選択授業④ セイルVSルーフィ&ルーシィ②
2015/09/12 サブタイトル修正
先に仕掛けたのはセイルだった。
「風よ――舞え」
魔術を行使し、セイルが地を蹴った。
瞬間、セイルの足と地面の間に風が発生した。
その風の風圧を利用し、驚異的な速さで双子に迫り、
「らぁっ!!」
セイルの手刀が双子の片割れを切り裂いた。
が、その傷跡から黒い物が飛び散り、闇森人は消えていた。
「そんな攻撃じゃ無駄」
「私達には当たらない」
切り裂かれたはずの闇森人の片割れは、セイルの後ろに立っていた。
「ちっ――」
再び双子に挟まれる形になり、セイルは苛立たしそうに舌打ちした。
闇系統の魔術だろうか?
切り裂かれたのは、人の形を成した身代わりのようなものみたいだ。
「無駄だ? 当たらないだぁ?」
セイルは獲物狩る狼の如く、体勢を低くし、
「だったらテメーらが対応できない速度で動けばいいんだろうがっ!」
――疾走する。
爆発的加速。
その速度で相手を撹乱するよう動き回る。
「スピードだけは一人前」
「獣だからそれはしょうがない」
目で追うのは厳しい速度だろうに、双子の顔に焦りはない。
それどころか、表情一つ変えず。
「闇は全てを飲み込む――」
「闇は全てを沈める――」
二人は同時に詠唱を始めた。
すると、
「な、なんだっ――!?」
セイルが体勢を崩した。
身体が徐々に地面――黒い沼のようになった地面に飲み込まれていく。
セイルだけではない。
周囲にいた生徒も巻き添えをくらっている。
壁際まで離れていた生徒には、流石に被害はないようだが。
「おっと……」
いや、俺も他人事ではないようだ。
既に膝の辺りまで闇の穴に飲み込まれていた。
双子の身体は闇に飲まれてはいない。
術者には効果がないのだろう。
「犬らしくお腹を見せて許しを請うなら、助けてあげる」
「犬らしく従順に尻尾を振って遜るなら、助けてあげてもいい」
それはセイルに向けられた言葉。
「……ざけんじゃねえ」
だが、セイルはそんなことするわけもなく、
「テメェら程度が、調子にのってんじぇねえっ!」
突然、闇に飲まれていたセイルの身体が宙に飛んだ。
魔術で風を生み、その風圧で自分の身体を吹き飛ばし、
「切り裂き、切り割き、切り刻め――旋風」
その状態から放たれたセイルの魔術――激しい旋風が、双子を飲み込んだ。
「っ――」
「ぁ――」
ズタズタに裂かれた双子の姉妹の小さな声が聞こえた。
地面はもう、元に戻っていた。
だが、
「……全く。無駄な抵抗をするね」
「……全く。無駄な抵抗をするよ」
双子の姉妹は平然とその場に立っていた。
制服はズタズタに裂け、見る影もなくなっていたが、身体には傷一つないように見える。
セイルは着地し、双子を見据え――直ぐに視線を逸らした。
「お、おい……」
セイルは明らかに戸惑っている。
だが、その戸惑いはセイルだけではない。
双子の闇森人の姉妹の姿を見て、目を逸らす者、目を見開く者、凝視する者、その場にいた者たちが何かしらの反応を見せていた。
「……どうしたの?」
「……なんなの?」
流石に違和感に思ったのか、双子はお互い目を見合わせて首を傾げた。
「こ、このまま続けるのか?」
牙を抜かれた獣のように、セイルは戦う意思をなくしていた。
「わけがわからない?」
「なにを言っているの?」
本当に意味がわからないと、双子は傾げていた方向と反対にまた首を傾げた。
「あんたたち、自分の服を見てなんとも思わないの?」
双子の姉妹に、ラーニアは聞いた。
「……? 破けてる?」
「……? 破けてる?」
破けているのだ。
もう裸同然なくらい、ズタズタのぼろぼろに破けてしまっているのだ。
下はギリギリ隠れているが、胸部の慎ましやかな膨らみの先にある突起が見えてしまっていた。
なのに双子は恥ずかしがりもせずに、平然としている。
そのことに周囲は戸惑っていたようだ。
「と、とにかく、テメェーらは着替えるなりなんなりしてきやがれ!」
この異様な状況に耐え切れなくなったようで、セイルは二人を怒鳴りつけた。
「なんだか怒られたよ」
「なんだか怒られたね」
闇森人は顔を見合わせた。
「変な犬だね」
「変な犬だよ」
でも、双子はおかしそうに笑って、
「変でもなんだもいいから、その格好をどうにかしやがれっ!」
その叫びはもう、懇願に近かったと思う。
「そんなこと言われても、替えの服がないよ?」
「そんなこと言われても、替えの服がないね?」
そう言った直後、ポンと何かを思いついたように二人は同時に手を叩いて、
「ああ、そうなのルーシィ」
「ああ、そうなのルーフィ」
二人は再び顔を見合わせ、
「あの犬に弁償してもらおうよ」
「あの犬に弁償してもらおうね」
声を揃えて嬉しそうに微笑んだ。
こうして、セイルと双子の闇森人の戦いは、意外な決着を迎えたのだった。




