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第72話 またいつか

「マ、マスター。それは…大丈夫なのか?」

「痛みは無い。鏡を見るまで気付かなかったんだから特に問題は無いと思う。ただ周りの問題がな…」

「確かにその目は周囲の人には怖く見られますね」

「だよなー…」


 既に魔王という事を王都に明かしてしまっている以上これ以上恐れられる心配はほぼ無いのだが、やはり目の色が違うだけでも結構話しかけ辛いだろう。


「それよりもソーマさん」

「全然それよりじゃないが、なんだ」

「もう何人かリアンに来たいと言っている人がいると防衛班の方から連絡があったんですが、どうします?」

「どんな人だ?」


 俺の目の変色などまるで無かったかのように話を続けるミラ。見た目以外に変化は無いので問題ないと判断したのだろうが、俺個人にとっては大分問題だ。眼帯をするなど対処を取ればいいだけの話だが、眼帯を着けたにしろ着けないにしろ必ず会った知り合いに「どうしたの?」的な事を聞かれるだろう。それを一回一回わざわざ答えるのが面倒極まりないのだ。


「どう見てもスラム街にいるような人らしいです。やせ細り、服も体も汚れているとか」

「そうか。なら出来れば今にでも迎えに行ってやりたいところだが、今行けばシエラにこっぴどく叱られるからな。今日はどこか宿でも取ってそこで待機させておいてくれ」

「分かりました」


 すぐにでも迎えに行きたいのだが、そうすれば隣でかわいらしい寝息を立てて寝ているシエラが鬼の形相で怒りだすだろう。さっきよりも良くなったとはいえ、完全に倦怠感が抜けきったわけではない。なのでまだ安静にするほうがいいと判断した。


「それでは我も失礼して」


 退屈に感じたのか、シェンがベッドの中に入ってきた。それ自体は構わないのだ。ベッドにはそれなりの広さがあるのでシェンが入っても窮屈だと感じることは無い。ただ、問題なのはシェンの位置だ。


「おい、何故俺にくっつく。熱いから離れてくれ」

「嫌じゃ」


 こいつ、俺の隣に密着するようにして来たのだ。しかも女を磨くと以前言った通りほんのり柑橘系の良い匂いがする。多分香水か何かでも使ったんだろう。一応用意はしていたが、シェンは今まで興味すら示さなかった物のはずだ。


「お前、香水使ったか?」

「む?バレてしまったか。どうじゃ?」

「どうって言われても…いいんじゃね?」

「むふふ…そうかそうか」


 どうやら俺の回答は気に入ってもらえたようだ。顔を赤く染めている。そして違う意味で顔を赤く染めている人がもう一人。


「むぅぅ…」

「どうした?ミラ。そんな丸っこい顔をして。それに顔も赤いぞ?熱でもあるのか?」


 もちろんそんなわけがない。どうせ嫉妬でもしているのだろう。ミラだってシェンが頑張って女作りをしているのを知っていたから俺が香水とかについて触れている時は黙っていたのだろう。


「もういいです。帰ります」

「おいおい、冗談だって。来いよ」


 演技だとバレバレの肩を落として帰ろうとするミラを止め、来いと言った瞬間まるで忠犬のように俺に向かって万弁の笑みを振りまきながら飛び込んできた。

 

「あぶねえ」

「うわわ!?」


 もちろんそのままだとぶつかってしまうので、腕だけでずらすようにして寝たまま軌道を変えて何もない位置に落とす。ミラは軌道を変えられ軽い悲鳴を上げながら俺の胸ではなく、ふかふかのベッドに顔面からダイブした。


「ふあぁ…ソーマ?それにみんな。何やってるの?」

「起きたか。見ての通りいい歳した女性2人に襲われてたから1人を返り討ちにしたところだ。お前も来るか?」

「うん」


 俺を見張っていた時に寝てしまったことは特に何にも思っていないのか、ただ単に寝ぼけているのか分からなかったが、シエラはベッドをハイハイで移動してシェンの横に寝ころんだ。


 これでミラ、俺、シェン、シエラという並びでベッドに横になったわけだが、そろそろ寝かせてほしかった。


「俺は普通にまだ治ってないから寝る。お前らも黙ってたまには仮眠を取っておけ」

「了解じゃ」

「分かった」

「ふぁふぁひふぁひふぁ(分かりました)」


 ミラだけ顔をベッドに押し付けたままになっているのは置いておこう。


 こうして俺たちはしばらくぶりに全員で仮眠をとることにした。



 最近年を取ったのか、別にトイレに行きたいわけではないが夜遅くに起きることが多い気がする。今も例外ではなく、ふと目が覚めると月ではない星の明かり以外真っ暗だったので夜だろう。


 問題があるとすれば左目がなぜか暗闇でも昼間のようにとはいかないが、普段使うには十分なほど明るく見える点だろう。まさか発光しているのか?と思い、鏡の前に立つが特に左目が光っているとかは無かったので一安心だろう。


 小腹がすいてきたので軽い食べ物を作りに食堂へと向かう…前にぐっすりと眠る3人をどうするか考えることにするべきだろう。


「別に起こして連れて行ってやっても構わんが、一応女性だし夜の食事は気にするだろうな。…ミラはそうでもないだろうが。と、なると黙って抜けて行っても大して文句は出ないだろう」


 ぶつぶつと独り言を言いながら起きないように部屋を出る。そしてそのままの足で食堂に行こうかと思ったが、しばらく風呂に入っていないことを思いだしたのでそっちに向かう。一応風呂には入れなくても体を濡らしたタオルで拭いたりはしていたので汚くはないだろうが、俺が長期間風呂に入らないのが嫌な性格だから風呂に入りたいと思った。


 脱衣所に入ると驚くことに明かりがついていた。もう俺専用の時間は過ぎているし、メイド班の掃除もまだなのでルール上使える時間帯だろうが、まさかだれか入っているとは思わなかったので意外だ。


 パパっと脱いで風呂場の扉を開ける。多分夜遅くまで仕事をしていた防衛班の誰かが入っているのだろうと思っていたのだが、違った。


「…ユウキか」

「あ!ソーマ様」


 浴槽から勢いよく上がり、跪こうとするので手で制止する。みんなには何回もそういう態度をとらなくてもいいと言い続けているのだが、彼らなりの自分と俺との身分の差というか、位の差というか、そういうけじめなのだろう。前までは耐えていたが最近はもう耐えきれなくなって制止するようにしている。


「よせ。そういう堅苦しいのは嫌いだって前から言ってるだろ?それともあれか?俺をおちょくってんのか?」

「いえ!そ、そんなことは…ないです」


 ずっとうつむいて話しているせいか、俺の目の異変には気が付いていないらしい。気の弱いユウキの反応を最高基準としてうちのメンバーの大体の初見の反応を予想したいので、見てもらわなければいけない。これで大して驚かれなかったらそれはそれで予想外れなのだが。


「おいユウキ。一回俺の顔を見てみろ」

「え?…うわ!?」


 ユウキが俺の顔を見た瞬間、驚きで顔が青ざめた。それ自体は想定内だったのだが、その後にあまりにも怖かったのか後ろに座ったまま後ずさりをしたのだ。後ろには風呂。当然見事に体勢を崩して頭からお湯にドボーンした。後ずさりをしているので普通なら手から落ちるはずなのだが、なぜ頭から落ちたのか理解できなかったが、その前にユウキを救助することの方が先だろう。


 幸い浴槽は浅いので簡単に助けられたし、ユウキも突然の出来事に気が動転して軽くお湯を飲んだだけで済んだ。いくらこの世界に風呂という概念が浸透していないと言っても、4神の内の1神がお湯におぼれるというのは恥ずかしい話だ。


 さすがにそれはユウキでも分かっているらしく、飲んだお湯をむせるようにして吐きながら顔をのぼせたのとは違う形で赤く染めている。


「おいおい、何やってんだ」

「す、すみません。ちょっとビックリしちゃって」


 そのすみませんが、俺の目を見たときに驚いたことによるものなのか、それとも溺れかけて助けてもらったことによるものなのかははっきりしないが、おそらく両方だろう。今も、顔を伏せてまだお湯を吐いている。


「で、どうだ?感想は」


 少し落ち着きを取り戻したユウキに感想を聞いてみる。さすがに俺もずっと風呂場で風呂にも入らずに突っ立っているわけにもいかないので2人で風呂につかりながらだ。


「えっと…正直に言うと…怖いです」

「そうか?お前の仮面と同じ位だと俺は思うし、周りもそんな感じだと思うが?」


 多分目の前にこの目の俺か、ユウキの仮面を着けた俺のどちらかが立っていて、どっちが怖いかと聞いたらかなりの人が仮面の方だと答えるだろう。


「そ、そうですか?あの仮面結構僕は気に入ってるんですけどね」


 なるほど。こいつの目はいかれているという事か。まあどちらも怖いことに変わりはないのでこの程度で言い争っても意味がない。


 この後、ユウキと一通りの風呂を楽しんだ。あまり喋る機会が無く、いつも弱気だと思っていたがそれは単純に打ち解けていないからであり、この時間に少しは仲良くなったのでユウキの喋りも以前のようなオドオドとした感じではなくなったように感じる。気のせいかもしれないが。


 俺たちが風呂から上がった時は既に日が昇り始めて来たころであり、露天風呂へ続く道から明かりが漏れている。


「やっべ。またあいつらに叱られるな。とりあえず俺は部屋に戻る。そのうちこの目の事だとか新しい国民の話だとかで呼ぶだろうから。いつでも謁見の間に行ける準備をするように一通りのメンバーに声をかけておいてくれ」

「わ、分かりました」


 内心結構焦りながら着替え、部屋に戻る。転移は使ってもいいのだが、万が一を考えてまだ使わない。それは焦っていてもだ。


 恐る恐る扉を開けると、最悪な事にミラが起きていた。椅子に座って何か考え事をしている。あわよくばそのまま考え事をしたまま気づかずにいてくれればいいと思い、こそっとベッドに戻ろうとするが、ダメだった。


「あ、ソーマさん。おはようございます」

「あ、ああ。おはよう」

「どうしたんですか?」

「いや、俺が療養中に抜け出したことについて何も言わないのか?」


 いつものミラだったら顔をハリセンボンのように膨らまして「もー!ソーマさんどこに行ってたんですか!?心配したんですから!」と言ってくるのだが。今回は何も言わない。


「いえ?もちろん言いたいことはいっぱいありますよ?自分で分かっていながらどこに行っていたのか?とかです。ですが、今はソーマさんが何事もなく帰ってきただけで十分です。歩いてきたってことはまだ魔法系は使ったらダメだと思ったんでしょう?だとしたら今から少しでも寝て体調を戻してください」

「分かった。悪いな、気を使わせて」

「気にしないでください。これでもこの中でシェンさんとはほんの数時間の差ですが、1番長く一緒にいるんです」

「ああ、そうだった…な」


 本当に眠くなってきたので適当に返事して、まだシエラとシェンが寝ているベッドに倒れこむようにして寝た。


 完全に眠りにつく直前にミラが考え込んでいた原因について考えてみたが、結果は出なかった。だが、ミラが悩んでいる原因が俺にあることはまだ知らない。

まだ完結していないので、終わりではありませんし、身勝手ではありますが、ひとまずこの「異世界生活~魔王になったから好き勝手やってみる~」の投稿を中断させていただきます。


理由は構想は出来ているけど、リアルの生活が忙しすぎて書く時間がないということと、ユカリがいなくなってからの世界に自分自身興味が持てなくなったという事が大きいです。


その代わりと言ってはなんですが、今現在投稿する前にテストで書いた物語を少しずつではありますが書き始めています。ジャンルは変わらず異世界物です。


この物語と似ている部分はあるかもしれませんが、許してください。


今書いている物語が終われば(また中断するかもしれませんが)ちまちまとこっちの方に手をつけていきたいです。


楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご理解をよろしくお願い致します。


なお、新しい物語の投稿は早くて1ヶ月程になると思いますので、よろしくお願いします。(確認や、ストックを作っておきたいので)


それでは次回作をお楽しみに!

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