第15話 転生者
「っ……!! 生きてる? いや……でも――」
間違いなく、私は銃弾を浴びて死んだはずだ。それなのに目覚めてしまう。
その現実との乖離が熟練の殺しをしてきた私に恐怖を植え付け、心拍数を上げる。
「お、落ち着け。落ち着け私……」
拘束されている訳でもなければ、銃も手元にある。
撃たれた時の装備品はそのままだ。銃を抜いた私は静かに扉を開け、敵がいないか確認する。
「ク、CLEAR。誰もいない……か。生活感はないし空き家ってこと? 通信は……はぁ」
駄目だ。スマホも通信機も圏外。
「でも……なんだろう、すごく違和感があるような」
屋内の造りや装飾品が現代品とは違い、中世のような造りだからだろうか。
「それに電気もガスも、水道もない。こんな家、今どき普通ある……??」
とにかく状況を掴もうと銃を構えて外に出る。
「敵は……いない、か」
本当にのどかな場所のようだ。強い風が詩織のショートヘアを靡かせる。その風に釣られるように風下の絶壁へ歩みを進める。
「えっ? はぁ? うっそん~どうりで変だと思ったんだよねぇ~」
視界の先に見えたもの――それは円状の城壁に囲まれた建物群と西洋風なお城だった。
「ええっと……じゃあ何? 私、異世界転生したってこと? あの朱莉が見てた漫画みたいな?」
親友の趣味を馬鹿にするわけじゃないけど、あれは所詮、お伽話。
それが今、目の前にあるのだから呆れればいいのか、驚けばいいのか分からない。
思考するのが面倒になった私は木に身を預けながらしゃがみ込みつつ、薄ら笑いを浮かべて空を見る。
「ははっ、はぁあ~この私が転生? てっきり死んだら地獄だと思ったのに」
この人生17年、あくる日も任務ざんまい。
他人を殺して、コロして殺しまくってきた。
「それなのにどんな気まぐれだよ、ったく神様ってやつは……」
これは――神様がくれた泡沫の夢なのだろうか。
「まぁ、せっかく貰った命はさ、大切にするけど」
朱莉がなんやかんやで布教してきたせいで流れは私も少しは分かるけれど、テンプレ的な『この世界に来た理由』も『意味』も分からないし、知らない以上は私が何をしたって許されるはずだ。
あぁ、そっか。
これは17年間分の休暇だと思えばいいじゃないか。
「ウシシ……そうと決まれば、山から下りますかねぇ! 楽しむぞぉ!!」
ここで佇んで籠っていたところで事態は好転しない。
家の中にあったリュックに使えそうな物を詰めていく。
「これも、あれもっと! あとは食料だけど、うーん……このパン、食べれんのかな?」
台所にあったパサついたパンを見つけて手に取る。
すると目の前に文章が急にポップアップした。
【丸パン】
状態:粗悪品
王国地方で売られている標準的な丸パン。
商店やパン屋で購入可能。
「粗悪品っておいおい……? まぁ、背に腹は代えられないけど。ってか……」
何だよ、この拡張現実《AR》のようなシステム。
解説までしてくれるなんて凄く便利じゃん。
俗に言うチートスキルみたいな感じだろうか。
スキル【鑑定 / 万能解説】
取得条件:転生者であること。
あらゆる物や事象に関して鑑定と解説、解読を行うことができる能力。
「あ~要は転生者特権ってやつか。となると、ステータスもあったり?」
〇ステータス
・篠崎 詩織(17歳)
愛称:ミーシャ
職業:暗殺業
装備:ベレッタ(M92F)
<スキル>
・【鑑定 / 万能解説】
・【武器商人 / 武器取引】
「おいっ! 人の愛称を勝手に表示すなっ!! それに職業が暗殺業って……!! んまぁ、事実だけどさぁ!? 何も馬鹿正直に書かなくたって――!」
シーン。場は静まり返る。
どうやらこの解説サポートスキルはそこまで会話的ではないらしい。
「はぁ……んで、その武装取引? 武器庫っていうスキルは?」
スキル:【武装取引 / 武器庫】
言葉の通り、武器や弾薬の購入。売却が可能。
売買はこの世界の硬貨で行われる。購入・鹵獲した武器は【武器庫】に格納可能。
武器庫は異空間にあるため、どんな巨大な物も仕舞う事が可能。
※ ただし、物理的に大きい武器、武装を取り出す時は出口付近にある物に干渉してしまうため注意。
「ふ~ん? それは良い。残弾が尽きたら私は終わりだからね」
とにかくだ。何をするにしても資金が要る。
麓へ降りつつ、異世界の情勢について『スキル:鑑定』に疑問を投げかけていく。
その結果、私は大陸のに位置する【ボフェムルト帝国】におり、この大陸全土には様々な魔物が生息しているらしい。
「魔物ねぇ……いかにもファンタジー世界っぽい」
ただ、元々はこの世界には炎竜という守り主が居て平和だったらしい。それが数千年前に大陸全二分する戦争が起こったことで魔物が現れたそうだ。
伝承では【炎竜への崇拝が蔑ろになったことが原因で魔物が跋扈するようになった】と言い伝えられているらしい。
「炎竜ねぇ~要は炎を吐くドラゴンか。ありがちな設定だ〜。んで? その崇拝――まぁ、言ってみれば宗教戦争は今も絶賛、継続中と」
歴史は激動の中にあった。
炎竜の伝統を重んじる帝国率いる『伝統派』と科学や魔導などの技術を率先的に活用する王国率いる『革命派』が覇権をかけて争っているのだという。
「しょうもなっ! 覇権をかけて争ったところで失われるものは人の命。ましてや、得をするのは上ばっかり。そこまでしてでも担ぎ上げたいのかね? 兵隊さんたちはさ」
冷ややかに言い捨てる。その半分は自分に対しての自虐でもあった。
きっと、この世界の兵隊も逃げ場なんて無いのだろう。
――「やれ」と言われるから、やっているだけなのではないだろうか。
【警告】
魔物の集団を発見。
ゴブリン×5.
武装:棍棒、石
「うわ……本当にいたよ、小鬼。でもぉ、雑魚そうだな。へっ」
ベレッタを片手に私はゴブリンへ突っ込み、最初の初撃で3発撃ち込む。
糸を縫うようにゴブリンへと放たれた弾丸は見事に眉間を撃ち貫き、バタリバタリと亡骸が倒れて青白いエフェクトで消えていく。
「ぬぎゃぎゃ!!」
「あらら、鬼がお逃げなられると? 残念」
正確に後頭部めがけて銃弾を放つ。
消え去った死体の付近を見やれば、そこには小さな巾着や小さな角が落ちている。
「なるほど? 巾着は金ピカのお金でこっちは素材って訳か。棍棒もご丁寧に置いてった……と」
お金自体はありがちなゴールド硬貨のようだ。
せっかく棍棒を置いて逝ってくれた訳だし、物は試しに【武器庫】と呼んでみる。
すると、唐突に鉄扉が目の前に出現した。
「なんこれ……。この中に諸々あるってわけ?」
ガシャンと扉を開け、中を覗いてみると銃やナイフを格納できるラック、整備用の棚と机、それから試験運転が出来るように射撃場や突入訓練に使う練習場が備え付けられている。
「ヒュー! こりゃあ、完璧じゃん。最悪の場合は避難所として使えそう」
【武器庫(異空間)】
武器を扱う使用者の要望に合わせて内部設備が変更される。
ただし、現実時間は停止する。
「……はいはい。要は『避難空間としては使えない』ってことを言いたい訳ね」
爆速で訂正されたことを根に持ちながら棍棒をラックに置く。
こんな長い物を持っていたって邪魔になるだけだ。
でも、そこでふと思った
「けどさ、物を売る時もここに入らないといけない訳?」
【武器庫 / 呼び出し・収納機能】
武器や武装のみに限り、呼び出したり、収納したりすることが出来る。
『武器を連想することで取り出せる / 手で触れたものを自動収集する』ことが可能。
「ふむ……。ならいっか。このままガンガン街まで行きますかね」
そこから私は遭遇したゴブリンや大きな狼型の魔物たちを悉く愛銃で倒しながら進んでいく。もちろん、迷子防止の為に目印を等間隔で付けながら――。
「おっ、遂に街を発見! 長かったなぁ」
辺境の地と言わんばかりの街の外観だというのに偵察兵らしきものや複数の兵士が旧式のライフルを片手に往来している。
「守りを固めているってことは……さては国の機密とかが――!」
【街】
ウィルティーネ山脈と暗黒の森の警備を兼ねており、魔物の襲撃が頻回しているため、帝国兵が街の外周や内部を重点警備している。
「世界観的にそこまで大層なレベルじゃないと。あ〜はいはい。ロマンってものがないね、アンタにゃあ……」
異世界といったら『知ってはならない秘密』とか、『伝説のなんとかが』とかいうヤツと主人公がめぐり合うっていうのがスタンダードでしょうに。
かく言う、異世界第一村人(警備兵)は私をみるなり、がっついてきた。
「なぁ、アンタ! あの森を一人で超えてきたのか?」
「え? あ~まぁ……そう、ですけど?」
「そうか。腕があるんだな。何か変わったことは無かったか?」
「い、いやぁ~特になかったと思いますけど? いや私は腕無いしなぁ~魔物こっわいなぁ~」
面倒ごとに巻き込まれる予感しない言葉に『私は雑魚です、知りません』というスタンスを取ったのだが、警備兵は『いや~実力者は違う』と感心しつつも興味津々に私へ根掘り葉掘りと聞いてくる。
その状況からしてかなり魔物に対して手を焼いているのだろう。
とはいえ、私の知った事ではない。
「――うん、そうそう。危ない物には関わらない。臭い物には蓋をしろ――のはずだったんだけど……これはズルいって」
そう思っていた時期もありました。
でも、この街は冒険者業しか真面な産業がない。
さらにはあからさまにデンッと木材に『ギルド』と書かれた立て看板に『腕利き募集中!! 即日、高報酬を確約!!』とこれ見よがしに書かれていたら、お金が無い私が釣られない訳が無い。
「実に詐欺らしい。詐欺っぽいけど……」
他に稼ぎ口がありそうもないのでカウンターで募集について話を聞いた。
すると、驚いたことに受付のボーイさんは前金まで積み始めた。
「ではミーシャ様!! どうかこれで依頼の方をお願いしますね!?」
「(いやいや!? 誰が……人のことをミーシャと……『熊』と呼べと言った!! あんごらぁ、やんのかぁ!?)」
「そ、そうですよねぇ!! もっとだ、もっと金を積まんか!!」
どうしてこうなった……。
私はただ、詩織と呼んで欲しかっただけなのに――。
怒るのも疲れた私ことミーシャはギルドのテーブルで項垂れるのだった。
ミーシャはエンジン全開で参りますっ!! (作者より)




