解析データを送る。命令系統を乗っ取れ(ハックしろ)。……使う『文字』はこれだ」


カイが手近な壁に指でなぞったのは、鋭利な刃物のような三文字。


『C-U-T』





3. 世界を切り裂く一音


「カット(切断)……!?」


「そうだ。重力なんて複雑な計算をまともに相手にするな。その『現象の根元』だけを切り取れ」


カイがリアの肩に手を置き、彼女の神経系に直接、最適化された周波数を流し込む。

リアの脳内に、執行官たちが展開している重力魔法の『楽譜コード』が、赤裸々に透けて見えた。

どこを斬れば崩れるのか。

その「急所」が、光り輝く線となって浮かび上がる。


「——《 C・U・カット!! 》」


リアが放ったのは、歌ですらない、鋭いカミソリのような高周波の一閃だった。


パリンッ!


空間を支配していた重厚な重力波が、まるでガラス細工のように一瞬で粉砕された。

それだけではない。

リアの放った『文字』の衝撃は、執行官たちが構えていた音響兵器の「物理的な振動板」をも正確に捉え、一瞬で真っ二つに切り裂いた。


「なっ……詠唱が、物理的に切断されただと……!? バカな、ありえん!」


「ありえないのは、お前らの計算能力だよ」


カイが前に出る。

彼は口笛を短く吹いた。

ただそれだけで、執行官たちの足元の床が『液体』のように揺らぎ、彼らの身体を腰まで飲み込んで固定した。


「……文字通り、足元をすくわれるってのはこういうことだ。あばよ、エリート様」




4. 逃亡のシンフォニー


動けない執行官たちを置き去りにし、二人は非常口から地下のさらに奥深くへと駆け出した。


「凄いわ、カイ……! あんなに簡単に、政府の魔法を解体しちゃうなんて」


「あいつらは『マニュアル』を歌ってるだけだ。俺たちは『ルール』そのものを書き換えてる。勝負にならねーよ」


カイは平然としているが、その表情には少しの焦りが混じっていた。

今の一撃で、自分たちの居場所だけでなく、「文字を操る者」の存在が政府の上層部に知れ渡ってしまったはずだ。


地下通路を走りながら、リアは自分の喉をそっと撫でる。

恐怖はない。

むしろ、自分の声が世界の真理と共鳴するたびに、魂が震えるような万能感に包まれていた。


「……カイ。次は、何を教えてくれるの?」


「……次は、もっとデカい歌を歌ってもらうぞ。世界の基底音(OS)が、悲鳴を上げ始めてるからな」


暗い通路の先。

都市の心臓部から響いてくる、不気味な不協和音をカイの耳は捉えていた。


文字を捨てた人類に、本当の「終わり」の旋律が近づいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ