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第8話 少女の秘密

 地上げ屋がいなくなったのを確認した俺は怒りと殺気を消すと片膝をついてしゃがみ込む。殺気の解放は見た目以上にとんでもなく体力を使うのだ。それに部分的に殺気を出さなかったり強さをコントロールしたものだからなおさらだ。


 そこにシェンが駆け寄って俺の肩を支えてくれた。…気が利くわー。


「マスター、お疲れさまじゃ。大丈夫かの?」

「大丈夫、ちょっと疲れただけ。でも肩を貸してもらえると助かる」

「お安い御用じゃ」


 シェンの肩を借りて立ち上がった俺はミラの元へと行く。ミラはぽかーんと魂の抜けたような表情をしている。


「おーいミラ。大丈夫か?」

「ふぇ!?あ、ソーマさんお疲れさまです。…じゃなくて何なんですかあれ。見たことないですよ。」

「すごいだろ。で、何色だった?」

「そうですねぇ、わかりやすく言うなら真っ赤な赤が半分と真っ黒な黒が半分みたいな感じでした。というより何でオーラに色が付いているんですか?」

「ああ、それはだな…」


 俺は魔王城の訓練場跡地で何となく気づいた自分のオーラの特性を打ち明けた。するとミラとシェン(少女は何の話をしているのか分からないのか首を傾げている。)は呆れたような顔で俺を見る。


「はぁ…やっぱりソーマさんはいい意味で化け物だと改めて実感しました」

「同感じゃ。感情の強さや種類でオーラの色が変わる人など聞いたこともないわ。ひょっとすれば化け物どころではないのかもしれんな」

「お前らやっぱ俺への感想酷いよな…。ま、それは置いておくとしてだが…」


 俺は座っているミラの膝にちょこんと座っている少女に目を向ける。すると彼女は何やら恐ろしいものを見るような目で俺を睨んでくる。


「おいおい、そんなに怖がらないでくれよ。悲しくなるわ…。それよりここで話すのもなんだ。俺らの宿に来てもらいたいんだが…いいか?」

「…私を奴隷にするの?」

「そんなことはしない。ただちょっと体を洗ってもらって服を着替えて俺らと話すだけだ。できるか?」

「頑張る…」

「よし、それじゃあ〈ワープ〉で一気に俺たちの部屋に飛ぶからみんな手をつないでくれ」


 俺の言葉で俺たち4人は手をつなぐ(俺はシェンの肩を借りているし、少女はミラの服の裾をぎゅっと握っていたから手をつないだとは言えないかもしれない。体が触れていて、なおかつ俺が転移されたい相手であればたとえ直接的に俺に触れていなくてもどこでもいいのだ)。そして〈ワープ〉を発動させる。


 俺以外の3人はまだ〈ワープ〉に慣れていないようで辺りをきょろきょろしているが無視をしてやryべきことをするための準備をする。


 まず布団を押し入れに戻し、話せるスペースを作ったところで話を始める。


「さてと、まず体を洗ってやりたいんだがミラ。この世界には体を水で洗うっていう概念は無いんだろ?」

「はい、この世界では水はそこそこ貴重なのでそれの水を体を洗うために使うのは水を生み出せる魔法使いや一部の貴族だけで、そのほかは水で濡らした布で体を拭くぐらいが限度です」

「別にこの世界で“風呂”の概念が無くても俺は風呂に入るがな。だがその前に俺はちょっと確かめなきゃいけないことがあるからミラとシェンは少し席を外してもらっていいか?」


 俺の発言に何を勘違いしたのだろうか。2人はジト目でこちらを見ている。


「構いませんけど…何かやましい事でもするつもりですか?」

「いや、そんなことはしないが…あまり2人には見てほしくないだろうからな。俺じゃなくて主に彼女が」

「うむ、分かった。我らは扉の外で待ってるとしよう」

「それでもいいが今回はマジで盗み聞きするなよ?一応防音結界張っておくけどさ」

「そんなに厳重な警戒をしてまで何をするのか分かりませんが、ソーマさんの事です。信じます」

「頼む。なるべくすぐ終わらせるようにする」


 2人が部屋から出ていくと俺は防音機能のついた結界を部屋に張る。そしでどこか難しい表情を頑張って作ってみる。


 なんだろうな。彼女を見ていると体がこの子を全力で殺そうとしてるんだが…って事は魔王の体が嫌ってるのか?魔王の体が嫌う…嫌い?…反発?…確かミラは言ってたな前魔王のオーラは真っ黒だったってそして彼女は白なのか…ん?…まてよ。魔王の逆のオーラを持っていて魔王の体が近くにいるのを拒否しているってことは……まさか…。


 俺は自分の体に起きている謎の何かをつかんだので少女に問い詰めるように質問する。


「これからいくつか質問するが答えなくない質問はパスしてもらって構わない」

「…分かった」

「おっと忘れるところだった。その前に自己紹介しなきゃな。俺の名前はソーマ。さっきの2人と旅をしている。というかする予定だ。お前は?」

「…私の名前はシエラ。あなたが見たようにスラム街の住人」

「そうか…シエラか。いい名前だ。さてお互いの名前も知ったことだし、質問をさせてもらう。まず1つ目、シエラの家族はどこにいる?」


 この質問は今後シエラを冒険に連れていくかどうかを判断する重要な質問だ。予想では母親は生きているかもしれないが父親は死んでいるだろう。


「お母さんは3か月ぐらい前に病気で死んだ。お父さんは1年前に戦いに行って死んだと聞かされた」


 やはりな。父親はもう死んでいたか。でも母親まで死んでいたのは意外だったな。これで俺の予想が確信に近づいた訳だ。次の質問で決まるな。


「そうか…悪いことを聞いたな」

「大丈夫、もう吹っ切れた」

「心が強いんだなシエラは。さて気を取り直して2つ目の質問だ」


 俺は腰に携えてある剣を取り出す。そしてその剣の外見を見つけた当時の姿にする。


「さあシエラ。この剣どっかで見たことないか?」

「それは昔何回か見たお父さんが持っていた剣。それをどうしてあなたが持ってるの?お父さんを殺して奪ったの?」


 最後の質問は返事に悩むところだがとりあえずこの子の素性が分かったな。この剣は勇者が持っていた聖剣“ブレイブソード”でこれをシエラの父親が持っていたと言う事は間違いないだろう。


――シエラは勇者の娘だ。


 いや、とてつもなくめんどくさいな。これ。だって今魔王と勇者の血を引くものが対話してるんでしょ?なんだこりゃ。あ、でもこの剣は本来勇者の物だから勇者の娘であるシエラに渡した方がいいな。一応姿は変えておくけど。おそらくスラム街で過ごしてきたなら戦闘力はあまり高くないはずだしな。


「シエラの言う通りこの剣はシエラの父親が持っていた剣だ。だからシエラに返そう。だがこの剣は有名だから盗まれないように見た目は変えてもらうけどいいかな?それに殺して奪ったかはさっきの2人が戻ってきたら話すけど俺は殺してないから」

「うん、分かった」


 鞘に入れ、姿を変えたブレイブソードをシエラに手渡す。そして次の質問をする。


「じゃあ3つ目の質問だ。今のシエラは俺に対して変な感情を持っていないか?なんていったらいいかな。心では何とも思っていないのに体はすごく嫌っていてすぐにでも逃げたり殺したいとかそんなかんじの感情。分かるか?」

「うん。なんだろう、ソーマの言った通り心ではやさしい人だと思うのに体はソーマが悪い人だと思っているかのようにソーマを攻撃しようとしている。今は止めれてるけどいつ暴発するか分からない。ソーマも一緒?」


 思った通りお互いの気持ちに関係なく体は反発してるみたいだな。ってことはシエラはもう正式な勇者だな。ちょっとブレイブソードを渡すのは危険だったかな?まあいいか。リミッター外せばシエラの暴走は止めれるだろう。逆に俺が暴走しないようにしなきゃな。


「ああ、俺もそんな感じだ。俺の中で答えは出てるがさっきの質問の答えと一緒に話すよ。それまでなんとか耐えてくれ」

「うん、頑張る」

「これが最後の質問だ。シエラ変なことを聞くようで悪いが今お前体傷だらけだろ?それに病気も患ってるな。俺の見立てだと後持って数日ってところかな」

「え?なんでそれを知ってるの!?それに…私あと数日で死ぬの?」

「ああ、おそらく」


 俺は医者じゃないから何の病気かは分からないが持って数日だと俺の正直な魔王の体は喜んでるよ。もちろん彼女に生きる意志があるなら全力で治療するが…。


「…そんな。せっかく自由になれたと思ったのに…」

「まぁ俺なら治せんこともないが…2つ条件がある」

「治してもらえるの?傷と病気」

「ああ病気は治せる。体の傷もな。だがシエラがあの地上げ屋野郎どもに負わせられた心の傷は治せない。そればかりは自分で治す努力をするしかない」


 大体の魔法をミラから教えてもらった俺でもどこの技術を使っても心の傷を回復させる魔法なんて知らないし、おそらくないのだ。


「努力する。…だからどんな条件でもいいから治してほしい。私は…まだ死にたくない!」

「シエラの意思は受け取った。条件というよりはお願いって形になるんだが…まず体の傷を治すうえで1つ。体を見せてほしい」

「…え?」


 シエラは驚いているが別にやましい気持ちは無い。…少しはあると思うがしょうがない。俺も思春期なんだから!


「俺の体を治す魔法は治すというより体の形とかを自由に変える魔法だから傷の状態とか全身のスタイルとかをしっかり確認しないといけないんだ。せっかく傷が無くなっても異形の体はいやだろう?ちなみに後遺症とかはないぞ。俺と赤髪のはミラっていうんだがミラもその魔法で姿を変えてあるからな」

「は、はあ。分かった。最初からそのためにわざわざ2人を退室させたの?」

「そういうことだ」


 シエラは顔を赤らめながら服を脱ぐ。本当に服1枚しか着てなかった。下着はつけてない。


 脱いだシエラを見て思ったことは、「酷い」だった。それしか表現のしようがなかった。


 まず上半身から。上半身は全体的に無数の切り傷があり、鎖骨は折れた時に十分に固定していなかったのか治りかけで、無理に動いたのだろう変な風に盛り上がっている。更に左肩から背中にかけて大きな焼けただれの跡がある。


 下半身は上半身に比べてそれほど切り傷の数も少ない。というか傷はすべて服の中にしかつけられてないから短パンレベルの服ではあまり傷をつける場所がなかったのだろう。奴隷にするなら傷は少ししかないだろうと思っていたがあまりにも酷すぎてかける言葉がなかった。


「…誰にやられた?さっきの連中か?」


 抑えようとしても殺気が滲み出る。それを感じたシエラは慌てて止める。


「い、いいの!私が悪いんだし…それにもうあいつらとは関わらないから」

「…そうか。お前がそういうならいいや。さて、お前もその姿でいるのは恥ずかしいだろうし俺もいたたまれない気持ちになるから早いとこ治そう。あ、今更だがこの魔法をかけると周囲が黒い霧に覆われて気絶させられる。それで気絶している間に色々いじって目が覚めたら終わりって感じだ」

「…うん、理解した。お願いします」


 俺はスタイルは変わらず傷だけを体から取り除いた姿を思い浮かべ魔法を発動させる。するとシエラの体は黒い霧に包まれ数分後霧が晴れると傷が無くなって白いきれいな肌をしたシエラが倒れていた。


「おーいシエラ、起きろー。終わったぞ」

「…ん…終わったの?」

「終わったよ。今鏡を出すから前と変わったところがないかよく見るといい」


 俺は指輪から姿見を取り出しシエラに自分の姿を映させる。そこにはさっきまであった傷が嘘のように無くなっていてきれいな白い肌が映っていた。


「…嘘…これが今の私…?」

「そうだ正真正銘シエラ。お前自身の体だ。あとお前の病気も体と一緒に治しておいたからあと数日で死ぬなんてことは無くなったんだが…その…お前に謝らなければいけなくなってしまった」

「…?何か問題でもあったの?」

「そのだな、言うの忘れてたけどこの魔法使うと寿命があほみたいに伸びるんだ」

「どれぐらい?」

「そうだな…俺らも同じぐらい伸びてるから俺らと同じぐらいは生きられる」

「そっか…。でも長生きできるってうれしい。…その…身勝手だけど2つ目の条件を聞く前に私の願いを聞いてもらってもいい?」


 シエラにとって長生きできることはいい事らしい。まあ途中で体の成長も止まるっぽいからお婆さんで数百年生きることは無いだろうけど…女性ってわからんなあ。シエラの願いってなんだろう。俺に叶えられる願いならなんでもしてあげたい。


「俺にできることならなんでも叶えよう。それで、どんな願いだ?」

「…えっとー、わ、私をソーマの仲間にしてもらえない…?」


 なんという奇遇。俺の2つ目の条件と同じじゃないか。


「それは俺らと一緒に旅にでるって事か?」

「そうなんだけど…だめだよね。私弱いしきっと足でまといになるだろうし…あんなに綺麗な女性が2人もいるんだから女手は足りてる…よね…」


 今は弱いかもしれないが、シエラは勇者だから鍛えれば化け物みたいになるはずだ。でも…俺ってそんなにエロく見られるんだ…すげぇ萎えるな。思春期だけどやっぱそこは傷つくわー。まあ朴念仁とか言われないだけマシだと考えよう。


「俺が鍛えるから足手まといには思わないしさせない。それに俺は仲間をそんなエロい目で見ない。…そっちから望むなら別だが…」

「じゃあ私が付いて行ってもいいの?」

「いいぞ。それに2つ目の願いも仲間になってほしいって言うつもりだったしな」


 許可がもらえたようで安心したようだ。シエラの目からとめどなく涙が溢れている。何かうちの仲間は全員涙もろい気がする。


「…うぅ…ありがとう…ありがとう…」

「これからよろしくなシエラ」

「…うん。よろしくソーマ」

「そろそろ2人を呼んでもいいか?」

「いいよ」


 俺は結界を解除して2人を呼んだ。ちゃんと呼ぶ前に服は着させた。


 部屋に入るなり涙を流しているシエラを見かけて2人はシエラの元に駆け寄った。そして俺をものすごい形相で睨んでいる。いつから俺は信用を失ったのだろうか…。


「ソーマさん。彼女に何をしたんですか!」

「マスター。我らはあれほど注意をしたはずだったんだが…我らの言葉は届かなかったのか?」

「…はぁ、お前らこそ勘違いするな。彼女が泣いてるのは俺が助けたからだ。何を助けたかは伏せておく。彼女のプライバシーを侵害するからな」

「そうだったんですか?」


 ミラの問いにシエラは涙ながらにこくこくと頷いている。


「そうじゃったのか…すまなかったマスター。我らはどうもマスターが他の女性と2人きりでおると落ち着きがなくなるようじゃ」

「うん、それを嫉妬って言うから覚えておけよ。さて…これから2人で話し合った事を言うからお前らちょっと彼女から離れろ」


 2人がよくわからない顔をしながらシエラから離れたところで2人にとっては信じられない俺の決断を聞話さなければならない。


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