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委員会の仕事

「私たち生徒会は、学院対抗戦の代表選手決定以降は警備を強化しています」

「なぜだ?」

「代表選手に選ばなかった生徒が、逆恨みで選手を襲うことがあるからです」

「そうすることで、無理矢理実力を証明しようって考える生徒がいるんだ……」


 説明口調のアリシアとは反対に、エリーは不安そうに表情を落とした。


「本当に一部の生徒だけなのですが、現状の結果に満足できていない生徒も多いということでしょうね」


 なら選手に選ばれた生徒を倒して実力を証明してやる。というわけか。


規定ルールに従って競い合うなら問題ないだろ?」

「ええ。

 私たちが立会人をした上であれば問題ありません。

 ですが、そうならない可能性――例えば逆恨みからの闇討ちなども十分に考えられるので」

「そういえば、去年も学院対抗戦の選手決定の後は荒れた記憶がありますね」


 割とどうでもよさそうにラフィは言った。

 だが、そんなラフィでさえ記憶に残る程度の争いがあったということだろう。


「今年はマルス君が、絶対的実力者が定めた規定ルール――争いの際には生徒会が立会人をするという決まりがあるので、去年ほど荒れることはないと思うのですが」

「争い事が増えれば立会人も足りなくなるだろうから、もしかしたら皆にも協力して貰わなくちゃいけないかもしれない」


 エリーとアリシアの二人は、いつも以上に辟易しているようだった。

 授業、学院対抗戦の訓練、学院の警備――それだけではなく、最近では生徒同士の争いの立会人もある。

 生徒会の仕事は増える一方なので、身体だけではなく頭を悩ませる機会が多いのは容易に想像できた。

 だからこそ。


「手伝えることがあるなら言ってくれ。

 この委員会は生徒会の補佐も仕事のうちだからな」

「ありがとう、マルス」


 俺の言葉に、エリーは溢れんばかりの笑顔で答え。


「宜しくお願いします」


 アリシアも柔和な微笑を浮かべ軽く頭を下げた。


「マルスさん、マルスさん」


 俺の腕をちょんちょんと引いて、上目遣いで俺を見たラフィが。


「ラフィも協力しますよ!

 ラフィは対抗戦のメンバーでもないので、委員会の中では唯一身軽に動けますから、きっとお役に立てます」

「勿論頼りにしているぞ」


 力強く宣言するように協力を申し出てくれた。

 だが。


(……考えてみれば、この委員会もラフィ以外は全員が学院対抗戦の代表選手なのか)


 そうなると、ルーシィとルーフィ、セイルは、訓練の内容次第では委員会の仕事に協力する余裕はないかもしれない。


「それでは、用件も伝えたので私は生徒会に戻ろうと思います。

 エリシャさん、今日の見回りはもういいのでゆっくり休んでください」

「仕事があるなら、私も手伝います」

「事務的なことなので大丈夫です」

「……わかりました」


 エリーが頷いたのを確認し。


「では、失礼します」


 一礼すると、アリシアは部屋から出て行った。

 かと思えば、直ぐに扉が開き。


「やっと来れた」

「疲れた」


 アリシアと入れ替わりで、ルーシィとルーフィがやってきた。


「お疲れ様、ルーシィ、ルーフィ」

「訓練、大変だったのか?」


 声音から疲弊しているのが伝わってきたが。


「訓練は普通」

「話すほうが大変」

「ふふっ、二人らしいね」

「話す努力をしたというだけで、凄い進歩に思えます」


 ラフィの言う通りだ。

 普段の二人なら、面倒だと投げ出してもおかしくない気がする。


 そんなことを思っていると、二人はてくてくと俺に近寄ってきて。


「試合で活躍して」

「ご主人様にいいとこ見せる」


 目尻を少し下げ、小さな笑みを見せてくれた。

 笑うことが苦手な二人の精一杯の笑顔。

 その表情の変化も、俺は少しずつわかるようになってきている。


「そうか。

 それは楽しみだな」

「活躍したらご褒美!」

「撫で撫でして、ぎゅっと抱き締める」

「ちょ――何をおねだりしてるんですか!

 マルスさん! ご褒美なんて不要ですからね!」

「結果に対してご褒美があった方が、やる気が出るのはわかるんだけど……」


 ちょっとした対価で二人のやる気が満たされるのであれば、寧ろやってやるべきだと俺は考えるのだが。

 それを口にすると、ラフィが本気で怒号を上げそうなのでやめておいた。


「なら、別のでもいい」

「一緒にお昼寝する権利を希望」

「もっとダメです!」

「……そ、それは、流石にね」


 先程まで困った顔をしていたエリーの表情が強張り、窘めるように言った。

 このまま話は平行線のまま進みそうだ。

 などと思っていると。


「入るぜ」


 扉が開くのと同時に、ぶっきらぼうな声が聞こえた。

 その声の主は蒼い狼人で――。


「セイル、今日はお前が一番最後だな」

「競技の話が長引いた。

 このまま帰ろうと思ったんだが、一応顔だけは出そうと思ってよ」


 話しながら、バサッと尻尾を一振するセイル。

 もう夕食が始まっているので、委員会に顔を出さずに帰っても何らおかしくはないが。

 それでも顔を出したのは、俺たちがセイルを待っていると考えてからなのかもしれない。


「……んで、まだ帰らねえのか?」


 未だに試合の対価について争うラフィと双子。

 その様子を、セイルは呆れた眼差しで眺めていた。


「……そうだな。

 みんな、そろそろ帰るか」


 伝えて俺が席を立つと。


「そうだね。

 もう夕食も始まってるだろうし」

「わかりました。

 いいですか双子、この件については戻ってから話を付けますよ!」

「兎が決めることじゃない」

「そう、ご主人様が決めること」


 口論しながらも、全員が席を立ち。

 俺たちは委員会部屋コミュニティルームを出るのだった。


 帰路の最中。

 ルーシィとルーフィ、セイルの三人に、暫く生徒会の仕事が忙しくなるかもしれないということと、その手伝いをする機会が増えるかもしれない――という話を伝えた。

 三人からは特に反対意見もなく。

 可能な限りは手を貸すということで納得してくれた。


 学院対抗戦の訓練や委員会の仕事と暫く忙しくなりそうだが。

 それほど大きな問題は起きないだろうと俺は考えている。




 そして――その考えの通り、大きな問題もないまま数日が経過した。

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