訓練
「ん、きたきた。こっちだよ...ってなんでそんなににっこにっこしてるの?」
赤い髪を一本にしてそれを左右に揺らしながらテトラは待っておった。
所定の場所はあまり目立たん、林の草むらの奥。
なんか秘密基地みたいな場所じゃのぉ。
実際、実用的なものが転がっておるし。
で、わしらそんなにニコニコしておったのか?
って、まぁ、主にメルがというところじゃろうか。
魔法が何ひとつまともに出来ないという評価だったのに、使用した光の魔法が役にたてたことが嬉しかったのじゃろう。
だんだんと実感が湧いてきていたというところじゃな。
自信は良きことへの切符じゃからな。
「えへへ、実はね」
メルもよほど嬉しかったのかにこにことしながら理由をテトラに話した。
はじめはなんだろと興味津々であったが聞くにつれ顔が真顔になり、次いで難しい顔をになり、最後になにか決心した顔になった。
その変化する表情に話していくメルは不安に駆られたのか、話し終えて
「どうしたの?」
そう尋ねた。
「ううん、ちょっとね。改めて言うけど、あなた、酔ったハジェイトン先生をまぁ、撃退した、でいいのよね」
「う、うん。撃退、というか目を眩ませたというか」
「そっかぁ」
そういって声を落とした。
あ、ちなみに担任の先生の、ハジェイトン。
というか、ちょっとひっかかるものもあったが今は置く。
「うん、それならそれで訓練はみっちり行わないとね」
「どういうこと?」
気合を入れるテトラに疑問顔のメル。
「だって、あのハジェイトンよ。私もちょっとね、関わったことがあるけど、粘着質な先生よ。目をつけた生徒に対しては特に」
そういいながら入念にストレッチしていく。
「あなたも。ほら私の真似しながらきいて」
「あ、はい」
そういって、お互い体操しながら話し続けていく。
「私ね、けっこうこういうふうによく動くけど、これって貴族にはあまり体裁のよくないことみたいなのよね」
「そうなんですか?僕は、わりといいことだと思うけど」
そうじゃそうじゃ。儂も体操しながら聞いておるが、ある程度の体操は心身の健康には重要なことなんじゃぞ。
「ふふ、あの先生にこのことについて話したことあるけどなんて行ったと思う?」
「なんて?」
「まるで、冒険者みたいな輩のすることだなってさ」
そういって、顔を曇らせる。
「冒険者は迷宮の底へと降りるだけの盗掘屋。そこから沸く魔物を防ぐだけの壁。そんな下賎なやからにならず国防のためより強気魔物と戦う気概を持つ以上に全体を見わたす視野を持つ勉強に時間を費やせってさ」
「そうなの?」
「・・・・そんなわけない。迷宮の魔物は実際見聞きするけど外の魔物と遜色ないくらい強い」
『誰から聞いたんじゃろ?知っているような口ぶりじゃな』
「・・・・誰から聞いたの?」
わしの念話で通訳してくれる。
「私の、友達だった人よ。でも、もうこの学園からいなくなっちゃって、冒険者やってたから」
ということはその人からいろいろ聞いたということなんじゃろうな。
にしても、気にかかる言い方じゃのォ。
なぜに過去形?
「・・・・ほら、やめやめ。気分が暗くなるし、訓練も訓練にならなくなっちゃうし、何よりお腹がすいちゃうわ」
おいおい、気になるひきはやめてほしいのぉ。
ま、話したくないという気持ちもあるのなら致し方ないが。
「それよりも、さて、体操もほどがいいし、やめて、改めてやっていきましょ」
そういって、いざ訓練開始・・・・・
というところではたとテトラは何かに気がついてはっとした。
「あ、そういえば、えっと、ダンジェス君は」
「えっと、あの、僕、メルでいいです」
「そう?ならメル君は魔法ってどのくらいできる?できたら、身体補助系かもしくは無害なやつでずっと出し続けられるのがあればいいんだけど・・・・って、一年次にはちょっと無理な相談だったかも」
そういって、難しい顔をされたが、なに、だいじょうぶじゃ。
ちょうどいい魔法なら昨夜やったばかりじゃしな。
「だいじょうぶです。できます」
「え?できるの?だって、まだ実技とかまともに習っているわけではないはずだし、何よりもあなたって・・・」
まぁ、確かに良い評判はないな。
でもここから覆していくんじゃ。
「だいじょうぶです。さっき話しもしましたけど・・・・光を――」
と、短詠唱で唱える。
うーむ、メルは魔力は確かに弱いかもしれんがこういところは器用なんじゃよなぁ。
わずかに習って習得できる。ただ、使えるかは別というところなんじゃが。
ともあれ、効率化するにあたって並々ならぬものがある。
前のゲーム内なら知力値といったところか、それが高いという判断になるんじゃが。
其の辺が現れていないのでなんとも言えんがな。
「へぇ、それが・・・・って、光の魔法ってけっこう先のやつよね?!なんで一年次のあなたが使えるの?ひょっとして魔法使えないのは嘘じゃ」
「いやいや、僕、これくらいしか使えないし、あとは弱めの無属性魔法の玉くらいしか使えないけど」
「そ、そうなの?でも四大属性を飛ばしてその派生が使えるのは・・・・すごいわぁ」
そう言われると照れるのぉ。
おお、メルも赤くなって。
「じゃあ、それならその光をずっと出し続けられる?」
「うん」
「じゃ、早速」
そういって、テトラがメルの背中に回って両腕を互い違いに組んだ。ちょうど背中合わせの格好というかはたでみたらおしくらまんじゅうしているみたいじゃの。
「え?え?」
「ほら、じっとして。さて、じゃあ、まずは軽く魔力の循環しながらストレッチ、かな。なんかはじめてやるからわくわくするわ」
にこにこして行っているところ悪いが前置き抜きでいきなりじゃからぽかんとしておるぞ。
というか固まっておるぞ。
「あ、あの先輩、いきなり」
「ん?ああ、ほら、これが訓練よ。お互いずっと魔力を使い続けつつ、魔力を流し合うようにするの。相手の魔力に飲まれちゃダメよ」
そう言われて、「あっ」とメルが声を出す。
「わかった?私もあなたの魔力がわかるけど・・・・うーん、確かに弱めか。これじゃ、私のが強すぎるわね。なら、抑えてっと」
ふむ、肩の力を抜いて言って、だんだんと流れていく感覚がよくなったのか、身をよじっておったメルが徐々に自然体な格好へと向かっていった。
「・・・いいかも」
「でしょ。このままこれを維持しつつ徐々に負荷をかけていくからね。今はまだ私のほうが強いけど、そのうちあなたも強くなっていくからね」
んー、天凛が邪魔をするかもじゃが、この学園の普通の訓練をするよりもよほど有意義な気がするの。
あれは傍で見ればただぶっぱしているだけじゃしな。
あとメルには役得やも。
「じゃあ、次は座って、体の負荷をかけつつ前屈~」
そういって、メルの背中にのしかかるように前のめりになったが・・・・
これはこれで・・・・
「・・・・・っ」
ちょっと痛そうじゃが、顔を真っ赤にしておる。
うむ、そうじゃな、背中に胸を押し付けているようなそんな格好になるものな。
勝気なお姉様による手とり足取り講座・・・・
うーむ、見ててちょっとたぎるわぃ。
おっと、まぁ、お互いに邪な気持ちがないだけよいことか。
さて、儂も純な気持ちを邪魔してはまずいの。
儂は儂なりに練習するか。
にしてもできたら儂もあーいう相手が居れば良いが、猫ではなぁ。
「ふぅ・・・・あ、そういえば猫ちゃんいたっけ」
区切りがついたか、こちらを見やる。
「うん、ちょっとメルくんので忘れてた。あはは。なんか猫ちゃんもやる気な感じだし、もしよかったら私の使い魔で練習する?仲良くなってくれたら嬉しいし」
なぬ?
そういえば、この学園にはひとりひとり使い魔がおったっけ。
会っておらんからすっかり忘れておったが。
さて、ではテトラ嬢の使い魔はどんなものかの。
「えっと・・・あ、いる。よし、おーい、こっち」
ん?いる?
まぁ、わしと似たくらいの背丈ならよいな。
あ、できたらせめてかわいいメスで願いたいの。
動物でも少しはモチベーションは違うしの。
わさわさと草むらをかき分けて・・・・・
「紹介するね。使い魔のシェリーよ。けっこうかわいい子なの」
そういって、にこにことして紹介してくれた。
うん、かわいいんじゃろうな。
つぶらな瞳に動物ゆえに端正なんじゃろう。
ほんわかした雰囲気もある。
女性の美しさを評したとき、総合評価でのみ言葉のみで記すととある動物となるそうである。
実際にエジプトなんかでは美の化身なんていわれていたそうだが・・・・
「もー」
うん、メルくらいの大きさの雌牛でしたか・・・・・
でかすぎるわ!




