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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
122/201

代表選手決定

「まず一人目、マルス」


 ラーニアがその端正な顔を俺に向けた。

 そして周囲もうんうんと頷いている。

 まるで俺が選ばれるのは当然と言いたそうだ。

 俺も目を見張るような結果を出せたとは思っていなかったのだが。


「ファルトを抑えられる生徒があんた以外にいないからね」


 なるほど。

 どうやら、俺がファルトを抑えるのは確定らしかった。


「次、二人目はエリシャ」

「え? 私ですか?」


 名前を呼ばれたエリーは、信じられないといった面持ちで疑問を口にした。

 だが、エリーが選ばれることを疑問に思っていたのは彼女自身だけで。

 不服の声を上げる者は誰もいない。


「イヤなら無理にとは言わないわよ?」

「い、いえ、是非やらせて下さい!」


 教官の問いに、エリーは気合に満ちた表情で決意を表明した。


「なら、頼むわね。

 作戦指揮はあんたに任せるわ。

 要するにチームリーダーね」

「は、はい!」


 エリーは周囲の状況を冷静に見極めて、自分の取るべき行動をしっかりとこなしていた。

 それに試合では、面白い作戦の立案をしていたようだったし。

 その辺りが評価されたのかもしれない。


「続いて、三人目はセイル」


 セイルは耳をピクッと動かした。

 だが、イヤがる素振りはない。


「午前の訓練で、旗の獲得数が一番多かったのはセイル、あんただったわ。

 身体能力の高さと狼人の特性はこの競技に活かせるはず。

 頼んだわよ」


 首肯することで、セイルは返事をした。


「で、最後の一人だけど」


 最後の代表選手(レギュラーメンバー)の名前をラーニアが口にしようとした時。


「うむ、わかっていますともラーニア教官。

 この僕が責任を持って引き受けますよ」

「ラフィに頼もうと思うわ」

「ははは、任せてくだ――って、僕ではないのか!?」


 ツェルミンが席を立ち机をドン! と叩いた。

 様子を見る限りだと、怒りを向けているのではなく、驚きからの行動のようだ。


「何故です教官!? そもそも身体能力の低い兎は死旗デスフラッグに向かないはずです!?」

「正直、最後の一人は結構悩んだのよね。

 セイルを外して双子もありかなとか、

 ノノノを入れてバランス重視でいこうかとかね」

「ちょ、僕は? 僕の名前が上がっていないではないか!」


 我らが教官の発言に、ツェルミンは激しく反論した。

 全く自分の名前が上がらなかったのが不服だったようだ。

 そんなツェルミンにラーニアは。


「あんた、色々と惜しいとこはあるんだけどね。

 とりあえず、現状は補欠よ」

「ほ、補欠!? 冗談を言っているのか?」

「負けるわけにはいかない勝負で冗談を言うわけないでしょうが!

 あんた、自信満々なのはいいけど、ちゃんと実力を付けてからにしなさい!」

「な……」


 その言葉が切っ掛けとなったのか、ツェルミンは立っていた膝から力が抜けたみたいに、ガタンと腰を落とした。

 実力不足だと言われたせいで、どうやら自信喪失中のようだ。


「ちなみに代表選手に何かあった際の保険として、補欠も四人選んでおいたわ。

 ルーシィ、ルーフィ、ツェルミン、ノノノ、あんたたち四人は補欠メンバー。

 もしもの時は試合に参加してもらうから」


 ルーシィとルーフィはラーニアではなく、俺に顔を向けた。

 二人とも、少しだけ微笑しているのがわかった。


 小人族のノノノは、しっかりとラーニアに「はい」と返事をしていた。

 ツェルミンはまだ項垂れている。


「それと、選手に選ばれなかった者たちも訓練には強制参加よ。

 学院対抗戦前の事前訓練と思って参加なさい」


 クラスにいる生徒たちでイヤだと口にする者はいなかった。

 それどころか、神妙な顔をしている。

 学院対抗戦というのは、生徒たちにとってそれだけ重要ということなのかもしれない。


(……確か、大手ギルドの代表も見に来るんだったな)


 自分の人生を左右されると考えると、真剣になるのは当然のことか。


「それと、一応聞いておくけど。

 この決定に不服のあるものはいるかしら?」


 教卓から生徒達を見回すラーニアに。


「ある! 不服に決まっている!」


 愕然としていたツェルミンが、息を吹き返すみたいにバッと顔を上げ、ラーニアは異議を申し立てた。


「あんた、さっき実力が足りてないって言ったばっかでしょうが」

「確かにマルスのような化物と比べたら、幾分劣っているかもしれませんが、

 他の者たちと比べて僕が劣っているとは思えません」


(……化物? って俺のことか?)


 酷い言われようだ。


「確かに個人の能力で言えば、全員それほど差はないわよ。

 実際、あんたの魔術の制御はこの学年じゃ優秀なほうだし」


 優秀と言われ、ツェルミンは不満に歪めていた顔を弛緩させた。


「そ、それならば!」

「でもねツェルミン。

 死旗は団体戦なのよ? チームワークも必要なの。

 あんたはちょっと和を乱し過ぎよ。

 勿論、それを補うくらいの圧倒的実力があれば話は別だけど」

「僕にその実力がないと?」

「あると思ってるの? あんたなんてファルト辺りと戦ったらワンパンよ?」

「わ、ワンパン――!?」


 まるで殴られて衝撃を受けたみたいに、ツェルミンの身体がぐらっと揺れた。


「魔術制御で言えば、ルーシィとルーフィの方が圧倒的に上だし」

「ぐはっ――!?」


 再びツェルミンの身体がグラつき、膝にきているのかフラフラだ。


「作戦指揮だってエリシャやラフィの方が上」

「はうっ――!?」

「それに身体能力もセイル以下じゃない」

「ぉ……ぉ……」


 物理的なダメージを受けていないのに、なぜツェルミンはこんなボロボロになっているのだろうか?

 ばっちりと整っているオールバックが、振り乱れたようにボサボサになっていた。

 ラーニアの容赦ない辛辣な発言が原因だろうか?

 間違ったことなど言っていないし、全て事実を述べているだけではあるのだが。


「ら、ラーニア教官、いくらそれが事実でも、これ以上は……」


 心配するように、優しく声を掛けたのはノノノだったがのだが。


「じ、事実だったのか……」


 ――バタン。

 彼女の言葉が決めてとなったようで、ツェルミンは気絶した。


「え!? ツ、ツェルミン!?」


 崩れ落ちるように床に倒れ白目を向いたツェルミンの姿に、ノノノは半狂乱になっていたのだけど、それがまさか自分のせいだとは微塵も思っていないようだった。


「うん、ツェルミンも納得してくれたみたいね。

 他に不服のある生徒は?」


 倒れ伏した傲岸不遜な少年の姿を見て、何がどう納得したと捉えたのかはわからなかったが。

 ラーニアに物申す生徒は誰もおらず。


「じゃあ、午後の訓練を始めましょうか。

 全員、校庭に出なさい」


 午後の授業が始まるのだった。

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