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部屋を追い出され

「……そう……。

 残念……ね……」


 本当に残念そうな口振りだ。


「……友達の多い……マルス君なら……知っていると……思ったのだけど……」

「友達が多い?」


 イーリナに言われ、思わず聞き返してしまった。


「違う……の……?」


(……そうなのか?)


 心の中で問いかける。

 今まで一度もそんなことを言われたことはないのだが。


「ここにいる……子たちだけで……五人もいる……わ……」


(……確かにそうだが)


 この学院に来るまでは、たった一人の友達すらいなかった俺だ。

 学院に来た当初と比べれば、あの時よりは遙かに友達が増えているけれど。


「待ってくださいイーリナ先輩!」

「……なに……?」


 甲高い声を上げ、ズカズカと俺たちの下に歩み寄ってきたラフィが。


「勘違いなさっています。

 ラフィはマルスさんの友達である前に、番いなのです!」

「……そ、そう……」


 白兎はくと昂然こうぜんと『番い』などと言い放つものだから、イーリナは尻込みしたようだった。

 さらに双子が席を立ったかと思うと。


「それを言うなら、私たちも」

「友達である前に、ご主人様」


 まるでラフィに対抗意識でも燃やすみたいに、ここぞとばかりに宣言した。

 ついでのように、イーリナはエリーにも目を向ける。


「わ、私ですか?」


 コクリと頷く口下手な先輩に。


「わ、私は……も、勿論、マルスの友達です」

「……そう……好意があると……」

「!? ――と、友達として好意があるのはと、当然ですよ!」

「? エリシャ、なに焦ってんだお前?」

「あ、焦ってないよ!!」


 いつもの凛とした耳心地のいい声音のエリーだが。

 時折、今セイルに対してしたように声を荒げる……というか、ムキになることもある。 誰よりも優しい銀の麗人も、機嫌が悪くなることがあるのは当然か。


「……なるほど……複雑な……関係ね……」

「そうか?

 みんな大切な友達なんだが」

「……事態を……複雑にしている……要因は……良くわかったわ……」


 今のやり取りだけで、イーリナは何がわかったというのだろうか?

 俺にはわからないが、思考を読むことが出来る技能スキルを持った彼女ならば、普段は見えてこない『何か』がわかるのは当然のことかもしれない。


 だが、考えてみればそんな力を持っているのなら、イーリナは誰よりも上手く他人と付き合えるのではないだろうか?

 それこそ、どうやったら友達を作れるのかなどというのは、この先輩の方が遙かに理解しているのではないだろうか?


「……マルス君や……みんなと……仲良くしたくて……ここに来たの……だけど」


 逡巡するイーリナが。


「……マルス君……少し……部屋の外に出て……いなさい……」

「なぜだ?」

「……重要なことなの……」

「どの程度だ?」

「最悪……あなたがこの場にいると……近い未来……この委員会が……内部崩壊する……程度には……」

「な、なんだと!?」


 一体何が起こるというのだ?

 余程危険な強敵でも現れるのか?

 だが、何があろうとそれだけは絶対にさけなければならない。


「わかった……暫く学院内をうろついてくる」

「ならラフィもご一緒しま――」

「あなたは……ここでお留守番よ……お話しましょ……」


 俺に付いてこようとするラフィを、イーリナは引きとめ。


「なら、私たちが」

「一緒に行く」

「あなたたちも……よ……」


 さらに双子の姉妹までも引き止められた。


「セイル……君は……マルス君と一緒に……外……」

「う、うっす」


 命じられるままに追い出されたのは俺たち男二人。

 残ったのは五人の女。


 一体この後、部屋でどんなやり取りがなされるのか。

 気にはなったが。


「マルス、この後はどうする?」

「……そうだな」


 今は残りの時間をどうするか考えるとしよう。




「取りあえず、移動しねえか?」

「わかった」


 直ぐに終わる話ではなさそうだからな。

 俺とセイルは特に行き場も決めず足を進め、とりあえず階段に向かうと。


「マルス君」

「にゃ?」


 階段を上がってくるアリシアとネネアに遭遇した。


「よう、アリシア」

「ね、ネネア先輩。

 お疲れ様です」


 俺は軽く挨拶をし。

 セイルは尻尾をビクッと揺らし深々と頭を下げた。

 普段は粗野なこの青い狼人だが、ネネアの前では必要以上に身を引き締めるようだ。


「あれから、何か問題はあったか?」

「いえ、今のところは平穏なものです」

「みんな、オメーにビビってんじゃにゃいか?」

「それはあるかもしれませんね」


 悪戯っぽく笑うネネアに、アリシアは同意した。

 みんなが委員会に遊びに来てくれないのは、俺が恐れられているのだろうか?

 などと、ネネアの発現を受けて真面目に考えてしまう。


「にゃんだオメーら、もう帰るのか?」

「い、いえ……少し辺りをうろついて来いと言われまして」

「あん? どういうことにゃ?」


 ネネアの視線が俺に向いた。


「俺たちがあの場にいると、委員会が内部崩壊すると言われたんだ」

「にゃ……?」

「な、何か問題が起こっているのですか?」


 俺の発言を聞き、柳眉に皺を寄せるアリシアは


「そんなことはないと思うんだが……イーリナ先輩がそう言っていた」

「イーリナが?」


 腕を組み、何か考えを巡らせているような素振りを見せた。


「彼女がそこまで言うなんて、なんだか心配になってきました。

 私も顔を出してみます」


 生真面目な生徒会長は、誰よりも心配性のようだった。


「にゃ? マジか?

 言っとくけど、あたしは行かにゃいぞ?

 あの女は苦手にゃ」

「では生徒会室に待機していてください」


 そんな慌てる必要があるのかと思うのが。

 アリシアは急ぎ足で交流の委員会部屋コミュニティールームに向かった。


「じゃあ、うちは行くにゃ」

「うっす! お疲れ様です!」


 去っていくネネアにセイルは再び深く頭を下げた。


「はぁ……」


 ネネアとの会話で随分と憔悴したようだ。

 そんな緊張することないと思うが。

 まあ、獣人同士色々とあるのだろう。


「疲弊したのなら、宿舎に帰って休むか?」

「いや、大丈夫だ。

 なあマルス。

 どうせ時間を潰すなら、戦闘バトル委員会コミュニティに行ってみねえか?」

「構わないが……」


 思えば俺は、生徒会以外の委員会コミュニティに行ったことがなかった。

 この機会に、一度顔を出してみてもいいかもしれない。


「あそこにいるのは血気盛んなクソ野郎ばかりだから、マルスが顔を出せばきっと喜ぶと思うぜ」


 それは訓練に付き合わされるということだろうか?

 軽く相手をするぶんには構わないが。


「じゃあ、行くか」


 階段を下りずに方向転換。

 セイルの先導で、俺は戦闘バトル委員会コミュニティに向かった。

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