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PKしたいだけ

 

 今日も変わらず、同じ時間に目を覚まし、学校へ行くための用意を済ます。


 昨日は3時前に終わって、寝たのは結局3時過ぎだった。さすがにこんな生活をずっと続けていれば、日常生活に支障をきたしかねない。


 このゲームで上位でい続けるにはそれなりのプレイ時間が要求される。だから、理花ちゃんは今夜も今日と同じくらいの時間までやりたいんだと思う。


 理花ちゃんには悪いけど、やっぱり今日は12時には切り上げることにしよう。


「いってきまーす」


 葵はそう言うと、学校へ向かった。


 ◇◆◇◆◇


 おかしい。


 いつもなら、学校に来るとそれなりに生徒がいて「おはよう」ラッシュが始まるはず。だけど、今日はいつもより明らかにそれが少ない。


 女子はいつもと何も変わらない。違和感があるのは男子だ。教室に向かおうとする男子のクラスメイトなんかは1人も見ていない。


「あおいっ!」


「んっ!?」


 後ろから突然抱きつかれた葵は、思わず変な声を出す。


「ごめんごめんっ! なんか元気なさそうだったから、ちょっとイタズラしちゃった」


 後ろを振り返ると、そこにはクラスメイトの女子が気まずそうに立っていた。


 多分、思わず出てしまった普段出さないような声を聞いて、ちょっと悪い気持ちになっているんだろう。


「大丈夫、大丈夫! それより、私そんなに元気なさそうに見えた?」


「ん? んー、結構深刻そうな顔だったよ?」


 危ない危ない。このまま教室に行ってでもしてたら、変に心配されかねない。ただでさえ、1年の頃はよく体調を壊して保健室に行ってたりしてたから、そういったちょっとした異変に周りは敏感だと思う。


「ごめんね? 気を遣わせて」


「全然いいよ! それより早く教室に行こ!」


 不本意にもクラスメイトに気を遣わせてしまった。あとで一回精神統一する必要があるかも。


 そんなことを考えながら、教室の引戸を開ける。


 すると、いつもならそこまで人のいない教室に、多くの登校を済ませた男子が、ガヤガヤと落ち着きのない様子で教室の前の方で集まっていた。


「なにあれ.........」


 一緒に教室に入った子も唖然としている。


 もしかして昨日私が情報収集を怠ったから? クラスの男子たちが、昨日から今日の朝に集まることを決めていたのなら、情報収集をしていれば気付けたはず。もしそうなら、それに気付かなかったのは完全に私の失態だ。


 でもよく見ると違うクラスの男子までいる.........どういうこと?


 私の疑問に対する答えは意外とすぐに分かった。


「はーいはーい。みなさーん、静かにしてくださーい」


 小柄すぎて気づかなかったけど、その男子たちの集合の中心にいたのは茨木 春だった。


 昨日今日と連日で登校していることにも驚きだけど、それよりもこの集まりを朝から作っていることの方が驚きだ。昨日より明らかに多くの人が集まっている。


「えっと.........これって何かの騒ぎかな?」


 葵は、集合から少し離れた所で会話している女子グループに尋ねる。


「なんか昨日アイツがSNSでゲームのことを呟いたらしくて、それを見た男子らがアイツを気にかけて集まったってさ。詳しいことは知らないけど」


 そこにいた女子たちが頷いているから、おそらく大まかな内容はそうなんだろう。


 だけど、1ヶ月も学校を休んでいて来るかも分からない一生徒のために多くの男子が集まってるのはちょっと異常だと思う。


「今日はー、わざわざ朝早くにハルのため集まってくださってありがとうございまーす」


「茨木さん、今夜デスリアルを向かい撃つって本当なんですか?」


 え?


「はい、そうですよー。昨日私がつぶやいた通りー、ハルは今夜デスリアルさんを倒します!」


 「おおー」という歓声があがる。じゃなくてっ!


 なんなの!? この子昨日そんなこと言ってたの? BIOにログインする前に確認した時はつぶやいてなかった。多分、私が理花ちゃんとゲームしてる時につぶやいたんだと思う。


「あの! でもなんで茨木さんは、デスリアルが来るって分かるんですか?」


 集団の一人がそう言った。


「えー、そんなのハルほどの有名人になったら、デスリアルさんの方もチェックしてくれてますよー。なので、もし来ないんでしたら、デスリアルさんがハルに怖くなったってことだと思います!」


「すげー!」とか「さすが!」とかの声があちこちから聞こえてくる。いやっ.........


「はいはーい。それで、デスリアルさんを倒すために100人くらい欲しいんですけど、皆さんにも協力して頂けたらなーって思ってるんですよ」


 いやいや100人って.........


「俺参加します!」


「俺も!」


「僕もいいですか?」


「僕も参加したいです!」


 え.........いや、嘘でしょ?


「わー、ありがとうございますー。では、皆さんも今夜9時に【エルドラ】前でお願いします」


 どうしよ.........


「あおいー、顔色悪いよ?」


 その日一日私はまともに授業が頭に入ってこなかった。


 ◆◇◆◇◆


 はぁ.........もう放課後かぁ.........


 憂鬱だ。憂鬱すぎる。


 私はPKが楽しくてやっていただけなのに。PKしたいだけなのに。なのに、なんでこんなことになるのだろうか。


 私は、1対1の、それも奇襲のような戦い方を前提にしたPKを意識に意識した能力値構成にしてきた。だから、出来たとしても10人が限界で、100人もいたら私のそれは一切の意味をなさない。つまり、私が100人を相手に勝つことは不可能だ。


 だけどっ! だけど、ここで何もしなければ、あの子が良い思いをする。それはそれでムカついてしまう。


 はぁ.........どうするべきなのか。


「あ、葵ちゃん」


 気づけばおでこを机に付けていた。顔を上げると、そこには心配そうな顔で私を見る理花ちゃんがいた。


「理花ちゃん.........どうしたの?」


「あの、今日ですけど」


「あ、うん! 10時だよね? あー楽しみだなぁ」


「.........ですが、葵ちゃん。今朝の.........」


 理花ちゃんもいたんだ。


「あ! いかない、いかない。だって、そんなの行くのってバカみたいでしょ?」


「本当.........ですか?」


「本当だって。理花ちゃんは気にしすぎ!」


「そうですか.........なら良かったです!」


 ごめん、理花ちゃん。


「では、私掃除当番なんで行ってきます」


「あ、そう言えばそっか。今日も手伝うね」


「いえ、今日は当番の方もいらっしゃいますので大丈夫です。ありがとうございます」


「ううん。じゃあ掃除頑張ってね」


 理花ちゃんはお辞儀をすると、掃除場所へ向かった。


 ごめん、理花ちゃん。私やるよ。


 100人を相手にする必要は無い。あくまでも、リーダーであるあの子一人だけキルすればいいんだ。


 葵は席を立ち、帰路についた。


1対100のボス戦みたいな感じです。

葵はボス側です。

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