第四の職業
「よいしょっと」
「え.........し、シリアルさん!」
着地して一息つくシリアルにイリスが駆け寄る。消滅したモンスターの場所には報酬である宝箱が置かれていた。
「どうしたの? イリス」
「最後、どうしてモンスターに気付かれずに背後に回ることが出来たのですか?」
「見ての通り潜伏系スキルだよ? スキルを使ってから背後まで移動。そこから攻撃したの」
「ありえないです! 潜伏系スキルは隠密などの常時スキルと職業による補正をかけたとしても、対策をしているプレイヤーや感覚の鋭いボスモンスターには簡単に見破られてしまいます!」
イリスはこれまでに見せたことのない食い付きで話す。
「うん。このBIOにおける基本は「出来るより出来ないが優先される」ってことだよね。だから、潜伏系スキルで認識されないように出来ることは、それを出来ないようにする相手には通用しない。普通の潜伏系スキルならね?」
「普通の潜伏系スキル.........ですか?」
「うん。イリス、ちょっと私のプロフィールカード見てくれる? 公開設定を変更するから」
シリアルはそう言うと、ささっとプロフィールカードの公開設定をいじった。
「.........分かりました」
イリスは言われるがままにフレンドであるシリアルのプロフィールカードを開いた。
「シリアルさんの職業は、【シーフ】派生の【アサシン】【トリックスター】。【霊人】派生の【霊人主】【霊人王】。【フェンサー】派生の【ソードマスター】.........なんだかPKすることを考えて取得したみたいな職業構成ですね.........」
「あはは.........」
まぁ、実際にそうだし、これを見たら誰もがそう思うだろう。
「じゃあ、もう一回見てくれる?」
シリアルはそう言うと、再度プロフィールカードの設定をいじった。
「.........分かりました。ええっと.........さっきと同じ職業が.........え?」
ほとんどソロプレイだけで上位ランカーになったイリスなら、この意味が分かると思う。
「イリスは3週間くらい前.........BIOがリリースされて1週間経ったくらいのころにちょっとネットで話題になってた画像を知ってる?」
「え.........あ、プロフィールカードの取得職業欄に四つの職業があるあの画像のことですか?」
「そうそう。その画像をネットにあげた張本人は、その画像と一緒に情報サイトにも載っていなかった四つ目の職業の取得方法を掲示板サイトで公開した」
「.........ですけど、その方法を試してその職業を取得できた方は一人も現れず、その画像は加工によるものだと思われていつの間にかその話題も消えていった.........と覚えています」
「うん。私もいたずらによるものだって思ってた。けど一週間前のその日、その時初めてその話が紛れも無い事実なんだって分かった」
「それは.........」
「原則職業の取得は3つまで。でも、この職業【隠し職業】はその3つとは例外、四つ目のスキルとして取得することが出来るみたいなの」
【天逆神:隠し職業。天に背く13番目の神。ATKとINTのステータス大幅強化。特殊スキルの解放】
これが取得可能とメッセージに出た時は目を疑った。それは、職業が3つまでしか取得できないというルールを壊すというのもさることながら、この【隠し職業】は最初に条件を満たした人しか取得できないからである。
リリースされて1ヶ月でそれが話題になったのはたったの1回。おそらく、この【隠し職業】の種類は多くないんだと思う。
こんな人気のゲームで一人しか取得できない超少人数優遇のシステムを作るということが、普通じゃ考えられないことだということくらい私でも分かる。
「えっと.........シリアルさんの【隠し職業】、その取得条件ってなんだったんですか?」
「【天逆神】の取得条件は、【霊人】派生の最上位職業のレベル5取得と、PK300人。つまり、赤ネームにすることが取得条件だったみたい」
「そんな条件ばかりでしたら、これだけプレイヤー人口がいるゲームなので、取得者が現れてもおかしくありませんね」
「うん。だから最上位ランカーとかが、取得しているけど誰にも言っていないってのも全然ありえる話だと思う」
「えぇ.........そんな対策もできないような人達を相手に私は戦おうと.........」
そう。このゲームは「出来るより出来ないが優先される」が基本だ。だから、対策さえしていれば対応することは案外簡単だったりする。
けど、取得者が限られているために情報量がほぼ皆無である【隠し職業】を対策することは不可能だ。それも、その人しかそれは取得出来ないから、その人がうっかりバラしたり、披露したりしない限り一生対策できない。
「それで【天逆神】取得で解放される特殊スキルが【神隠し】って言うんだけど.........これがさっき使ってたスキル。認識完全不可の絶対潜伏スキルで、どんな感覚に優れたモンスターでもどんな索敵系スキルでもスキル使用中は一切感知できないの」
「.........え? それって、BIOの基本を完全に無視していませんか!?」
「うん。でも、攻撃するにはスキル解除しなくちゃいけないから、一瞬は感知されるんだけど.........でも、基本は確かに無視してるね」
「えぇ.........」
「多分【隠し職業】で取得できる特殊スキルはこんな常識を無視したスキルばっかりだと思う」
だからこそ取得できるのが、最初に条件を満たした一人だけなのかもしれないんだけどね。
「.........ありがとうございます。そのような大事なことをシリアルさんが私に教えてくれるのは、私を信用してのことですよね?」
「うん。もうイリスとはフレンドだからね。ゲームでも現実でも」
「私.........うれしいです」
少し涙ぐむイリスの姿を、葵は申し訳なさげに見ていた。
時間は.........3時前かぁ。
「えっと、このダンジョンを出たら私はそろそろ終わりにしようと思ってるんだけど」
現実の時間を確認したシリアルは、思いの外すぎていた時間に名残惜しさを感じながらも終わることを決めた。
「.........あ、そうですね。あの.........もしよろしければ、明日も一緒にやりませんか?」
明日.........予定は特にない。しいて言えばハルが生配信をするならちょっと見てみたいと思ってたくらい、かな?
今日と明日を合わせると2日もPKしないことになるから、さすがに明後日はPKするけど、明日なら大丈夫だ。
「うん。いいよ。じゃあ明日.........ってもう今日だけど、22時に最初に移動した森のあの辺りに集合.........でどうかな?」
「分かりました! 今日は本当にありがとうございました!」
「うん。そちらこそお疲れ様」
そうしてシリアルとイリスはボスモンスター討伐報酬を拾い、壁に書かれた魔法陣からダンジョン外に転移したところで解散した。
動きが全然ないです申しわけありません。




