56話 「無愛想な少年」
壁の内側に入るためには検問を通る必要がある。検問は文字通りそこを通る人物の荷物や格好、名前、スキルの詳細などをチェックし、記録するものだ。
武器の持ち込みは護身用のもの以外は基本的に不可になっている。
「馬車の連中、どうも検問に手間取っているみたいだねえ」
壁を超えてすぐ、検問係の男性が何やら困った顔つきで対応しているのが見えた。
馬車を運転する御者は既に検問を終わらせているのか、近くで待機している。つまり、今検問の対象となっているのは乗車していた人物であり、その正体は――
「――子供?」
そこにいたのは、ルナより少し背の高い少年だった。十四・五あたりだろうか。身体は平均よりやや痩せ気味。少し長めの黒髪を揺らして、その度に髪と同色の双眸を覗かせる。
腰には長剣を下げており、それにルナは目がいった。というのも、
「あの剣、見覚えがあるような……無いような……」
どこかで見たことがあるような気がする。無骨で、飾りのない戦闘に特化した得物。それを持った知り合いを探していると、
「あんな武器ぐらいなら持ってるやつは山ほどいるだろうさ。見覚えがあってもおかしくないさね。それより、気になるのは――」
少年はしきりに頭を押さえたり、気持ち悪そうに口元に手を置いている。それは誰がどう見ても、
「随分と体調が悪そうだね、少年」
通常の人間の行為ではない。ラウラは少年に声をかける。
検問係の衛兵は、途中で割り込んできた相手に一瞬訝しげな視線を向けるも、その人物を認識した途端に彼は大きく目を見開き、
「あ、貴方は……ラウラ様!? お戻りになられたのですね!」
「様なんてつけられる立場じゃあないだろう、アタシは。あんたの言う通り、今さっき帰ってきたばかりなんだけどねえ、なんだい? この状況は」
「それが……この子がですね、『冒険者狩り』の被害者が集まる村に案内してくれって言ってくるんです。この子も過去、奴の被害を受けたことがあるらしくて……なんで今更。こんなに時間が経ってから来るのって、おかしいじゃないですか。だから、怪しいと思って問い詰めていたんですよ」
「『冒険者狩り』の被害者……ねえ……」
品定めするような視線でラウラが少年の全身を眺める。何かに引っかかっているような言葉遣いだが、ルナは彼女が何を気にしているのか分からなかった。
もしかしたら、知り合いなのかと考えたが、それなら「少年」という呼び方はおかしいだろう。ルナに言っているように「あんた」だったり、名前を呼んだりする方が適当の筈だ。
「ま、いいさね。アタシが責任持って連れて行ってやるさ」
「それは……いくら貴方の言葉でも了承しかねます。怪しいのもそうですが、こんなに苦しんでる子はちゃんとした医療機関に渡さないと……」
「衛兵殿はお堅いねえ。こいつはそれでも行きたいって言ってるんだから、連れていったっていいだろう。それにもしこいつが問題を起こしたり、死んだりしたら、アタシが全部責任持ってやるからさ」
そこまで言われると衛兵の男もそれ以上食い下がることもできないようで、渋々といった様子で、ラウラの言葉を承認する。
そこからラウラは、少年が乗って来た馬車にこれ幸いと同乗し、集落に向かう。
ガタガタと音を立てて整備の整いきってない道路を走っている途上、ルナは自分と近しい年代の少年と仲良くなるべく交流を図る。
「あの、はじめまして。ルナと言います」
当然だが、まずは自己紹介からだ。自分の名前を知ってもらわないと、これ以降の会話にも支障が出てくる。
なるべく親しみやすいように笑顔を浮かべていたつもりだったので、警戒されないだろうという打算があったのだが、
「……」
肝心の少年は、馬車の窓から外を向くばかりで、一瞬たりともこちらに視線を向けない。
流石にこんな対応をされるとはルナ自身思っておらず、驚きが先行し、怒る気にもなれなかった。
それから、ルナは一つ大きなため息を吐くと、
「これは……中々大変そうですねぇ……」
これからの未来に危惧し、そうひとりごちるのであった。




