仲良くなる為の方法
大きなトラブルに見舞われることもなく。
学院対抗戦の代表選手たちは毎日の訓練に励んでいる。
それは俺も同様で。
ラーニアの出す無茶な勝利条件をチーム全員で協力し達成する為に、日々訓練を重ねていた。
絶対に一人では達成できないような条件にされるので、否応なしにチームワークを学ぶいい機会になった。
お陰で鬼喰にも慣れ、俺たち代表チームは訓練で負けることはほぼなくなっていた。
ただ、それは俺たちの実力以上に、この競技においてイーリナの技能が凄まじい効果を発揮しているからだ。
相手の思考を読むことで、誰が鬼なのかを把握することができる。
競技のルール上、敵が鬼であることを証明できればチームを潰せるのだ。
何度か同じチームになって、俺とイーリナは行動を共にしたのだが。
「……ふふっ……マルス君が入れば……直ぐに紙を奪える……わ……」
謎多き先輩は、そんなことを言って不気味に笑っていた。
彼女の能力があれば狙う敵を定めることが出来るので、万一敵チームと交戦になった際に便利だ。
また、チームメイト同士で勝利条件を直接伝えることができなくても、イーリナの技能があれば勝利条件を話すことなく協力してもらうことが可能だった。
一見、イーリナは協調性に乏しいように見えなくもないが。
思考を読むことで、こちらが望むことを把握し動いてくれる為、チームを組んだ際は非常に楽だ。
それを感じているのは俺だけではなく、きっと選手全員がそう感じているだろう。
正に、この競技の要の選手と言っていい。
かといって、イーリナ一人に負担を掛けるわけにもいかない。
だからこそ、彼女の動きを見た上で俺自身も行動する。
いつでもサポートに回れるように。
チーム戦ということは常に念頭に置いていた。
それから、午後の訓練を何試合かこなした頃。
――カーン、カーン。
既に日が暮れ訓練の終了を告げる鐘が鳴った。
「そこそこいい感じね。
もっと厳しい勝利条件を考えとくわ。
代表選手側にはハンデがあってもいいわね」
授業の終わりに選手を集めると、ラーニアはこんなことを言った。
腕組みし俺たちを見据える深紅の双眸。
だが、その表情はどこか満足そうだった。
この紅蓮の教官が考えていた以上に、ここ数日は俺たちが結果を出せているのかもしれない。
それからラーニアの口から解散を告げられ、
「んじゃ、また明日っす~」
「ああ、明日も宜しく頼む」
「お疲れまでした」
「ノノノ、この後、軽く訓練に付き合ってくれ」
それぞれ行動を開始した。
俺は当然のように委員会に向かう為、学院校舎に戻ろうと足を進めていると。
「……マルス……君……」
同じく校舎を目指していたのか、俺の後を付けてきたイーリナに声を掛けられた。
「どうかしたのか?」
「……委員会に……行くの……でしょう……?」
「ああ」
「……私も……行っていい……かしら……?」
「ああ、勿論構わないぞ。
というか、わざわざ断る必要なんてない。
来たいなら好きな時に来てくれ」
俺の委員会は交流だ。
来る者を拒むつもりはない。
「……あり……がとう……」
感謝の言葉を述べたイーリナ。
その声音は少し弾んでいた。
そして、俺とイーリナは共に委員会に向かった。
階段を上り、委員会部屋に到着し扉を開いた。
すると。
「あ、マルス。
お帰り」
「マルスさん! お帰りなさい! お待ちしてました!」
「ご主人様、お帰りなさい」
「今日は、私たちが先だった」
「……お帰りって、家じゃねえんだからよ」
みんなが出迎えてくれた。
セイルの言うように、ここは自宅ではないが。
「いいじゃない。
ここは皆の居場所なんだから」
エリーは優しい微笑を浮かべて言うと。
セイルもそれ以上、否定をすることはなかった。
(……居場所か)
ここは、みんなで集まる為に用意した俺たちの居場所。
だから、お帰りというのは決しておかしいことではないように思う。
「ラフィがマルスさんを出迎えるのは当然のことです!」
「そう、ここは私たちの家」
「一緒に過ごす場所」
与えられたばかりの委員会部屋だが。
メンバー全員、既に自分の部屋のような感覚で過ごしていた。
「……みんな……仲良しなの……ね……」
「あ、イーリナ先輩、お待ちしておりました!」
俺と共にやってきたイーリナを歓迎するラフィ。
(……意外だ)
この白兎が女性を歓迎すること自体、非常に珍しいことなのだが。
ここ数日で、ラフィとイーリナは随分と仲良くなっていたようだ。
「……誰?」
「……知り合い?」
ルーシィが右に、ルーフィが左に首を傾げる。
二人は初対面だったようだ。
「三年のイーリナ先輩。
去年と今年の鬼喰の代表選手だよ」
「……紹介……助かる……わ……。
エリシャさん……で……いいのよね……?」
「はい」
「それで……そっちの子は……セイル君……だったかしら……?」
「……うす」
それほど深い関係というわけではなさそうだが。
エリーとセイルはイーリナと面識があるようだ。
「三人は知り合いだったのか?」
「うん。
去年の学院対抗戦の時に、少し話しをさせてもらったことがあって」
「実力のある先輩の名前は、オレでも把握してんだよ」
どうやら、去年の学院対抗戦の代表選手同士ということで交流があったようだ。
「……イーリナは遊びに来た?」
「……用件は?」
双子の金の双眸がイーリナを見つめる。
「……遊びに……ではないけれど……。
そうね……」
静寂――長い前髪を仮面にした少女は口を閉ざす。
何か答えにくいことなのだろうか?
たっぷりとした間が空き――
「人と……仲良くなるには……どうしたらいいの……かしら……?」
「そんなの俺が聞きたいぞ」
思い掛けない言葉に、俺は即答してしまった。




