第七話 女神
「で、調子はどうだ?治神」
「あなた…天使の中でも最上位だからって少し調子に乗り過ぎなんじゃない?私に対して無礼過ぎるわ……そう言うあなたこそどうなの?」
「ふむ…王としては当然万全だが?」
「はぁん…まぁいいわ……にしても…」
二人はそこら一体の大地を見渡す。
「流石、熾天使王ね」
大地は焦土と化し、石ころ一つ無い。
彼、熾天使王が軽く指をふるえば、この程度の大地は消し飛ばせる。
彼がこの大地を消し飛ばした理由は、殆どない。
強いて言えば、そこに住んでいた少年が、熾天使王に近寄ってきたことくらいか。それが彼の癪に触ったのだ。
「…で、例の話だが…」
その言葉を遮るように治神は言う。
「もちろん順調よ?」
「そうか…俺はあまりそちらは詳しくはないがな…」
熾天使王は女神の計画自体はどうでもいいと思っており、それに付随する利益さえ取れば良いと思っている。
逆に女神は、計画が上手く行きさえすればそれで良いと思っていた。
「仮にこの事を知っていても、対抗できるやつなんて、いないわ」
「ラディア国にか?」
ニィ、と笑みをみせる、治神。
「えぇ、だって、あの女はもういないんですもの」
それは、最強の騎士アラエル。彼女の事だろう、と熾天使王は考えた。
「では、これより、北に約三千キロ移動します」
「わかった…では、俺も護衛をするとしようか」
「神族をなめないでほしいわね。護衛などいらないわ」
「ふむ…しかし、備えるに越したことはないだろう?」
「…備える?」
まるでそんな事をした事がないかのように振る舞う女神。しかし、慢心した彼女に反して熾天使の王は、獅子のごとき顔をしていた。
「想定外の事態にな…」
……それは、女神さえも一瞬間黙らせるほどの深みがあった。が、すぐに切り替える。
「…ないと思うけど…」
熾天使王は治神の方を向く。
「これだから神族は嫌いなんだ」
「それくらい強いと認めてるということでしょう?それに人間程度が我々にかなうわけがありません。…さて、行きますよ」
「あぁ」
女神、治神は焦土と化した大地に足をめり込ませる。
バキバキと、地面が割れていく。
女神治神は足に力をこめる。
メキメキメキ、と足が膨れ上がり。
「ふん…ッ!」
バンッ、と弾けた。輪ゴムがちぎれたように。
爆速で北へ向かう。
体中に風を纏いながら、空を切り、海を軽く割り、森を破壊しながら進む。
──神族。
謎多き一種だが、人族には古来よりこのような言い伝えがある。
神族には人間のあらゆる攻撃が通じない。
何故なら神族は人を生み出したからだ。
──と。
そこで、圧倒的な速さでソニックブームを作りながら進む女神の横をなんでもないようについて行くのは熾天使の、王。
熾天使王
天使一族は、神族に仕える種族と思われがちだが、進化体系は実は殆ど違う。
どちらかというと人に近しいとさえ言える。
その天使の中で、最も強いのが熾天使。
熾天使の中でも王と呼ばれる、熾天使王。
天使には、名前がない。故に、力で見分けるのだ。
それが何者かを。
熾天使王の力ならば、女神の速さに追いつくことはたやすかった。
──────────
王宮。
「治神様、熾天使王様、ご機嫌よう」
「ええ。今そちらに向かっています」
轟速で姿を変えていく背景が、彼女の移動速度を物語っていた。
「ほぅ…」
「サリヴァ、あなたの計画、漏れていないわよね?」
「ええ、もちろん」
「ふふふ…楽しみだわ…かの国ラディアが滅ぶのを見るのは」
「…ふむ、異界召喚で何が出るかは分からんはずだが」
遠隔石を使用して、サリヴァと熾天使王、それからは治神は話し合う。
「でも、禁止極限術…ってことは、もうえぐいってことは確実なのよ…」
「それも、そうなのか…」
裂けるような笑みを作る女神を横目にサリヴァは語る。
「…で、女神様、報酬の方なのですが…」
「あー、あとでついたら渡すわ」
「わかりました!」
サリヴァの欲しいもの。それは単純であった。それは、命であった。
永き命が欲しかった。
「…では、私はこれで」
遠隔石はその使用上、その場の景色を移すことも出来るし、音だけを伝えることも可能だ。
今、女神の映像は女神のみしか写っていなかった。背景が速く動きすぎてよく見えないからだ。
「…あぁ、楽しみだ…!」
サリヴァは、ワクワクを隠せなかった。
そろそろ、始まろうとしていた。異界からの来訪者が。
◇
「…いいか、お前たち」
かつて、犯罪を犯したとされる四人組。
しかし、腕は保証できる者達。
「お前たちは、これから戦に行く。お前たちの役目は、まぁ雑魚狩りだな、ま、ピッタリだろ」
そこで一人が疑問に思ったのか口を出す。
「雑魚?」
「東国では、熾天使王の出現と同時に数多の上位天使が現れたらしい。それの討滅をまかせたい。」
「何か、指定は?」
「無いな。お前たちの倒したいように倒せばいい。ただそれ以外の仕事に厄介は出すな。そうしたら殺すからな」
淡々と告げる。
(かつての犯罪者など、戦わせたくはないのだが)
ブラッドは若干躊躇し考えたが戦力的な面を考えた時彼らの力は必須だろう。
南の英雄、ニーヤ。
北の鉄人、アラ。
東の巨人、コジロウ。
西の魔人、セイヤ。
その四人になる。
「…ヒヒッ…しかし、嬉しいなあ、ブラッド様…だ、だって…どんな倒し方でもいいってそれ…」
北の鉄人、アラはそう言う。
「ま、それだけの余裕があれば良いがな」
この四人は見た目に反してかなり歳を食っている。故にすぐに力尽きないかとブラッドは心配になったのだ。
「では、明日、我々女神天使討滅部隊による、治癒の神、治神と熾天使の王、熾天使王を討滅を、明日、王都ラディアより、4箇所ののろしで伝える。総員、いいな?」
現在。
遠隔石使用中。
『おう!』
ブラッドは全員の声が聞こえる。ブラッドの元には住人の避難はすべて完了したと報告があった。
(あとは王宮で殺すだけか。覚悟しろよ…神と天使どもが)
ブラッドはその不敵な笑みを、冷たい顔の上に浮かべた。




