第70話 武闘大会
あの後無事に3人の誤解を解き、無理のない程度で連れてくるなら大丈夫という条件付きではあるが、許可をもらった。
それからは特に何事もなく過ごし、夜にリアンの周囲一帯を予定地に転移させた。今まで人しか転移させたことがなかったので建物も出来るか心配だった。結果からすれば出来たのだが、1軒1軒の建物しか一度に転移でなく、効率が悪かったので土地ごと転移門で送ってしまった。感覚的にはそれこそ天大陸にいるような空を浮遊する感覚をわずかに感じた程度だ。
転移させた後は、疲れがどっと出たのでそのまま寝てしまった。転移させた環境はあまりリアン周辺と変わらず、四季ははっきりとしているし、気温もあまり変わらない場所を選んだので風景が変わっているだけに感じるだろう。それも、元のような山に囲まれた盆地ではなく、だだっ広い草原が広がっているだけの景色だが。アレンの転移門はそのまま残しているので今アレンで働いている人には何の影響もないはずだ。
国民にも寝る前に寝ている間に移動させることは伝えていたので、朝になってもそれほど驚きはしなかったようだ。事前に環境の変化があまりないことを伝えておいたのも驚きが少なかった原因の一つかもしれない。
そして今俺は王都に来ていた。今回武闘大会が行われる闘技場は、以前エミリーさんと初めて会った聖騎士用の闘技場ではなく、かなりの人数が入れる大きさの円形闘技場だ。いつの時代も競技する場合の建物は円形らしい。
俺はまだ闘技場の外にいるのだが、外からでも聞こえるほどの大きさで歓声が上がっている。剣士、武闘家、魔法使いなど様々なジョブの人たちが闘いあうイベントだ。熱狂するのも無理はない。
今回かなりの人が収容できるので魔法学校の生徒が全員招待されていた。もちろん俺も招待されていたのだが、学園長に訳を話して朝のうちに断った。
断った理由はただ一つ。
「こちらですソーマ様。この道を進めば聖王陛下の待つ特別観戦室に辿り着きます」
「ああ、分かった」
俺はアレクサンダーさん直々に招待されていたからだ。さすがにこっちを断って魔法学校の招待に応じる気は無かった。
アレクサンダーさんも俺のリアンの紹介をさせやすくするために考えを練ったうえでのこの招待だったようだ。もちろん断らずに行くが。
執事に案内されて闘技場の通路の1つを進む。するといかにも王族が使いそうな闘いをする場所らしからぬカーペットやシャンデリアで飾られ、ガラスのような透明な壁で安全に闘いを見れるように作られた部屋に辿り着いた。
中にはアレクサンダーさん、エミリーとおそらくアレクサンダーさんのただ1人の奥さんがいた。エミリーはこの前にあった時にさん付けは止めてと言われたので止めた。
「おお、ソーマ殿。そなたが最後であったぞ」
「済まない。準備とかに時間がかかった。というか多分そこの女性がアレクサンダーさんの奥さんだろ?」
「ああそうだ。私の正室、“エミーリア”だ」
「始めましてソーマ様。あなたの事は聞いております。何卒よろしくお願いいたします」
エミーリアさんは王族らしい長いスカートの端を軽くつまんで挨拶してきた。アレクサンダーさんによるとエミーリアさんは俺が魔王だということやリアンの国王だという事諸々を話してしまっているらしい。その上でこの反応という事は敵対はしていないようだ。あくまでアレクサンダーさんの1友人として捉えているみたいだ。
「こちらこそよろしく。というかアレクサンダーさん。さすがにこの場に俺がいるのは場違いじゃないか?」
「まあそういうな。エミリーとエミーリアたっての希望だ。呑まんわけにもいかんだろう。ソーマ殿は嫌か?」
どうやらこの状況はエミリーとエミーリアさんの要望で決まったらしい。なんでもエミーリアさんが俺の説明をするときに優しい魔王とアレクサンダーさんが言ったらしく、ぜひ話してみたいという事になったようだ。エミリーについてはまあ単純に近くに居てほしいとかそんな感じだろう。俺との結婚を諦めた今でも狙ってるみたいだからな。それは本当に諦めたことになるのかどうか怪しいところだが。
「俺は別に構わんが…」
「久しいわねソーマ君」
「…ああ」
「な。何よその返事は!…まあいいわ。それにしても元気にしてたかしら?」
「一応はな。それにしてもその可憐な衣装を着ているってことは今日の大会は出ないんだな」
「私だって出たかったわよ。でもお父様とお母さまがダメっていうから仕方なく諦めたのよ」
「そうか」
いつものようにギャーギャー言ってくることに変わりは無かったが、両親がいるという事で今は少し控えめだろう。エミリーも武闘大会には出たかったようだ。だが普通に考えて万が一死ぬ可能性だってある武闘大会に聖王国の王族の一人娘を出させるわけがない。誰でもそうする。エミリーもそれを何となく分かっているからこそ渋々諦めたのだろう。
まだ大会が始まっていないので、それまでアレクサンダーさんと入念に打ち合わせした。打ち合わせと言ってもこの武闘大会には大会の最後にアレクサンダーさんと闘えるエキシビジョンマッチ的なものがあるのだが、その前に俺が登場してリアンの紹介諸々をするという確認をしただけだ。
そろそろ時間になったらしく、出場選手が登場し始めた。剣士もいれば魔法使いもいるわけだが、当然俺に勝るような人はいない。俺もそうだが、エミーリアさんは武闘大会にこれっぽちも興味を示していないので、開会式やらなにやらが行われている間は暇なのだ。なので色々と話すいい機会になった。
話したと言っても重要な話ではなく、誰でもするような世間話だ。一般人の世間と王族の世間では価値観が違いすぎるので俺でもよく分からない話や賛成しかねる話などたくさんあったが、エミーリアさんは身分を忘れて話していたのだろう。かなり笑顔になる場面が多かった。
今更だが、さすがはエミリーの母親。かなりそっくりである。少し違うとすればエミーリアさんはエミリーのように活発に動くタイプではないらしいのでエミリーよりも筋肉がないように見えるだけだろうし、それと髪の色も金髪ではなく茶髪だ。それとエミリーは髪をポニーテールにしているのに比べ、エミーリアさんは長く伸びた茶髪をそのままストレートに降ろしているところだろう。
「ソーマ殿。もう武闘大会は終わったぞ。そろそろ準備をした方がよいのではないか?」
「ん?もう終わったのか。エミーリアさんとの話が以外に楽しくて時間を忘れていたか」
「あら、もうお終いですの?今度お時間がありましたら是非またお話ししましょう?」
「分かった。また近いうちに来るだろうさ。俺がこの国に受けいられればな」
エミーリアさんと話をしているうちに既に武闘大会は終わったらしい。別に興味もないので誰が優勝したかなどは聞かなかった。エキシビションマッチは優勝した人と行うので後で見ることになるだろう。
俺も準備があるのでアレクサンダーさんに普通に進行するよう頼んで闘技場の外に出る。今回の作戦ではまず俺の顔がバレないようにする必要があるのでユウキから借りたまま返すのを忘れていた仮面を着ける。魔法学校の生徒にはバレるだろうが気にする程度ではない。
外に出て仮面を着けた男がただただ闘技場の外で立っているという異様な光景を周囲にしばらく晒した後、盛大な歓声と共に女性のアナウンサーがアレクサンダーさん入場のアナウンスをし始めた。多分声を拡張する魔道具でも使っているのだろう。異世界版マイクだな。録画をする魔道具もあったし、これぐらいあっても不思議ではない。
対戦者が入ってくる前にアレクサンダーさんがいくつか話す予定だ。その後に俺が登場する段取りになっている。
「ごきげんよう諸君!今回の武闘大会はどうだったか?楽しんでいただけたのなら何よりだ。だがこれで終わりはなく、これから少しだけもっと楽しんでもらえたらこちらとしては嬉しい限りだ。それでは恒例の私と優勝者のエキシビションマッチを行う!…の前に、いくつか紹介したいことがある」
拡声の魔道具で大きなアレクサンダーさんの声がこっちまで響いてくる。元々声が大きいアレクサンダーさんに拡声器はいらないと思う。
「それではまず初めに私の友人を紹介したいと思う。皆!上を見てくれ!」
そう言われれば誰もが上を見るだろう。普通なら上を見ても空しかないはずなのだ。ただ今回は違った。上にあったのはどこまでも続く空と、闘技場の外からジャンプで飛んだ俺だった。
空高く飛んだ俺はある程度の高さで闘技場の真ん中あたりへと自然落下し始める。一応パフォーマンス的な物なので〈フライ〉を使うことなくそのまま落ちる。
とんだ高さは30m程なので怪我すらもしない。跳んで落ちるだけだ。それでもかなりの衝撃があったらしく俺が着地したとき大量の砂ぼこりが舞った。
「紹介しよう!私の友人ソーマ殿だ!」
周りが一瞬静まった後、大歓声が沸く。ほとんどの人があのパフォーマンスに歓声を上げる中、魔法学校の生徒は俺が聖王であるアレクサンダーさんと友人関係にあると知って歓声を上げたというよりか驚いたのだろう。この仮面も初日だけ見せたことがあるので記憶力にある者はすぐに俺だと気づくだろう。
「あーあ、紹介があったように俺がソーマだ。仮面を着けてる理由については今は省かせてもらう。今回ここにいるみんなだけじゃなく、王都中にいる人々にあらゆる手段を使ってこれを見たり聞いたりしてもらっている」
アレクサンダーさんから拡声器をもらって挨拶する。拡声器というかマイクだ。今回学園長に協力を依頼して、撮影型の魔道具を借り、それを直接俺が各地に作った氷の壁に投射している。撮影型の魔道具で撮った映像をそのまま俺が作った投射型の魔道具で投射するという感じだ。簡単に言えば氷のスクリーンだ。
「おれが伝えたい事はいくつかあるが、まずは早速だが俺の本性を公開しよう」
そういうとアレクサンダーさんにマイクを返し、仮面をはぎ取る。すると周囲から真っ黒な霧がモクモクとどこからか沸き上がり、俺とアレクサンダーさんの周りを完全に隠してしまった。
そしてしばらくして霧が消え、出てきたのは完全に魔王化し、全身がどす黒く、赤い奇妙な模様が浮き上がった俺と、リアンにいるはずのミラ、シェン、シエラやユカリを覘く4神。更には何体かの竜だった。
すみません!また遅れてしまいました。




