第27話 外道
「何なんだよ……あいつ……」
ラスパーは震えるレティアを抱き締めながら、目の前で繰り広げられている光景に絶望していた。
先程仮面の一人を瞬殺したコーダの剣が、かすりもしないのだ。コーダが必死の形相で猛攻をしかけているのに、ラガルと名乗った男には長剣媒体の切っ先すら届かないのだ。
それどころか、
「お~お~お~、ゲイツとかいう雑魚よりかは鋭い剣筋してんじゃねぇか! 俺様恐くてチビっちまいそうだ! イヒャヒャヒャヒャッ!」
べらべらと喋る余裕まである始末だった。
ラスパーの目から見ても、コーダとラガルの実力差は明白だった。
おまけに、すぐ傍で燃え上がっている食堂の中から、耳を覆いたくなるような悲鳴が絶えること聞こえてきて、いよいよ恐怖が堪えきれなくなったラスパーの体が、カタカタと音を立てて震え始める。
レティアをこれ以上恐がらせたくないと思っても、恐怖に屈した心では震えを止めることなどできるはずもなかった。
「まだ息が上がらないとぁ、なかなかやるじゃねぇか! さすが騎士様! しっかりと無駄な努力を積み重ねてる!」
コーダはギリッと悔しげに歯噛みした後、剣撃の手を緩めることなく、ラスパーたちに向かって叫ぶ。
「何をしてる! さっさと逃げろ! 森の中に逃げればあいつがなんとかしてくれる!」
その言葉に、ラガルは片眉を上げた。
「森に逃げようが逃げまいが無駄なことはさておき……そういや使いっぱしりが、騎士は三人いるとか言ってたなぁ?」
「わかってるなら話が早い。三人目の騎士は、俺どころかお前さんよりもはるかに強い、マジモンの化け物だぞ」
「……そいつは聞き捨てならねぇな」
コーダが繰り出した刺突をミリ単位で見切ったラガルは、懐に入り込み、コーダの腹部に右掌を添える。
「〝トーチャーグレイン〟」
魔名の詠唱のみで発動された魔法が、コーダの腹部に針で刺したような痛みが走らせる。
ダメージ自体は軽微だが、ダメージ以上の悪寒が背筋を伝い、コーダは焦燥を吐き出すように今一度ラスパーたちに向かって叫んだ。
「俺のことはいいから、さっさと行け! お前さんらが逃げる時間くらいは稼いで――」
パチン、と指を鳴らす音が響き渡る。
直後、
「く……ッ!!」
まるで体の内側から爆ぜるように、コーダの右肩から血飛沫が上がる。
指を鳴らしたのは、言うまでもなくラガルだった。
「あの二人っつうか、女に逃げられるのは困るなぁ」
そう言ってラガルは、レティアに向かって右掌をかざした。
魔法陣が描かれた右掌を。
「〝トーチャーグレイン〟」
先と同じ魔名を唱えた瞬間、ラスパーは両手を拡げてレティアの前に立ち、
「ッ!?」
針に刺されたような痛みが脇腹に走り、顔をしかめる。
どうやらレティアをかばうことはできたらしく、レティアはこちらのことを、ただただ心配そうに見つめているだけで魔法をくらった様子は見受けられなかった。
「あ~あ、野郎の方に刺さっちまったか。でもまぁ……」
ラガルは背後から斬りかかるコーダを見もせずにかわし、嗜虐的な笑みを浮かべながら、親指と中指をすり合わせ、
「これで、逃げることはできねぇだろ」
再び、パチンと指を鳴らす。
次の瞬間、ラスパーとコーダの左太股から血飛沫が上がり、ラスパーの絶叫が夜空に響き渡った。
「ぐわあああああああああああッ!!」
「ラスパー兄ちゃん!? やだ……やだぁッ!!」
レティアは悲鳴をあげながら、赤く染まったラスパーの太股をハンカチで押さえる。クリッと金色の瞳は、今にも涙が溢れそうなほどに潤んでいた。
「これ以上、大事な兄ちゃんがひどい目に遭うとこなんざ見たくねぇよなぁ? 見たくねぇなら逃げんじゃねぇぞ? ちゃぁんと、そこで大人しくしてろよ? こっちは――」
ラガルは、ますます嗜虐的に口の端を吊り上げながらコーダを見下ろす。
二度目ゆえか、左太股から血が噴き出したにもかかわらず、コーダは呻き声一つ上げていなかった。
「こいつの拷問で忙しいからよぉ」
三度指を鳴らし、コーダの脇腹と右太股から血飛沫が上がる。
それすらも堪えたコーダはラガルに斬りかかるも、ラガルは楽々とかわしながら先程血飛沫があがったばかりの脇腹を貫手で貫く。
コーダは表情を激痛に歪めながらも長剣媒体を振るい、それよりも一瞬早く動いていたラガルが脇腹から手を引き抜き、光刃の届かない間合いまで飛び下がる。
「はぁ……はぁ……今の貫手、わざと外したな?」
肩で息をしながら訊ねるコーダに、ラガルは「ご名答」と答えながら拍手を送る。
「刺された感触だけで内臓を避けていたことに気づくとぁ、さすが騎士様だな」
「さらに言えば、今の貫手も拷問の一環ってところか?」
「そのとおりだ。だから、てめぇの抵抗はここらで打ち切りにさせてもらうぜ」
と言いながら、ラガルは指を鳴らし、
「…………ッ!?」
長剣媒体を持つコーダの右腕から幾筋もの血飛沫が上がり、激痛と流血で力が入らなくなった手から長剣媒体が滑り落ちていく。
「おい、おっさん。三人目の騎士とかはどうでもいいから、この質問にだけ答えろ。《グラム騎士団》のアジトはどこにある?」
そう言いながらもコーダの右腕を蹴りつけ、コーダの口から苦悶の呻きが漏れる。
「生憎、物忘れが激しくてね。本拠地の場所なんて、とっくの昔に忘れ――がぁッ!?」
減らず口など聞きたくないと言わんばかりに、再びコーダの脇腹を貫手で貫く。
続けて、同じ箇所に前蹴りを叩き込み、蹴り飛ばされたコーダが力なく地面に仰臥した。
「で、アジトの場所は?」
「お前さんのせいで血が抜けちまってね。頭がフラフラして思い出せ――ぇッ!?」
ラガルは苛立たしげに指を鳴らし、コーダの体から血飛沫が上がる。
ラガルが質問し、コーダが減らず口で応じる度に、地面が血の赤に染まっていく。
貫手で貫かれ、蹴り飛ばされ、指を鳴らされて流れたコーダの血が、地面を赤く赤く染め上げていく。
その様に恐怖したラスパーは、せめてレティアだけでもと思い、懇願するように言う。
「レティア、お前だけでも逃げろ……! たぶん俺はもう……助からない。コーダさんがくらったやつと同じ魔法、くらっちまったからな」
「やだ! そんなのやだ! コーダさんは三人目の騎士さんは、あのラガルって人よりもはるかに強いって言ったッス! ヨハンさんも村の異変に気づいて絶対に戻ってくるッス! だから……だから……!」
耳聡く会話を聞いていたラガルが、コーダの拷問を中断し、ゆっくりと、ラスパーとレティアに顔を向けた。
「今……ヨハンっ言ったか?」
切れ長の黒瞳を見開き、訊ねてくるラガルに恐怖を覚えたレティアは、半ば反射的にブンブンと首を横に振ってしまう。
だが、かえってそれが嘘くさく見えてしまったのか、ラガルは得心の声をあげた。
「そうかそうか。お前らヨハン・ヴァルナスの知り合いだったか。だったら、なおさら見逃すわけにはいかねぇなぁ。あいつは俺様の獲物だからなぁ」
この時レティアは、自分がとんでもない失言をしてしまったことに気づく。
そして、想う。
ヨハンと、この男を会わせてはいけない――と。
この男は《グラム騎士団》の本拠地だけではなく、ヨハンも狙っている。
自分はもう助からないと言っていた兄を勇気づけるために、思わず、ヨハンが戻ってくるから大丈夫だと言ってしまったが、正直、この危険極まりない男とヨハンを戦わせたくないと思っていた。
たとえヨハンでも、この男には勝てないかもしれない。
コーダのように、拷問にかけられてしまうかもしれない。
そんなことにはなってほしくないから、戦わせたくないと思った。
ヨハンを狙っているこの男に、ヨハンの存在を教えてしまったのは自分の失態。
だから、わたしがどうにかしないと――そう覚悟を決めたレティアは、懐に忍ばせていたある物を取り出す。
ある物を見た瞬間、ラガルの口から「へぇ」と驚いたような吐息が漏れた。
「短銃媒体なんて持ってたのかよ。大方、帝国の兵から奪ったってところか」
レティアは短銃媒体に魔力を込め、弾丸を装填。銃口をラガルに向ける。
「よ、よせレティア! お前がどうこうできる相手じゃねえ!」
ようやく事態を飲み込めたラスパーが制止を求めるも、レティアはかぶりを振って拒絶する。
「その相手をどうこうしないと、この場はどうにもならないッスよ! ラスパー兄ちゃん!」
妹の決死の言葉が、ラスパーの心に突き刺さる。
確かに、レティアの言うとおりだと思った。
先程レティアには一人で逃げろといったが、所詮は一か八か以下の賭けにすぎなかった。
この男がこちらの逃亡を許すとは、とてもじゃないけど思えなかった。
「そうだな……そのとおりだ!」
ラスパーは震える手を、血が滲むほどに強く強く握り締める。
その痛みで強引に震えを止めたラスパーはレティアの隣に立ち、今一度光刃を具象し、長剣媒体を構えた。
「やるぞ! レティア!」
「うん! ラスパー兄ちゃん!」
そんな二人の様子を黙って見ていたラガルだったが、
「イヒ……イヒヒ……イヒャァアアァァヒャヒャッ! いいねぇ! そそるねぇ! その希望に満ちた顔! その顔が俺様の手で絶望に変わるんだから……たまらねぇ! たまらねぇなぁ、おい!」
愉快そうに不愉快な笑い声を上げる、ラガル。
これだけ油断していれば――そう思ったレティアは、ヨハンとの訓練を思い出しながら、ラガルの胴体の中心付近に狙いを定め、引き金を絞る。
ドシュ、と実銃よりもはるかに静かな音とともに魔力の弾丸が発射され、吸い込まれるようにラガルの胸に――
「おっと」
馬鹿笑いしていたラガルだったが、てめぇの行動なんざお見通しだと言わんばかりに、上体を反らすだけで銃撃を回避する。
兄妹ゆえか、妹が発砲するタイミングを直感で理解していたラスパーは、銃撃をかわした直後の隙をつくべく一気にラガルに肉薄する。
さらに、
「!?」
ラガルの傍で、息も絶え絶えになって膝をついていたコーダが突然立ち上がり、ラガルを羽交い締めにする。
「俺ごと斬れええええええっ!!」
コーダの叫びを聞いたラスパーは、砕けんばかりに歯を噛み締めると、
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
言われたとおり、コーダごと斬る勢いで、頭上に掲げた長剣媒体を振り下ろす。
決まった――と、誰もが確信したその時、
ラスパーと四肢と、コーダの背中から、夥しい量の血飛沫が噴き出した。
「ぐあああああああッ!! ああ……あああああッ!!」
激痛のあまり手からすっぽ抜けた長剣媒体が夜闇の彼方へと飛んでいき、勢いをそのままにラガルの目の前で盛大に転んだラスパーが、苦悶と苦痛を吐き出しながら悶絶する。
ラガルを羽交い締めにしていたコーダが、崩れ落ちるようにズルリと地面に倒れ伏す。その瞳からは、命の輝きはおろか、その残滓さえも感じ取ることはできなかった。
「そん……な……」
レティアの口から絶望の吐息が漏れる。
ラガルは心底愉快そうな笑みを顔に貼り付けながら、心底三人を馬鹿にするように口走った。
「言い忘れてたけどよぉ、てめぇらに撃ち込んだ〝トーチャーグレイン〟を操るのに、わざわざ指を鳴らさなきゃいけねぇって決まりはないんだぜ? イヒ、イヒャヒャ、イヒャヒャヒャヒャッ!」
散々笑った後、今さらながらコーダが死んでいることに気づき、舌打ちする。
「チッ、死んじまったか。……まぁ、いい。騎士はまだ一人残ってるって話だしな。それよりも今は……」
ラガルは、地面を転げ回って悶絶するラスパーの腹に蹴りを叩き込む。
ラスパーの口から上がった断末魔じみた絶叫と、レティアの口から上がった慟哭じみた悲鳴を聞き、ラガルは恍惚とした表情を浮かべた。
「や、やめるッス! こ、今度こそ当てるッスよ!」
兄を助けるため、どうにか震えを抑え込んだ銃口をラガルに向ける。
そんなレティアを見て、ラガルは舌舐めずりをした後、余裕たっぷりに断言する。
「無理だなぁ。てめぇの腕じゃ、何百発撃とうが俺様には当たらねぇ」
ラガルの言葉に、一切の誇張はなかった。
現に、先の銃撃は完璧に不意を突いたにもかかわらず、ラガルは余裕でかわしてみせた。
知らず、レティアは唇を噛み締める。
「だが、俺様にも一応慈悲ってもんがある。俺様の提案に乗ってくれるなら、てめぇら二人くらい見逃してやらなくもねぇぞ」
「……ヨハンさんの居場所を教えろだなんて提案じゃないッスよね?」
「そんな無駄な提案はしねぇよ。どうせ来てくれるんだろ? この村によぉ?」
先の失言を思い出し、レティアは口ごもる。
「なぁに。提案ってのはたいしたことじゃねぇ。てめぇの兄ちゃんと、そこでくたばってる騎士様に撃ち込んだ〝トーチャーグレイン〟を、てめぇにも受けてもらおうってだけの話さ。でもって一〇回、〝トーチャーグレイン〟の攻撃に耐えることができたら、てめぇらのことは見逃してやるよ」
「ぐ……ぅぅ……レティア……そんな馬鹿な提案に乗――おぶッ!?」
ラガルはまたしてもラスパーの腹を蹴り、黙らせる。
もはや選択の余地はないと思ったレティアは、
「やめて! 提案に乗るッス! だから……だから……!」
ラガルの笑みが、かつてないほど邪悪に歪む。
「良い心構えだ。それじゃ早速いくぜ」
「やめ……ろ……」
必死に呻くラスパーを無視し、ラガルはレティアに向かって掌をかざした。
「〝トーチャーグレイン〟」
直後、チクリと刺すような痛みを胸に覚え、レティアは思わずキュッと目を閉じてしまう。
この痛みはあくまでも序幕。
本番はここからだと、震える心に言い聞かせる。
「それじゃ、始めるぜ?」
「やめろ……やめてくれ……」
ラスパーの懇願を心地よさそうに聞きながら、ラガルは指を鳴らした。
直後、
「~~~~~~っ!?」
右肩が吹き飛んだのではないかと思えるほどの激甚な痛みが、レティアを襲う。
けれど、レティアは血が滲むほど唇を噛み締め、なんとか痛みを堪えきった。
「ふぅぅ……ふぅぅ……ッ」
目尻に涙を滲ませながらラガルを睨む。
その行為が、かえってラガルを喜ばせていることにも気づかずに。
「それじゃぁ次、いってみようか」
パチンと音が響き、少女の無垢な血が夜空に舞う。
激痛に耐えるレティアの呻きが、妹が嬲られる様を眺めることしかできないラスパーの嗚咽が、夜風に流されていく。
そして――
「こんなもん……スか……?」
着衣はおろか、亜麻色の髪をも血の赤に染めながら、レティアは見事十度にわたる激痛を耐えきってみせた。
さすがにこれには驚いたのか、ラガルが心底感心したようにレティアに拍手を送る。
「おいおい、すげぇな。予想じゃ五回も耐えられないと踏んでたんだが……こりゃ、俺様の負けだ。約束どおり、てめぇらのことは見逃してやるよ」
その言葉の全てを信じることはできない。
だが、それでも、その言葉を聞いた瞬間に、レティアの緊張の糸が切れてしまい、自分の意志とは関係なくその場にへたり込んでしまう。
十度に及ぶ激痛のせいか、血を流しすぎたせいか、レティアの顔色は死相を思わせるほどに青白くなっていた。
「ラスパー……兄ちゃん……」
もう一度立ち上がる力はもはや残っておらず、四つん這いになりながら、地面に仰臥するラスパーのもとへ向かう。
移動中こっそりとラガルを一瞥するも、まるでこちらへの興味をなくしてしまったように森の方角を眺めているだけで、約束を反故にしてまで何か仕掛けようという様子は見受けられなかった。
ほどなくして、レティアはラスパーのもとにたどり着く。
ラスパーの顔は、涙でグシャグシャに濡れていた。
身じろぎ程度しか動けない兄の頭を膝に乗せ、ニッカリと笑う。
「ラスパー兄ちゃん……やったッスよ……」
「レティア……ごめん……俺が……俺がもっと強かったら……」
「それはまあ……今後に期待ということで……」
息も絶え絶えになりながら、嬉しそうに言葉を交わす。
その一方で、ラガルは周囲に耳を澄まし、
「随分静かになったなぁ……。つうことは、下の連中もメインディッシュ以外はもう食べ尽くしたってことかぁ」
レティアたちに見えないよう、邪悪に、歪に、口の端を吊り上げる。
「そいじゃまずは、目の前のご馳走を平らげるとするか」
じゅるり、と舌舐めずりした直後、
「がはッ!?」
ラスパーの左胸――心臓の位置から血飛沫が上がり、同時に、口から吐き出された血がレティアの頬を赤く濡らす。
「…………え?」
ひどく呆けた声が、レティアの口から漏れる。
「兄……ちゃん……?」
膝の上に乗せていたラスパーの温もりが、消えていく。
「え? え?」
心が、現実を拒絶する。
「こ、こんな時に何やってるんスか……。ほら、ラスパー兄ちゃん。起きて……起きてぇ……!」
ペチペチと何度もラスパーの頬を叩くも、反応は返ってこない。
それどころか、触れるたびにラスパーの頬は冷たくなっていき、兄の死という現実がレティアの心を少しずつ蝕んでいく。
「兄ちゃん……起きてよぉ……」
ポロポロと涙を零しながら、何度もラスパーの頬を叩くも、やはり反応は返ってこない。
やがて、
「やだ……」
心の全てが現実に蝕まれ、
「やだ……やだやだやだやだやだやだっ!! やだ……やだぁ……」
〝トーチャーグレイン〟による拷問を受けていた時は、ついぞ折れることがなかった心が、折れる。
瞳の内に宿っていた希望の光が消え、絶望の闇に満たされていく。
慟哭するレティアは見て、ラガルは今宵一番の笑みを浮かべながら、心底楽しそうに、心底嬉しそうに、心底愉快そうに、嗤った。
「その顔だよ!! 俺様が見たかったのはその顔だ!! 希望が絶望に変わる瞬間!! その瞬間の顔が最高なんだよ!! 特に女がその顔してくれると、たっまんねぇんだよ!! ほんと、これ以上の娯楽があるなら教えてほしいくらいだぜ!! イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
嗤って、嗤って、嗤い続けていたラガルだったが、
「「ぎゃああああああああああああああああッ!!」」
断末魔の叫びが聞こえたのも束の間、視界の向こうで、夜天を衝くほどに巨大な炎の旋風が巻き上がり、大口を開けたまま硬直する。
目算になるが、炎の旋風が巻き上がったのは村と森の境目付近だった。
「おい……おいおい……今のまさか〝クリムゾントルネード〟か!? あんな馬鹿でけぇの初めて見たぞ、おい!?」
そう言って、ラガルは忌々しげに歯噛みする。
自分はおろか、部下の中にもこんな芸当ができる魔法士は一人もいない。
いるとしたら、先程レティアの口から出てきた、
「ヨハン・ヴァルナスの仕業だってんのか!? ふざんなよクソがッ!!」
苛立たしげに悪態をつく、ラガル。
先程の〝クリムゾントルネード〟を見ただけで、否応なしに理解してしまったのだ。
自分とヨハンとの間に横たわる、魔法士としての致命的な実力差を。
「いや……大丈夫だ……魔法以外の部分で勝負すりゃ、なんとでもなる。俺様は七至徒候補だ。親の七光り野郎に負けるような器じゃねぇ。それに――」
ラスパーの遺体に縋りつき、泣きじゃくるレティアに視線を移す。
「この女が、本当にヨハン・ヴァルナスと知り合いだってんなら使えるはずだ……! 見てろよ、ナンバー90……! ヨハン・ヴァルナスをぶっ殺して、てめぇを七至徒から引きずり下ろしてやる……!」





