102話 「反撃」
ファルベの胸から赤い液体が零れ落ちる。それを見た女は意外そうに目を見開く。
「あれ、てっきりこれも避けられると思ったのに。案外あっさりいくものね」
ファルベの傷を致命傷と見てか、戦いが終わったかのような言い方をしている。
「まだ、終わってねえよ……!」
ファルベは勢いよく走り出すと長剣を振るう。だが、やはり女は高速でファルベの攻撃範囲から逃れ、もう一度痛烈な蹴りをファルベに与える。
「あら、そんな怪我してまだ動けるのね」
「はっ! これが血に見えるなら意外かもな!」
「――?」
ファルベは獰猛な笑みを浮かべると蹴りを喰らった体勢から持ち直し、再び突貫する。
女はファルベのスキルを知らないが故に気づかないが、今胸のあたりから流れているのは血ではない。血に見えるように色をつけたただの水だ。
以前もこの手法を使ったことがあった。その時は完全に攻撃を避けていたのだが、今回はそうではない。一応傷を負ってはいる。ただ、女が見ているような致命傷ではなく、軽症程度に抑えているが。
女が指先を向けた瞬間に嫌な予感がファルベの脳裏を駆け巡り、咄嗟に外套の下で身体を動かし、致命傷を避けることができた。だからこうして動けているのだ。
「もしかして、それがあなたのスキル? 傷を治したりでもしてるのかしら。だとしたら厄介ね」
「さあな!」
女にスキルを聞いたときに返ってきた時と同じように答える。
スキルを見破れていないからか、女も少しやりづらそうに顔を歪める。彼女からすればファルベは生捕にしたいところだろう。だから迂闊に殺せない。先程の攻撃も直撃すれば致命傷にはなったが、即死するほどのものではない。
その意思を利用してファルベは突っ込む。殺されないと分かっているなら命を投げ出すような特攻もリスクは少ない。
「シエロ! あなたも手伝いなさい!」
女はやりづらいこの状況を変えるために助けを求める。
「やっぱり、ボクの助けが必要なんだね。君一人じゃ到底敵いっこないから、ボクの力も必要になるんだね」
「チッ、別にいらないわよ! 生意気なヤツね!」
シエロが嫌味ったらしく言うと、女はムキになってそれを拒む。それを見てファルベは内心安堵する。
いくらファルベが対人戦の経験が豊富と言っても、スキルの分からない人間二人を同時に相手するのは難しい。それが元中級冒険者なら尚更だ。
大きく息を吐くと、ファルベは走る速度を上げると、
「なに!?」
女が驚愕の声を発する。突然の加速、それも先ほどまでとは比べ物にならないくらいの速度で迫ってくる長剣に驚いた女は反応がワンテンポ遅れることになった。
腕を変形させて防ごうとするが、もう遅い。
ファルベの振るう長剣が女の左腕を両断した。




