61話 「変われない心情」
――五年前の真相、その全てを聞かされて尚、信じられないという気持ちが強かった。
ファルベが知っているリーダーは、自分をどこまでも使い捨て、道具としてしか扱わない、そういう人間だ。ずっと、そう思って来た。あの日、追放を宣言された瞬間から今の今まで、ずっと。
その固定観念が、己に染み付いた前提条件が、全て崩れ去っていく。
「嘘だ……嘘だよ……だって、嘘じゃないと……」
自分が勝手に彼らの善意を勘違いして、勝手な行動で彼らの想いを踏み躙って、生きてほしいと願う人達を無視して、逆恨みの果てに、人の道を踏み外したことになる。
過去の過ちを肯定したいわけではないが、それではあまりに救いがなさすぎるだろう。
「嘘じゃあないさね。あいつらはずっとあんたを気遣ってた。そうじゃないと、どうして五人パーティーの雑用があんた一人でこなせたんだい? そりゃあ当然、あんたが時間を切り詰めて何とかしてたところもあっただろうけど、それだけじゃ十歳の子供が五人の雑用をこなせた理由にはならない。あいつらが、パーティーメンバーの全員が、あんたの負担を少しでも軽くしようと、自分たちで出来ることは自分たちでやるようにしてたのさ」
ファルベ自身は常に必死で、周りの情報を遮断するほど集中して仕事していたため、全く気づいていなかった。
今考えてみれば、おかしいところも多くあった。戦闘で役に立たないとはいえ、徹底して前線に出さなかったのもそうだ。
だって前線に連れて行けば、いざという時の肉壁や囮として使えそうなものだというのに、一度もそんなことはなかった。
ファルベが思うように、使い捨てとしての用途しか考慮されてなかったら、そんなことはあり得ないはずだ。
ファルベが奥深くに埋めた思い出を掘り出せば掘り出すほど、ラウラの言葉の真実味が増していく。
全ての記憶が、ラウラの言葉を事実なのだと訴えかけてくる。
「あんたにとっちゃ、嘘だった方が気が楽だったろうけどね。彼らが使い捨てにしたから、自分を見捨てたから、役立たずだと見放したから、だから自分は冒険者を恨むようになったんだって、そう言い訳が出来るんだから。あいつらが理不尽に追放したせいだって、そう思えるんだから」
違う、と即座に否定できなかった。それはきっと――
「あんたは今もまだ、吹っ切れてないんじゃないのかい? 心のどこかでは、恨んでいるんじゃないのかい」
「それは……」
「だからあんたは今も、『冒険者狩り』なんて名乗って、冒険者と戦っているんじゃないのかい。あんたもあんたで、何かの目的があってのことだっていうのはアタシにも分かるさ。けど、今のあんたを見ていると、それだけじゃないんだってことも分かる」
ファルベはこれまで、二年近くにわたって、冒険者狩りとして犯罪を犯した冒険者と戦ってきた。それはファルベなりの大義があってやってきたことだし、自分の罪を償うための行いだと信じてきた。
しかしその一方で、冒険者と対面すると心がざわつくのも確かだった。今は割り切れたように振る舞っているが、無意識でまだ追放された時の絶望を引きずっている。
ファルベはいつも、犯罪者に対して自首を呼びかけているが、心のどこかでは、それを断ってほしいという願いがあったのだ。
変わろうと、いつかの自分は間違いを犯したと、そう思って二年が経っても、結局ファルベという人間は、変われなかったのだ。
ラウラには再開してまだ半日も経っていないというのに、そのあたりの心情を見透かされたようだ。本当に、どこまでも情けなくなる。
「……少しだけ、夜風に当たってくる」
だから、ファルベはそう言って、逃げるように外へ出て行った。




