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10.「警察官」という人。


 こんなことをしているのも。

 この、今目の前にいる人間のことを知って、和馬(あのバカ)にいかにクニヤスカリン(おまえ)が「彼女」として相応しくないか解らせるためだ。

 

 そのためだ。



「ところでさ、和馬(かずま)とはどうやって出逢ったの?」

「……え」

「いやあさ、アイツ教えてくんねーのよ、シャイだからな。「彼女」のこと恥ずかしがっちゃってさ、いっちょまえに。おかげでこちとらなーんも聴いてねえの、よ」

 まくし立てる七海(ななみ)さんに、カリンさん――七海さんいうところの「姫さん」は表情を渋くします。


「いえ、でも、あまりにも、その……」

「カケラも知らんのよ。いつの間に出逢ってたのよ。何しろほら、俺らってろくに顔も知らんかったでしょ」


――だから、こういう事態になった。


 七海さんは自分の中の怒りを(おもて)に出さず、あくまで相手にとって「良い人」に映るような表情を続けます。

「ね?――ひ・め・さ・ん」


――もしかして、この人は知っているのかも知れない。

 突然、そんな考えが「姫さん」の頭の中を過ぎります。

――本当は、「私」はここにいてはいけない存在だってことを。

「本当、しょうがない話なんです」

――それでいい。バレてしまっていい。

「彼の恋人」だなんて真っ赤なウソ。

 出逢ったことから間違っていたのに。愛される筈ないのに。出逢えただけで幸せだったと。そう思える日々をくれただけで神様に感謝出来る。


――たとえ、それが罪深き私に神様が与えた「罰」だったとしても。

――全てが偽りで、真実なんか一つも無い日々だったけども。


 だから、神様は無かったことにした。彼の中から「あの日々」が消えることによって。



「二年位前でした。駅近くの信号待ちをしていて……。そこに、和馬さんもいました」

 最初は気にも留めませんでした。――どうして、ここにいるのか、なんて。

「私の斜め前でキョロキョロしていて……。何か探しているんだろうぐらいの感じでしたけど」

「……」


下ばかり見ていた彼女は、七海さんがどんな表情をしているのか気が付きませんでした。


「信号が変わって……。和馬さん、取り敢えずは渡ったんですけど、そこで立ち止まってしまって。私はそれを追い越す形になりました」

 他にも何人かその道路を渡っていて。でも、何となくその一人だけが気になって。

 でも、それだけで終わる筈でした。


「それから少しして……人通りの少ない道になった時、ふと何気なく後ろを見ると……いたんです。和馬さんが。私……」

 姫さんは思いっ切り躊躇ってから言います。――いえ、「言う」という日本語はそこにはまらないかも知れません。――そういう日本語には、作者、お察しかと思いますが、疎いので……。

「私、あ、あの……け、警察の方だと思わなかったもので……。怪しい人かと……思ってしまいました!」

 七海さんは思いっ切り頭を抱えます。――あのバカ。

「それだけの挙動不審者は、むしろそう思っておいた方が良いよ。本当に、変な人の可能性だってあるんだから。仕事の経験上で言わせてもらえるんなら、職種なんか関係無いし。「警察」な……だってろくでもない……というか。警察官だって人間なんだから。――全く情けない」

 いつものふざけぶりはどこへやら。もはや溜め息交じりで本音を言います。――どれが本音だか……。

「はい……」

 七海さんの穏やかですが有無を言わせない説得に、姫さんも頷かざるを得ません。――それが七海さんの思惑でしたが。


――あのバカ。どれだけぼんやりしてんだ?「対象者」に先に見付かってどうする? 顔も分かってたんだろ? それだから、つけこまれるんだぞ!


「フーッ」七海さんはわざと溜め息を声に出します。この本音を声に出さないように。


「それで私……慌てて走って、知り合いの人の所に駆け込んだんです……」案の定、姫さんは気が付かずに話を続けます。「その人は心配してくれましたけど、私何も言えなくて」


「どうした?」と訊いてくれた人。父親みたいに慕っていた――実の父との比較は出来ませんけど、だからでしょうか――その人もまた子供がいないので、娘のように心配してくれました。

「そしたら、その人、何かに気が付いていきなり誰かを呼んだんです。「おーい」って。え? と思って後ろ見たら和馬さんで……」

 恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした姫さんは少し口ごもります。「か、和馬さん、その人に前に別の場所で会っていたみたいで……。そのアパートに――だったんですけど――来たかったみたいなんですね。初めてだから道を確認しながら歩いていて……。改めて紹介されました」

「……刑事だって聴いた時はびっくりしただろ~」七海さんが情けなさそうに言います。

「はい……」色々な意味で姫さんが青ざめたことは言うまでもありません。


 警察だったことに二重の意味で驚き、苦笑しながら謝る立石和馬(たていしかずま)さんという人に、逃げようとは思えませんでした。警察なんか一生関わっていかないと思っていましたが。

 ましてや、「警察官」を好きになるなんて。

 絶対その想いが叶うはずは無かったのに。


やっと二人の出会いが描けました。十話目にして、ですが。そして、呼び名が「カリンさん」のはずなのに、「姫さん」を使用。七海さん独自の呼び名ですが、これからも使いたいくらい気に入ってます。和馬の情けなさぶりと、七海さんの内面を描くのもまた気に入っています。

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