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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
57/201

依頼人探し

2015/0913 修正

 購買を出て直ぐのこと。


「飼い主さんはいい人」

「話のわかる人は好き」


 双子の姉妹にそんなことを言われたのだが、


「あのさ、俺は飼い主じゃなくてマルスな。マルス・ルイーナ。

 覚えておいてくれよ。ルーフィ、ルーシィ」


 俺はしっかりと訂正しておいた。

 いつまでも飼い主呼ばわりされては困るからな。


「私達の名前を知ってるの」

「私達の名前を知ってたの」


 双子が訝しむように俺を見た。


「クラスメートの名前だ。知っててもおかしくないだろ?」


 それに、同じ顔の双子がいれば目立つからな。

 近くで見ても、双子は全く見分けが付かない。

 話し方も意識して同じようにしているのか、どちらがルーフィでどちらがルーシィなのか判断がつかない。


「それもそうね」

「そのとおりね」


 それだけ言って、二人は元の無表情に戻り、ただ俺を見つめてきた。

 こうして改めて二人の容姿を見ると、二人は本当に精緻な人形のようだ。


 闇森人ダークエルフの特徴を顕著に表す漆黒の肌に、エルフ族の特徴と同じ長い耳。

 髪の色は紫でかなり長髪。

 髪留めなどは付けず、腰の辺りまであるストレートヘアーだ。

 前髪も長く、頬にかかるようにして肩まで届いていた。

 瞳の色は金。

 だが光が鈍く、暗い印象を感じさせる。


「マルスの名前、覚えておく」

「マルスの名前、記憶しておく」


 交互に言葉を残し、二人は去って行った。


「はぁ……すまねえマルス。

 オレのせいで面倒なことになっちまって……」


 二人が去った後、疲れきったようにセイルが大きく溜息を吐いた。


「俺が面白そうだと思って依頼クエストを受けたんだ。

 お前が気にすることじゃないだろ?」


 俺が言うと、セイルは少し考えた素振りを見せ、


「……あんたさえ良ければ、依頼クエストを手伝わせ――」

「あ~、やっとマルスさん発見なのです!」


 なにか言おうとしたセイルの言葉は聞き覚えのある声に遮られていた。

 目を向けると、ばたばたと俺に近付いてくる少女が一人。


「マルスさん、もう探しましたよ!」


 兎人ラビットのラフィだった。


「おう、ラフィ。まだ帰ってなかったのか?」

「勿論です!

 マルスさんを置いてラフィが帰るわけありません」


 ピクピクと耳を震わせ、ラフィは俺に甘えるような上目遣いを向けた。


「教室に鞄が置いたままだったので、帰宅していないと思っていたのですが、

 購買になにか用事でも?」

「あぁ、依頼クエストを受けることになったんだ」

依頼クエスト?」


 首を捻るラフィに、俺は依頼クエストを受けることになった経緯を説明した。


「……つまり、そこにいる狼のせいで、マルスさんが迷惑をこうむったと?」


 ラフィの声は冷たかった。

 細められた目は、明らかにセイルを避難してる。 


「ちっ――」


 そんなラフィを見て、舌打ちするセイル。

 だが、何も言い返そうとしない辺り、セイル自身もそう思っているのかもしれない。


「いいんだよラフィ。俺がやりたくてやったんだ」

「……むぅ。……わかりました。マルスさんが言うなら」


 唇を尖らせながら、ラフィは渋々頷く。


「まだ依頼人が残ってるかもしれないから、

 俺は今から一年のBクラスに行ってみるわ」

「では、ラフィもご一緒します。

 依頼人クライアントはコゼットさんなんですよね?」


 俺は首肯した。

 ラフィもコゼットと面識があるからな。

 こう言ってくれてるし、付いてきてもらうか。


「セイルはどうする?」

「……こうなったのは元々はオレの責任だ。だから付き合わせてくれ」

「わかった」


 こうして俺達は一年の教室に向かった。

 教室に着くまでの間、ラフィとセイルはお互い威嚇しあっていた。




        *




 一年Bクラス。

 教室内には数人程度の生徒が残ってはいたが、肝心のコゼットの姿はない。


「いないみたいだな」

「まだ残っているかもしれませんし、念の為、残ってる生徒さんたちに聞いてみましょうか」


 そう言ってラフィが、


「あのすみません。

 コゼット・サルアさんはもう帰ってしまいましたか?」


 人間ヒューマンの少年に質問した。


「ぁ――」


 すると、絶句する少年。


「どうかしたのか?」


 固まってピクリとも動かない後輩の肩を俺は揺すった。


「あ、は、はい! 失礼しました。

 まさか、マルス先輩がこんなところに来ると思っていなかったので」


 少年は瞳をキラキラと輝かせ、俺の顔を凝視してきた。

 なんだか落ち着きがない後輩だ。


「そ、それで、どんなご用件でここに?」

「……コゼット・サルアさんはもう帰ってしまいましたか?」


 先程の質問と全く同じ言葉をラフィは繰り返した。


「コゼットちゃんですか?」

「はい。ラフィたちが受けた依頼クエスト依頼人クライアントがコゼットさんでして。まだ学院に残っているようなら、お話を伺いたいのですが」


 後輩にも丁寧な口調で話すラフィ。

 一部の生徒を除けば、基本的に誰が相手でもこんな口調なのかもしれないな。


「あ、そういうことですか。

 多分、コゼットちゃんなら中庭にいると思いますよ」

「中庭ですか」


 昼休み明けに、俺とラフィとコゼットが会った場所だ。


「はい。放課後は中庭の花の世話をしているみたいです。

 入学してからほぼ毎日行ってるみたいですよ。

 クラスの生徒も何人か見たことがあると言ってたので」


 一年の生徒たちの間ではよく知られた話のようだ。

 なら、早速行ってみるか。


「そっか。ありがとな」

「い、いえ! また何かあればいつでもいらしてください!」


 頭を下げられた。

 本来感謝するべきなのは俺の方なんだが……。


「そんなに畏まらなくていいぞ?

 もしまた何かあったら宜しくな」

「は、はい!」


 聞きたいことも聞いて、俺達は教室を出た。


 中庭に向かい歩きだすと、


「ま、マルスさんに話しかけられちゃったよ!」

「あ、あんまり恐い人じゃなかったね?」

「うん、いい人そうだった」

「昨日、中庭で戦ってるところを見たけど、めちゃくちゃ凄かったんだぜ」


 さっきの教室から、そんな会話が聞こえてきた。

 興奮しているのか全員声がでかい。

 昨日の宿舎でもそうだったが、どうやら随分と恐れられてるようだ。


「学院内で、マルスさんの名声がどんどん広まってますね!」


 至って真面目な様子のラフィには悪いが、俺の名声は全く上がってないと思う。 

 ただ、話を大きくしたような噂だけが広まっていく。

 そもそも、俺はまだここに来てからまともに戦ったことすらないのに。

 おかげで顔と名前だけは無駄に売れてしまった。


「……取りあえず、中庭に行こうぜ」


 なんとも言いがたい気分のまま、俺達は中庭に向かうのだった。

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