2-21-3 ゆかいな冒険者たち視点
ギルドの牢から出て城へ行き、一通り話しが終わった後。
案内された客室へ入ろうとするアルハに声をかけた。
「本当にもう怪我は大丈夫か?」
アルハはついさっきまで、牢に繋がれ暴行を受けていた。本人は大丈夫と言い、確かに見た目も怪我は治っているようだが…。
「なんともないよ」
「そうか。いや、さっきはついバシバシやってしまってすまなかったな」
自分を殴った相手には報復せず、オーカが殴られそうだったという理由で、あの性根の腐った統括を叩きのめしてくれた。
嬉しくて思わず…俺の悪い癖だ。
「大丈夫、そんな軟じゃない」
いつもの穏やかな表情で、しかし、しっかりと答えてくれる。
統括を睨んでいた時とは別人に思えるほどだ。
「それならいいんだが。俺はどうも、勢いだけで動いてしまうことがあってな」
アルハは終始、俺が気を遣わないように受け答えしてくれた。
本当に良いやつだ。
***
アルハのいる客室の扉をノックする。
「どうぞ」
すぐに応えがあった。扉を開けて入れば、アルハは少し驚いた顔をしたが、直ぐにいつもの顔に戻った。
「いきなり悪い。少し聞きたいことがあってな」
勧められた椅子に座り、すぐに切り出す。
「その……身体のことだから、気を悪くするかもしれん。嫌だったら、すぐにやめるから言ってくれ」
初めて会った時から、ずっと気になっていたことだ。勿論、拒絶されたら引き下がるつもりだ。
「何のこと?」
「さっきの夕食、普通の量を食べてたよな」
「うん。あの、何か失礼なことしちゃったかな」
どうやら食事のマナーについて論じられると勘違いされてしまったようだ。
マナーについて、俺はなにか言えるような人間じゃない。
それに、アルハの所作は貴族か王族だと言われても信じられるほど、洗練されている。
「いや、そうじゃないんだ。量が問題なんだ」
やはり言いづらい。だが、目の前の男は、得難い仲間かもしれない。
俺は勇気を振り絞った。
「身体、細いよな」
「まあ、その、うん」
またその話か、という顔をされる。何度も言われているんだろうな。
わかる。
「俺も、ご覧の通りなんだよ。もしかしてだけど…アルハも、食べても太らない体質か?」
目と目が合う。それから、俺とアルハは同時に、しかしゆっくりと立ち上がった。
差し出した右手は、がっしりと握り返された。
「量を食べても駄目か…」
「体を動かすのが仕事だもんね」
「それでもエリオスはアレだぜ」
「エリオスは普段何食べてるの?」
同じ悩みを持つ者同士、有意義な会話が弾む。
アルハは最近になって、かなりの量を食べるようになったが、それでも体格は俺と同じくらいだ。
何故俺たちだけ、こんな体質になったのか。
「リースに『どうしてなの!?』って脈絡なく怒られたことがある」
「理不尽!」
途中から愚痴になってしまった。
リースは食べすぎると太るという。
羨ましいと言ったら、頬を張られた。
魔法使いとはいえ冒険者の平手打ちだ。頬は治癒魔法が必要なほど腫れた。
結論としては、俺たちがこうなのは体質だから仕方ないということと、周囲の無理解はひたすら耐えるしかないことに落ち着いた。
「たまにこうやって、話をしにきてもいいか?」
「勿論」
頼もしい仲間ができた。
***
夕食ができたからと食堂へ呼ばれて向かう途中、アルハと一緒になった。
「トイサーチにいる家族って、どんな構成?」
アルハはエリオスほどじゃないけど、背が高い。話すときはいつも、見上げる形になる。
「メルノっていう女性と、その妹のマリノの二人だよ」
「血縁じゃないのよね?」
「うん」
二人と住むことになった経緯を聞けた。
宿屋の場所を尋ねたのが切っ掛けで、魔物から助けて、お礼として泊まって…。
話の内容に、疑う余地はない。
ただ、そのメルノという娘のことを話す時、少しだけ目が泳ぐのよ。
「なるほど。それで、どこまでいったの?」
踏み込んで訊いてみた。
「妹として接してるから、そういうのは」
やっぱり目が泳ぐ。でも、嘘はついてなさそう。
「本当?」
「本当だよ」
「……じゃあ、オーカのことはどう思ってる?」
「どうって、オーカはオーカだよ」
何故オーカの名前を? って顔になった。あ、これ、脈なしだわ…。
「私がどうかした?」
いつのまにか食堂に着いていて、そこには当のオーカがいた。
「リースに聞かれて…」
「オーカ」
アルハの話を遮って、オーカの両肩に手を置き、すすす、と廊下の脇に移動した。
「オーカ、彼のことは諦めたほうが良いわ」
「はっ!? な、何を」
「だって、……でしょう?」
唇の動きだけで核心を突くと、オーカは顔を真赤にして慌てだした。
「え、ア……本人に、言ったの?」
「ううん。ただ、話を聞いてみたらどうもね」
「と、というか、私がその……そうだとは限らないでしょう!?」
「その反応で?」
「っっ!?」
アルハは食堂の前で、こっちを見ながら首を傾げてた。
ライドに何事かと問われて、分からないとこたえているみたい。
こういうことには鈍感なのね。




