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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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昼休憩の終わりに

* マルス視点 *




 セイルを背負って階段を降りていると。


「……う、うぅ」


 背中で眠るセイルはうなされるような声を漏らした。

 外傷はないようなので、ダメージ以上にショックから気絶したと予想していたのだが、気絶してもなお、ネネアがにゃーにゃー言ってる姿を夢に見ているのだろうか?


(……起こしたほうがいいだろうか?)


 このまま夢で恐怖? に襲われるよりはマシに違いないと考えた俺は。


「セイル、大丈夫か?」


 声を掛けながら、背負っているセイルを軽く揺すった。


「う……」


 セイルが小さな呻き声を上げ。


「……ネネア先輩、それは」


 やはりネネアから責め苦を受けているのか?


「セイル、大丈夫――」

「その干し肉だけは……」


 ……なるほど。

 夢の中で干し肉を取られたのか。

 それは一大事だ。

 干し肉ということは、いざという時の非常食なのだろう。

 早急に起こしてやらねば。


「セイル、起きろ!」


 階段の上で一旦足を止め、激しくセイルを揺すった。


「ん……? じ、じしん……?」


 寝惚けた声を発するセイルだったが、背中越しにむくりと起き上がったのを感じた。


「起きたか?」

「……うん? マルス? あれ? ネネア先輩は?」


 セイルが動くたびに、身体が揺れる。

 ぶんぶんと首を振るような音が聞こえた。

 周囲の様子を確認しているのかもしれない。


「ネネアならいないぞ?」

「そ、そうか……」


 ほっ。と安堵しているようだった。


「それで、干し肉は無事だったか?」

「っ!? ま、マルス、お前なんでオレの干し肉のことを!?」


 俺の肩をギュッと掴み、セイルがグッと顔を寄せてきた。

 首を回すと、直ぐ横にセイルの顔があるのが見える。

 超近距離で目と目が合った。


「なっ――!? って、ちょ、ちょっと待ちやがれ!!

 なななな、なんでオレは背負われてんだ!」


 セイルは碧眼をギョとさせて。


「なんでってそれは」

「お、おろしてくれ!!」


 セイルがバタバタと背中で暴れ出した。

 階段の上段で足を止めているので、暴れられると危ない。

 もう直ぐ一階まで着くのだから、それまでは大人しくしていて欲しいのだが。


「ちょっと待てセイル。

 暴れるんじゃない」

「い、いいからおろしてくれ!!」

「今は階段の上だから危険だぞ?。

 一階に着いたら直ぐに下ろす」

「い、一階!? いいからマルス直ぐにおろしてくれ!

 こんなところ誰かに見られたら……」


 肩をガシガシと揺すられ、全身で暴走するセイル。

 危ないと言っているのに全く聞く耳を持たない。


(……仕方ない)


 俺は今までよりもがっちりとセイルを背負い、階段を踏み出した。


「ま、マルス! お前なんで進んでんだ!」

「直ぐにおろしてやるから少し落ち着け」


 暴れるセイルに構わず俺は階段を下りた。

 だが。


「あっ――」

「なっ――」


 しまった。

 思わず足を滑らせた。

 セイルを抱えながらも絡み合うように転がって。


 ごろごろごろごろ――バタン!!


 荒々しい音と共に、一階まで落下した。

 急所は守ったし、受身も取っている。

 外傷はないだろう。


「セイル、怪我はないか?」

「あ、ああ……」


 痛みに顔を歪めながらも。


「ふおっ!?」


 セイルが青い目を見開いた。


「ま、まままま、ママママルス!?」


 俺を押し倒すような体勢のまま、愕然とした様子で瞳を右往左往させている。

 別段、暑過ぎるというわけでもないのに、セイルは湯浴みの後みたいに頬を上気させていた。

 耳はピンと立ち毛が逆立っている。


「すすすすす、すすすまねえ」

「そんな謝らなくても大丈夫だぞ?

 それと、取りあえずどいてくれないか?」

「お、おう、そうだな」


 セイルが床に手を突き、立ち上がろうとした時――。

 タッタッタッタ――と足音が複数聞こえてきた。


「マルスさ――あああああ!? なななななにをやっているんですか狼男!!」


 顔を見なくてもわかった。

 絶叫の主はラフィだ。


「マルスさんの匂いが近付いてきたと思って飛んできてみれば――これはどういうつもりですか!」

「こ、これはただコケただけで……」

「ラフィは会長(あのおんな)から、マルスさんを護衛するように頼んだんですよ!

 なのに、あなたが送り狼になるなんて……!」

「ち、違うって言ってんだろが!」


 ラフィの発言に、赤面するセイル。

 そんな狼人にさらに追い討ちを掛けたるように。


「「ご主人様、取っちゃダメ」」


 これまた声が聞こえた。

 ルーシィとルーフィだ。

 どうやらラフィと一緒にきたのだろう。

 双子はセイルの顔をじ~っと凝視している。

 怪しい者でも見るような目付きだ。


「て、テメェーらまで何を言ってやがるんだ!」

「セイル、誤解を解きたいならまずどいたほうがいいと思うよ」


 冷静な意見を言ったのはエリーだ。

 俺が顔を横に向けると目が合って、エリーは苦笑してみせた。

 そしてセイルは。


「はっ――!? す、すまねえマルス」


 大慌てで立ち上がった。


「マルスさん、お怪我は?

 狼男に何かされていませんか?」

「ご主人様、平気?」

「痛いとこ、ない?」


 俺に駆け寄ってきた三人から、一斉に質問が飛んできた。


「この程度、問題ないぞ?

 さて、そろそろ鐘が鳴るだろ?

 さっさと教室に戻ろうぜ」


 言って立ち上がろうとする俺に。


「マルス」


 エリーはいつものように柔らかい笑みを向け、俺に手を差し出してきた。

 その手を掴み立ち上がって。


「あ~! エリシャさん抜け駆けは禁止です!」

「ぬ、抜け駆けって、そんなつもりないよ!」

「でも、手を握った」

「一人だけズルい」


 廊下で騒いでいると、必要以上に声が響く。

 あまりの俺たちの騒がしさに、教室からぞろぞろ生徒たちが出てきて。


『またお前か』


 と、多数の生徒が目で訴えかけてきた。


(……このままだと、また根拠のない噂が流れそうだ)


 そう思い。


「騒ぐの後だ。

 そろそろ昼休憩も終わるだろ? 教室に戻ろう」


 これ以上騒ぎが広がる前に。

 俺はみんなに声を掛け、教室に戻った。

 教室に入って直ぐに、昼休憩終了の鐘が鳴った。

 生徒たちが自分の席に戻る中で。


「セイル、はっきりさせたいのですが」

「……なんだよ?」


 ラフィの言葉に、セイルは表情を強張らせて。


「マルスさんにラブラブじゃないでしょうね?」

「違うわっ! せめてそこは友情にしとけっ!」


 強張らせていた表情筋をさらに引きつらせて、セイルは激しい反論をするのだった。


 それから直ぐにラーニアがやってきて。


「午後の授業を始める前に、試合に出場する代表メンバーを発表するわよ」


 選考結果が発表された。

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