委員会へ
次の日――。
怪我を負ったミストレアのことが気になっていたが、
彼女は特に問題もなさそうに学院対抗戦の訓練に参加してきた。
「もう大丈夫なのか?」
俺が尋ねると。
「ああ、心配を掛けてすまない。
それと、情けないところを見せてしまったね」
彼女の表情に暗さはない。
が、恥ずかしそうに頬を染めていた。
後輩である俺に助けられたのが不本意だったのかもしれない。
「試合中に手を出すべきではなかったな」
「……いや、キミに助けられたのは事実だよ。
もっと精進しなくてはね」
既に気持ちは切り替えられているようだ。
「……どうか……したの?」
俺たちの話が気になったのか、こちらに寄ってきたイーリナが首を傾げる。
「問題でもあったっすか?」
続いて朗らかな声と共に、コルニスがやってきた。
会話に参加してはこないが、ツェルミンとノノノもこちらを見ている。
昨日の話を、みんなにもしておくべきだろうか?
そんなことを思いながら、俺はミストレアの顔を見ると。
彼女は小さく首を振り。
「なんでもないんだ。
さあ、訓練をしよう。
学院対抗戦まで、それほど長い時間があるわけでもないしな」
「そうっすね! 折角選手に選ばれたんっすから、がんばるっすよ!」
猫人族の少年は軽い調子で明るく声を上げた。
ミストレアもこれ以上、会話を続けるつもりはないようだ。
だからこそ、イーリナも口を開きはしなかったが、長い黒髪に覆われた顔を俺に向けていた。
それは「何があったのか聞かせろ」と、言われているような気がしたのだが。
「マルス君、訓練を始めよう」
凛とした気高い声が合図となり、俺たちは本日の訓練を開始した。
※
槍の騎士は、昨日の怪我の影響など感じさせない試合内容を披露した。
いつも以上に気合が入っているように見えた。
心配するな――ということを行動で示したのだろう。
確かにそれほど深い傷ではなかったし、教会の修道女であるユミナが治療しているのだから、体調的には問題ないはずだ。
(……気になるのは精神面だが――)
それから。
カーン、カーン、と授業終了の鐘が鳴ると同時に。
「じゃあ、お疲れ様っす!」
早々にコルニスは早々に帰って行った。
「ミストレア、この後はどうするんだ?」
「? 戦闘の委員会に行こうと思っているが?」
俺の質問に、ミストレアが即答した。
やはりそうなるか。
(……昨日の結果に満足がいかないからこその行動か)
「それがどうかしたのかい?」
「なら、俺も付いて行こう」
「なるほど。
マルス君は、ワタシを心配してくれているんだろうね」
正確に言うなら、戦闘の委員会で問題が起こることを心配していたのだが。
それは口に出す必要はないだろう。
「……ミストレア……委員会に……行くの?」
「ああ。
キミも来るかい?」
「……そう……ね」
小さく首肯し、イーリナが俺に顔を向ける。
「……マルス君は……自分の……委員会に……向かって」
「何故だ?」
「……行けば……わかるわ……」
最初から向かうつもりではあったが。
口下手な先輩の、思い掛けない発言に俺は不気味な違和感を覚えた。
(……何かあるのだろうか?)
「では、マルス君、ワタシ達は行くよ。
キミも時間に余裕があれば来るといい」
「……じゃあ……ね……」
二人は背を向け、学院校舎に足を進めた。
「マルス、僕たちももう行くぞ」
「お疲れ様、マルス君」
先輩たちが去って行くのを見て。
ツェルミンとノノノもこの場を去って行った。
(……俺も行くか)
イーリナに言われるままに行動するわけではないが。
どちらにしても、最初からみんなの顔を見ておこうと思っていた。
最近は学院対抗戦の訓練などで忙しく、ゆっくりと話をする時間もないからな。
たまにはのんびり話をするのもいいだろう。
(……イーリナがいれば、ミストレアも無茶はしないだろうしな)
あっちは任せておこう。
彼女の相手の心を読む技能があれば、戦闘の委員会にいる者達の『思考』がわかるはず。
俺の危惧していることが現実にならなければいいが。
(……一応、昨日起こったことをアリシアに相談してみるか)
そんなことを考えつつ、俺も委員会に向かう為、足を進めたのだった。