第13話 マイホーム①
俺が部屋に戻るころには家を作り始めてからすでに3時間が経過していた。3人はすごく怒っていた。シエラはそれほど怒ってはいなかったようだ。
「ソーマさん!今まで何やってたんですか?念話を飛ばしても返事がないので心配したんですよ!」
「まったくじゃ。マスターが待てと言ったからずっと待っておったのじゃ。おかげでご飯を食いそびれたわ」
「お腹空いた」
別にずっと待っててくれなくてもよかったんだがそれをしないのが3人のいいところでもあり、悪いところでもある。
俺はそんなことを十分知っているので3人に謝る。
「まじで申し訳ない。まさかこんなに時間が経っているとは思わなくて。念話に答えられなかったのも集中していたからだと思う」
「そうだったんですか、安心しました」
「それだけ集中していたと言う事はきっと立派な風呂が出来たんじゃろうなマスターよ」
「お風呂よりもご飯が食べたい」
「安心してくれ。納得のいく風呂が出来た。シエラの言う通り風呂の前にご飯にしよう」
「どこかに食べに行くんですか?」
ミラがフリをしてくれたので待ってました!と言わんばかりに答える。
「謝罪の気持ちも込めて俺が料理を振る舞おう。3人とも招待しよう“我が家”へ」
とりあえず3人の手を取り裏庭へと転移する。転移した先にあったのはさっき俺が3時間かけて作った指輪に収納できる自慢の移動式住宅だ。
3人は目の前にいきなり家があらわれて度肝を抜かしている。まあこの反応が欲しかったんだけどな。
「どうだ?俺の作った“風呂がついてる家”は」
「こ、これをたった3時間で作ったのか?マスター」
「…信じられない」
「信じられないだろうが正真正銘さっき作った。というか前世の俺の家を元にしてるから結構簡単だった」
シエラとシェンが家をずっと眺めている間、ミラは何かに気が付いたようだ。
「ソーマさん。あの家の後ろの方にある物はなんですか?」
「あれか?あれは魔力を貯めるタンクだ。何に使っているかの答えは全て家の中にある。入ってくれ」
ドアを開けて3人を中に入れる。そしてスイッチを押すと明かりが付き、廊下を進んで扉を開けると広いリビングとダイニングキッチンがお出迎えしてくれた。
「なんじゃここは?すごく広いのう」
「ソーマさんあそこにある大きい四角い箱とか台ってなんですか!?」
「あれは俺の世界にある料理道具だ。あの大きい四角い箱が冷蔵庫で食べ物を冷やして保存するときに使う。そして小さい四角いが電子レンジで逆に物を温めるときに使う。台はIHヒーターと流しがあってIHは物を焼くときや煮込んだりするときに使って、流しは食べ物や食器を洗ったりするために使う。しばらく使えば慣れるさ」
「「「…?」」」
3人とも首を傾げている。いきなりIHやら電子レンジやら初めて聞く単語をたくさん出されれば処理が追いつかないものだ。
俺だって初めてのゲームとかやったときも知らない単語ばっかで放り投げようとした時があった。ちゃんと最後までやったけどな。
「ここはミラと俺しか使わないだろうから少しづづ覚えていくといいよ。さてそろそろお腹が限界だしご飯でも作るかね。ミラ、どんな食材買ってきた?」
ミラは指輪から食材を取り出す。肉に魚、野菜などたくさんの種類の食べ物がそろっている。そういえば小麦から〈クリエイト〉で麺は作れるのだろうか?できたら今日の晩飯はラーメンだな。
ソーマは小麦に〈クリエイト〉をかける。するとみるみるうちに細くなって麺が出来た。
「おお!できるじゃん!ってことは〈クリエイト〉を使えばアイスとかもできるのか?やべ料理って楽しいな。」
1人で喜んでいる俺を見て不思議に思ったシエラが問いかけてくる。
「ソーマ、何やってるの?早くご飯食べたい」
「悪い、ちょっとした実験をしてただけだよ。今日の晩御飯はラーメンだ」
「「「らーめん?」」」
「俺の国のおいしい料理だ」
俺は3人のこの家についての質問に答えながら、手っ取り早くラーメンを茹で、調味料で醤油スープを作った。まだ足りないと思ったのでこっちには貴重品の塩コショウで味付けした野菜炒めも作っておいた。
俺が料理を作れるのには秘密がある。秘密といっても俺の両親は共働きで帰ってくる時間が遅い。そのためだいたい晩飯は俺が作ってた。だから大体の料理は作れた。お袋の味ならぬ息子の味だ。
「ラーメンと野菜炒めだ。口に合うかは分からんがまずくはないと思う」
だが誰も何もしない。ただ“箸”を見て首を傾げている。最終的にシェンが聞いてきた。
「マスター、この木の棒でこの料理は食うのか?」
「あたりま……あ!そっかこっちでは箸の概念がないのか!」
忘れてた。ここ異世界だったわ。飯はスプーンかフォークで食べるのが基本なんだっけ?ジェームズさんの時もスプーンとか使ってたわ。
急いでフォークを取り出してみんなに渡す。
「すまん。俺の国はこの箸を使って食べるんだ。完全に誤算だった。フォークでも食べられんことは無いからとりあえず食べてみてくれ。…いただきます」
俺は箸でラーメンを掴み口に運ばせる。結構うまい。久しぶりに食べたというのもあるだろうがあまりにもおいしいのですぐ食べ終えてしまった。
それを見ていた3人はフォークで何とか麺を掴み食べる。その瞬間3人に電撃が走ったようだった。
「おいしい!ソーマさんこれすごくおいしいです!」
「この細いものとスープを同時に食べるとよりおいしいぞ。マスターこの細いやつはなんというのじゃ?」
「麺。小麦を粉にして、水を加えて伸ばしたものだよ」
「麺ですか…このラーメンの他にも麺の使い道はあるんですか!?」
ミラが興味津々なようで食いつき気味に話してくる。どうやら麺に興味をもったようだ。まあ料理が得意らしいから新しい未知の食材に興味を示すのは当然か。
「この太さなら作れるのはやきそばかな?もっと太くするとうどんとか、そば粉を混ぜるとそばとか作れるよ」
あれ?この世界にそば粉なんてあるのかな?と思い、〈クリエイト〉で作ってみた。そうしたらそば粉の前の実の方が出来た。これを惹かなければいけないのだけれども、そば粉は作れるという事が分かった。ミラ達に聞いてみたらその辺に生えてる雑草だと思っていたとの事。まあ森にこんなの生えてたら確かに雑草だと思わなくもない。
「よくわからないですがおいしそうな名前ですね!」
「出来るかはわからないけど良かったらレシピ教えるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
まず小麦粉から作らなければいけないので時間はかかるだろうがミラが作った物は基本何でもおいしい。レシピといってもそば粉を小麦粉の入れる比率など知らない。でも十割そばとか二八そばとかあるらしいから適当にやればいずれうまいそばに会えるかもしれないな。
ようやく3人がラーメンを食べ終えた。みんな満足そうな顔をしている。作った本人の俺が言うのもなんだが意外とうまかった。麺の細さでゆで時間も違うのだが、今回は奇跡的にいい感じの時間だったようで、硬すぎず柔らかすぎずのほどよい茹で具合だった。それと醤油味のスープもおいしかった。
「美味かった?」
「はい!大満足です」
「うむ。異世界の料理はこっちと違ってうまいかったぞ。久々に新しい味に出会たわ」
「おいしかった。感謝」
どうやら満足してもらえたようだ。おなか一杯になったところで風呂の話をするか。
「さて、おなか一杯になったし一息つきたいと思うが風呂に入ってもらいたい」
風呂の入り方や道具の使い方についてはラーメンを作っている間に説明したので問題はないと思う。説明した途端色々な質問で返されたが。
3人は誰が入るのか話しているようだ。いや3人で仲良く入ったらいいじゃん。そのために洗い場3つ作ったんだし、と思ったので聞いてみよう。
「誰が入るかで揉めてるようだけど、3人で入ったらいいじゃん」
「だって私たち3人が入ったらソーマさんはどうするんですか?洗うところが3つしかないならソーマさんが一緒に入れないじゃないですか」
「…は?」
何言ってんだ?こいつ?というか誰が入るかで揉めてたんじゃなくて俺を入れるために誰が入らないかで揉めてたのかよ。なんで俺が女の子と一緒に風呂に入らなければいけないんだ。…入りたくないと言ったら嘘になるけど。
「あのな?まず俺がなんでみんなと一緒に風呂に入らなきゃいけないの?一応俺は男なんだけど」
「逆になぜ性別の違いでマスターと一緒に風呂に入ってはいけんのだ?」
俺の問いをよくわからなそうに答えるシェン。シェンの疑問に2人も賛成しているようで首を傾げている。質問に質問で返された。
「え、だって男に体を見られたくない!とかさ、そういうのないの?」
「私たちはもうソーマに体を見られてる。だから何も問題ない」
あ、もう1回見られたから大丈夫的な感じなんですか?確かに見たけども…そういう言い方だとミラが…。
「というかいつみなさんの裸を見たんですか!?私はソーマさんに姿を変えてもらったのでもう見られてますが…」
シエラの誤解を招くような発言にすぐさま反応するミラ。ほらな?そう来ると思ったんだよ。
俺は記憶をたどり、そして思い出した。
「確かにみんなの体見たわ。ミラの時はミラの言う通り姿を変えるときでシェンは俺がシェンに夜遅くに起こされたときに、シエラはミラ同様姿を変えた時に見た。あれ?でもなんであの時俺は冷静だったんだ?…まさか」
思えば俺はミラの姿を変えるときに裸を見た。でもその時は何も思わずに服を渡した。
俺はまだ思春期真っ只中だ。その時に女性のしかも全員のすばらしい体を見れば俺の息子が反応するはずである。しかし何の変化もなかったという事は息子の機能停止の可能性があるということである。
「魔王になったことで息子が死んだのか…」
信じたくないけど一番可能性の高い事がそれだった。
「マスター?風呂に入りにいかんのか?今回は我が休むからマスターは2人と風呂に入ってくるがよい」
「…すまん。ちょっと1人にしてくれないか?とりあえず3人で入ってきてくれ」
「そんなにマスターの息子が死んだことが悲しいのか?」
お前が息子とか言うなよ!と思ったが言葉にできるほど元気が湧かない。
シェンはそんな俺を見かねて助言をくれた。
「ならなおさら風呂に入ってきたらどうじゃ?2人を性的な目で見て何も感じなかったらそこまでということじゃ」
なるほど!そういう手があったか。確かにあのときはそういうことを考えてなかったからな。でも2人って事はシェン自身は入ってないのか。なんて謙虚な奴だ。
「そうか!ありがとうシェン。おかげで少しは元気出た」
「それは良かった。では行ってくると良い」
「それなんだが…お前もはいれるぞ?」
3人ともきょとんとしている。さっきまで誰が入らないかで揉めてたのだからそうなるだろう。しかし考えなかったのだろうか。洗う場所が3つしかないからといって、3人しか入れないわけじゃないし、1人は湯船につかってれば済む話だと少し頭をひねれば風呂の情報を聞いたばかりでもすぐに思い浮かぶはずなのだ。こいつら頭が固すぎる。もう少し頭を柔軟にしないとだめだな。
「それはどういう事ですか?ソーマさん」
「だからな?3人しか洗えないなら余った1人は湯船につかってればいいだけだし、風呂を作ったのは俺だぞ?洗い場をもう1つ作るなんて造作もない」
「あ!確かにそうですね。すっかり忘れてました」
「さすがはマスター。頭が回るのお」
「さすがソーマ、すごい」
普通に考えれば思いつくだろ、と言いたかったが言ったとこで意味が無いのでやめておく。
風呂に入る前に脱衣所で服を脱がなければいけないわけだが、3人ともかごがあるにも関わらず服を脱ぎ捨てる。
そしてそのまま風呂場に行こうとするもんだから慌てて止める。
「おいお前ら!脱いだ服はちゃんとかごに入れるって説明したろ?」
「なぜそんなことをせねばならんのじゃ?後で着るからよいだろう」
「ちゃんと私はたたみましたし、何か問題でもあるんですか?」
「じゃあ私もたたむ。ミラ教えて?」
「いいですよ。簡単ですからね」
何か盛り上がってるし、確かに服をたたむことは大事だけどそこじゃない。
「かごに入れないと洗濯しづらいだろ?あと指輪から替えの服取り出して自分の名前の書かれた棚にしまっておけよ?俺は大丈夫だが間違えることのないようにだ」
一応この家は野宿用だから全部の服を入れる必要はないが予備のために入れておいて損はない。それに洗濯して乾くまでの間に着る服もいるしな。
「洗濯なんて川でできるじゃないですか」
「それだと時間がかかるだろ。この洗濯機なら自動で乾燥までやってくれるんだ」
洗濯機を指さしながら自慢げに語る。別に開発したわけじゃないが…。あと洗濯機についても説明したつもりだったんだけど。
自動という単語に興味を示したのは意外にもシエラだった。
「自動で洗ってくれるの?私にも使える?」
「誰でも使えるぞ。まず洗濯機の蓋を開けて中に服を入れる。そのあとにこの洗剤を適量入れて、「運転」スイッチを押すだけ」
普通に服を放り投げて洗剤を入れてスイッチを押す。ゴウンと音が鳴り洗濯機が動き出す。もちろんドラム式です。今時2層式とか使いたくありません。それを3人はじっと見つめている。このままだと止まるまでずっといそうなので早く風呂に入るように促す。
「ほら、さっさと風呂に入らないと全裸だと風邪ひくぞ。洗濯機なんてまた使うんだから」
「いつまでも見ていたくなりますがそろそろ寒くなってきましたね」
「うむ。風呂に入るとするか」
「賛成」




