16 僕たちは謎肉の謎を食べている
着替えてそのままギルドに戻るも、まだ話を聞けそうにない。
話を聞けるタイミングになったら教えてもらえるように頼んで、個室へ戻ろうとしたときだった。
「あっ、お待ちを。もしお手すきならお願いしたいことが」
ギルドの受付さんに呼び止められた。
頼まれたのは、魔物討伐のクエストだ。
冒険者の殆どが既にクエストへ出掛けているか、教会関連のことで忙しいかで、急ぎのクエストを受ける人がいなかったらしい。
最近、魔物は散々倒してたけど、普通にクエストを受けるのは久しぶりだ。
難易度はA。森周辺以外でのB以上は珍しいんだそうだ。
魔物を見つけた冒険者は、その魔物に見つかり、重傷を追って町に逃げ込んでからギルドに報告した。
つまり、あとを追いかけてきている可能性が高い。
「なんとか応援をかき集めてきますので、その間の足止めだけでも……」
ギルドカードを見せても、難易度A相手に一人では荷が重いと思われたようだ。
「大丈夫です。えっと……いや、本当に」
先日の話をしようとして、やめた。英雄がなんとかってなったら面倒くさい。
結局、現実的に同行者を見つけることができないので、ソロ狩りが認められた。
絶対に無理をしないように、命を大事に、と念を押されまくってギルドハウスを出た。
「ジャッカロープってどんな見た目?」
“角の生えたウサギだ。人の言葉を真似して鳴く、と聞いたことがある”
クエストのメモには魔物の名前と難易度、大まかな目撃場所しか書かれていない。緊急クエストで且つ、最近出現していない魔物だと、簡素なメモになる。
それにしても、ウサギかぁ。
「こっちの世界の一般的なウサギってさ、人が飼うこととかある?」
“家畜としてならよくある。というか、昨晩も食べたではないか”
「……!? まさか……」
こっちの世界に来てからよく食べる肉、メルノ達は普通に食べてる様子だったから、この世界特有の家畜動物だとばかり……。
森で狩るのはイノシシに似たのや鳥類ばっかりだったし……。
「ウサギを食べてたのか……」
日本では食べる機会はなかったし、あったとしても絶対遠慮してたよ……。
“何だ、苦手だったか”
「違う……むしろ好き……」
“なら良いではないか”
「そういう好きじゃなくて……ちょ、ごめん、代わって」
「本当にどうした」
“気持ちの整理するから、ジャッカロープも頼む。場所は……”
[気配察知]で調べておいた場所を伝えて、身体の中に引きこもる。
ウサギ、可愛いよね。
◆◆◆
アルハがだいぶ参っている。原因はウサギのようだ。
旅を始めた頃に森のウサギを狩って食料にしたことがあった。野生と家畜では、味がだいぶ違うと思い知ったのはその時だ。それ以前に自分の料理の腕がかなり拙いことにも気がつけた。以来、食料だけは必ず前もって準備すると決めている。
ジャッカロープは話でしか聞いたことがない。
アルハに聞いた場所へ赴くと、そこに話通りの魔物がいた。大きさは、この体の倍はある。それが三匹。
身を隠していたのに気づかれてしまい、すぐに襲ってきた。
氷の刃を創り出して首を狙う。弱点は角だと聞いたが、首でも間違いではないだろう。
刃は鈍い音とともに弾かれ、砕けた。隙きを晒してしまい、蹴り飛ばされた。
強い。そういえば難易度Aだったな。
幸い無傷で済んだ。頑丈な身体でよかった。
ただし、衝撃はアルハに伝わってしまった。
「ごめん、馬鹿らしいことで凹んでる場合じゃなかった」
飛び起きる、と表現するのが適当だろう。
身体の主導権を持っていくと同時に、俺に蹴りを入れたジャッカロープを蹴り返していた。
ジャッカロープは周囲の木をへし折りながら吹き飛び、動かなくなった。
残りの2匹は、なんと逃げ出した。
魔物は、他の生き物の排除を何よりも優先する。
それが、アルハの攻撃を見ただけで、脇目もふらずに逃走を図った。不思議な現象だ。
景色が霞み、次に見たのは、刀で両断されたジャッカロープたちの姿だった。
◆◆◆
「ごめん」
ウサギショックはまだ抜けきってなかったけど、ヴェイグを蹴りつけるようなウサギは論外だ。
ていうか、ジャッカロープは思ってたウサギと違った。
角と凶悪な目つきだけで、あの神に愛された造形が、あそこまで可愛くなくなるとは……。
“いや、初手に氷ではなく剣を創ればよかったのだ。それよりアルハ、また強くなっていないか”
「そう? ……そういえば、魔物たくさん倒したっけ」
増えたスキルは無し。ステータスの数字は全て、前に見た時の三倍の、六十万になっていた。
「どこまでいくんだろうね」
“わからん”
ヴェイグも3倍の六万になってたそうだ。
そんなヴェイグの魔法の氷を砕いて更に蹴りを入れたジャッカロープ、強すぎない?
「そうだ、ドロップ」
死体はちゃんと消えていて、アイテムも落ちていた。
直径5センチ位で円盤型の赤い封石と、ふわふわした綿毛の塊が3つずつ。
……この綿毛モフモフしてていいな。
「ドロップアイテムって、普通は加工して装備とかにするんだよね。これはどう使うの?」
“服の装飾に使われているのを見たことがある”
「そっか」
キーホルダーみたいにできないかな。そしたら常にもふもふできる。
ギルドハウスに戻って報告していると、ガブレーンがやってきた。
「待たせてすまなかったな。今、大丈夫か」
ようやく、教会についての話を聞かせてもらえるようだ。
会議室にはオーカと、冒険者が数人いた。
オーカに一つの席を示されたので、そこに座る。見知らぬ冒険者3人と向かい合う形になった。
「オーカ、こちらが?」
3人のうち、唯一の女性が、オーカに問い掛けた。
「ええ、アルハよ。アルハ、こっちはエリオス、ライド、リース」
エリオスは赤い短髪の巨漢だ。背中に大剣を背負っている。ライドも男性だけど、僕と同じくらいの細身で、青くて長い髪を後ろで一つに括り、左右に長剣を下げている。リースは女性で、オレンジ色の髪を帽子の中にまとめて、杖を握っている。
3人に会釈をされて、こちらも返した。
「オーカ嬢、3人の紹介は……」
「今、軽く済んだわ」
「それなら、早速向かってくれるか。アルハ、説明は道すがらオーカ嬢から聞いてくれ」
「そんなに急ぐんですか?」
話が性急すぎて、何が何やら。
これから何処へ向うのか、何をするのか、このパーティで行く意味は。
「ああ。コワディスによれば、今夜中にまた狼煙が上がるやも知れんのだ。呼ばれる前に、止めたほうが良いだろう」
日が沈み、暗くなった街を、即席のパーティは北へ向かった。




