表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『文字』が絶滅した世界で、地下の清掃員だけが古代の数式を読める件 〜エリート歌姫の暴走魔法を口笛一吹きで上書きしたら、なぜか聖女候補に執着されるようになりました〜  作者: GenerativeWorks
第2楽章:数理音楽の修行と陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/35

第11話:【偽りの青空、沈黙の歌姫】

1. 地上という名の「鳥籠」


数日後。

カイとリアの姿は、地上都市「シンフォニア」の北端にある、うらぶれた港湾区にいた。

 

見上げれば、そこには完璧なまでに美しい「青空」が広がっている。

だが、カイの目にはそれが欺瞞の塊に見えていた。

空の色、雲の流れ、降り注ぐ太陽の光――そのすべてが、巨大なマザー・システムから配信される『映像スクリプト』に過ぎない。

文字を知るカイには、空の端々に走るデジタルノイズの縫い目が見えていた。


「……眩しいわね。地下にいたのはたった数日なのに、ずっと昔のことみたい」


リアは深く被ったフードの下から、かつて自分が愛した街を見つめた。

彼女の喉元にあるデバイスは、もはや光を失ったただのチョーカーに成り果てている。

今の彼女は、街角の自動販売機すら起動できない「無能者サイレント」だ。


「感傷に浸ってる暇はない。……あちこちに監視用トレースの指向性音波が飛んでる。俺の文字で認識を阻害してるが、長くは持たないぞ」


カイは、手に持った古いタブレットの画面を睨む。

画面には、シンフォニアの全域を覆う巨大な『五線譜ネットワーク』が映し出されていた。




2. 剥がれ落ちる「楽園」


二人が街の中心部へ向かう途中、異変が起きた。

 

公園で遊んでいた子供たちの笑い声が、突如として砂嵐のようなノイズに変わった。

噴水から噴き上がる水が、空中で立方体のグリッチ(バグ)となって静止する。


「な……何、これ……!?」


悲鳴を上げる市民たち。

だが、彼らにはそれを解決する術がない。

喉のデバイスを使って、あらかじめ登録された『修復の歌』を必死に唱えるが、空中に浮かび上がる数式は虚しく霧散していく。


「基底音(OS)の崩壊が、ついに地表まで漏れ出してやがる。……マザー・システムの演算が、現実の維持に追いついてないんだ」


カイが群衆のなかへ踏み出そうとした時、リアがその腕を掴んだ。


「ダメよ、カイ! 今ここで力を使ったら、すぐに政府に……」


「……放っておけば、あのガキ共は空間の裂け目に飲み込まれる。……リア、一秒だけ道を作れ。文字は俺が書く」


カイは迷わず、空中に指を走らせた。

描いたのは、空間を固定する三文字。


『F-I-X』





3. 名もなき救世主


「(……いけっ!!)」


リアは声にならない声を、喉の奥の『記憶』から絞り出した。

デバイスは動かない。

だが、彼女の細胞が覚えているカイの共鳴波が、彼の文字と呼応する。

 

カイの指先から放たれた不可視のコマンドが、バグを起こした噴水を貫いた。


刹那。

立方体になっていた水は、本来の流体へと戻り、止まっていた子供たちの時間も再び動き出す。


「……直った?」

「今の歌、誰が……?」


周囲を見渡す人々。

だが、そこにはもう、怪しい作業着の少年と少女の姿はなかった。




4. 第2楽章の目的地


路地裏に身を隠した二人は、肩で息をしていた。


「……ハァ、ハァ……。今ので、完全に捕捉されたな」


「ええ……。でも、後悔はしていないわ」


リアは微笑んだ。

歌姫として「聴かせる」ために歌っていた頃よりも、今の「名もなき守護」の方が、ずっと誇らしかった。


「……行く場所が決まった。シオンが言っていた『ディソナンス』の本拠地じゃない。その真上、マザー・システムの心臓部——中央制御塔『カデンツァ』だ」


カイは街の中心にそびえ立つ、空を貫くような巨塔を指差した。


「あそこの最上階にあるメイン・コンソールを叩く。……世界を偽りの歌から解放して、本当の『文字』をインストールし直すんだ」


「世界のリブート……。全人類が、文字を手にするということ?」


「ああ。……不自由で、残酷で、だけど自由な『言葉』のある世界だ」


二人の視線の先、カデンツァの周囲を、無数の軍用武装ヘリが旋回し始めていた。

地上の全勢力を敵に回した、二人だけの「革命」が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ