第五十八話 窮す
報告。
帝国の命を受けた青年、ブラッド・リ・ディアベルは現在南国フィリアへ赴き迷宮へと侵入中。南国にいるスパイによるとSSSの存在は確認された模様。戦闘は未だ開始しておらず、和解的な解決が最も望まれるが、不可能な場合は討滅でも構わないので、戦闘に発展する恐れあり。またSSSは逃亡に非常に長けているので既に逃亡している可能性もあり。何らかの行動があり次第、南国からの報告を待つ。
◇
冷たい灰色の床を、ディナンシア、イザーグは歩く。二人は同期であり、迷宮五十一層の攻略者でもあった。
二人とも迷宮同盟に所属している。
「あら、ネーさん」
「その呼び方はやめろ」
ディナンシア達は一人の女と遭遇した。それは、ヨーネを女性用の牢獄へと連れていった女。ブラッド達に槍を立てつけた女である。
名前はネーストレス。ディナンシアはそれを略してねーさんと呼ぶ。
「ネース、どうだった?今回のは」
「…いや、アレでは厳しいだろうな」
「そうか。こっちも多分無理だ」
「そうか。それは不幸な」
「あぁ」
迷宮五十一層の複雑に入り組んだ関係を簡単にまとめると、このようなものだ。
まず、迷宮五十一層の攻略を任されたチームが結成される。
そのチームのメンバー自体は問題では無かった。が、根本的に問題となってしまったのは、そのリーダー。
チームのリーダー──名をロズヴィアと言うが──が、様々な事を強制した。
理由としては、彼が迷宮最前線のチームに嫉妬している、という単純な理由であった。
最前線チームとなにかいざこざがあったようだ。その腹いせだった。
そして、強制する内容は日に日にエスカレートしていった。いつしか、街を作れ、とか、攻略者を監禁しろ、と言った犯罪行為さえも強制してチームのメンバーにさせるようになった。
しかし、誰も彼には逆らえなかった。なぜなら、彼はリーダーに選ばれる位の人材。
純粋に強かった。
例えば、ディナンシア、イザーグ、ネーストレス三人が死力を尽くしても勝つことは不可能だ。
故に、この五十一層にチームメンバーは、監禁されている。
そのメンバーが今度は攻略者を監禁する。
という構図になっているのだ。
そのような状態に対して怒りや不満を抱えない者はいない。
が、逆に反逆する者もいない。
「……俺が、アイツらをぶっ潰してやんだよ…!」
それがリーダー、ロズヴィアの口癖だった。何らかの恨み故に、そのような行為にはしってしまった。
しかし、誰もその暴走を止めることが出来ない。
そんな時、彼ら彼女たちはあるひとつの方法に気づいた。
我々で勝つことが不可能ならば、勝てる人間が来るのを待てばいい、ということに。
そして、待つこと(迷宮内にて数十年)未だ、現れず。
「……」
ディナンシアは俯く。
「現れませんかね、英雄が」
「……来ないよ、もう」
イザーグは呟く。
「あの屑男の暴走は、もう…」
「しっ、従ってるフリをしろ…アイツの力を知ってるだろ…」
ネーストレスが宥める。
「……英雄か」
(現れないのかなぁ…いや、現れないか)
◇
朝早く。早朝。
「ひょぉーっ!」
ディアは全員集合という報告を受けて集まったのだが、
「なんだこれ?」
行列が出来ていた。皆、全裸だ。
「何って、今からシャワー浴びるんだよ」
「え?」
これだから新米は、という態度で近くの男が教える。
「毎朝定時にシャワー。その後働いて、働いて、、そんで寝る。その繰り返しだ」
迷宮内において睡眠の必要があるのかは不明だが、とにかくそれがここの儀礼らしい。
「…なん…それじゃあ…それじゃあまるで……奴隷みたいじゃないか!」
「奴隷みたい、か。いや、違うよ、ボウズ。奴隷みたいじゃなくて、奴隷さ」
「……!」
「……俺たちは、奴隷なんだ……」
そこには年季という名の証拠が確かにあった。
「……働くって、具体的に何をするんだ?」
「……」
「……一体な──」
ディアが問おうとしたその瞬間、
──カーンカーンカーン、と鐘の音が鳴り響く。
「さぁ、シャワーは終わりだ。今から働くぞ」
「働くって…?」
「外へ出るぞ」
◇
外へ出た収監者達は管理者ディナンシアによって先導される。
迷宮内の街並みを歩きながら二人は会話を交わす。
「なぁ、オッサン、名前は…?」
「オッサンて…これでも元は迷宮探索者だったんだけどなぁ…」
「俺はディア」
「俺はリガルって言う。まぁ、よろしく」
「うす」
ディアは軽く会釈をした。
リガルは見た目齢四十の渋い顔をしており、まさに中年と言った容貌であった。
「ところで、外の仕事って何をするんだ?」
「基本は土木の作業だ。建築などが主だな」
「へぇ…」
「あぁ、それと──!」
「どうした?」
リガルは急に停止した。
「……最悪だ。奴がいる」
「奴?」
「俺たちをここへ閉じ込めた張本人…!」
ディアは自然とその方へ目を向けた。
「ロズヴィア……!」
「…おい、大丈夫か?なんかアイツこっち見てないか?」
「不味い……!」
リガルは焦り出す。
「不味いって何が──ふッ!?」
まずディアが感じたのは世界の揺れと物凄い衝撃だった。
少しして激痛と口内に土の味が広がった。
「???」
(──顔が地面に埋まってる?)
ディアは考えた。恐らく先の男、ロズヴィアという男が己の頭を抑えそして地面へ押し込んだのだ。
一体どんな膂力があればそれを可能とするのだろうか。
「ぷはっ」
ディアは頭を地面から抜いてなんとかロズヴィアという男を見る。
その男は大柄でも小柄でもない、普通の体形だった。
しかし、その顔つきが違う。まるで歴戦の戦士のようだ。
そして、身を待とう装衣。これらも全て一般人が一生持つことは無いであろうという程の逸品。
「──ふむ。我の前で土下座をしないとは。頭が高いな」
ロズヴィアは高圧的に、高踏的に、今度はゆっくりと、ディアの頭を踏みにじった。
「さぁ、働け、劣等種共が」




