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職業無職の俺が冒険者を目指してみた。【書籍版:職業無職の俺が冒険者を目指すワケ。】  作者: スフレ
第一章――冒険者育成機関 『王立ユーピテル学院』
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クラス訓練③

 全員で攻撃を掛ければ相手の意表をつける。

 そんな狙いも有り、俺たちは防御を捨て攻撃に特化することにした。

 四つの班を中央と左右に分け、試合開始と同時に直ぐに攻め込む為に、相手陣地に入らないハーフラインのギリギリに班を配置したのだ。


 だが、相手チームはそうではなかった。

 二十人以上いる白旗チームの生徒全員が、ハーフラインギリギリに一定間隔を開けつつ、横一列に並んだのだ。

 中央にいる俺たちは、一部の生徒と対峙する形になっている。

 対面する相手の間隔は巨大な噴水分――目算で十メートル以上は離れているだろうか?

 軽く周囲を見回すと、エリーは中央から少し離れた右側に、セイルは列の左端に姿が見えた。


 この並びを考えれば、どう考えても相手チームも守りは捨てている。


「じゃあ、全員位置に着いたみたいだし始めるわよ」


 だが、それをチームメイト達に相談する暇は既になく。

 ラーニアは両手を小さく広げて。


「それじゃ――始めなさい!」


 その声に合わせて、パン――と手の平を打った。

 瞬間――相手チームの生徒達が一斉に動き出した。

 中央で俺たちと対峙していた生徒数人が。


「「「うおおおおおおおおおお!!」」」


 と、雄叫びを上げ、全く怯む様子もなくこちらに突っ込んできた。

 回り込むだとか、距離を取るだとかは考えていないらしい。

 なら。


「ツェルミン、まずは向かってくる相手を無力化する。

 問題はないな?」


 指揮官(リーダー)に念の為確認を取った。


「も、勿論だ。

 排除しつつ相手の旗を狙うぞ!」


 了解を得たところで。


「闇の中で」

「這い蹲れ」


 深い色をした金の瞳を敵に向けた闇森人(ダークエルフ)の姉妹が、闇の魔術を行使した。

 すると、向かってきた三人の生徒が地面に足を取られた。

 噴水によって出来ていた影を利用し、闇の穴を作ったようだ。

 膝をつき、もがけばもがくほど、深く闇に囚われて直ぐに半身が闇の穴に落ちていた。


「無力化成功」

「ご主人様、褒めて」


 そう言って、撫でてとばかりに軽く頭を下げてくる二人。

 そんな二人を褒めたい気持ちもあったのだが。


「試合に勝ったらな」


 今は試合に集中する。

 既に十人近い敵が、こちらの陣地を駆け抜けていた。

 数が多い上に距離も開いていたせいもあり、全ての生徒をブロックすることはできなかったのだ。


 中央にいたもう一班も二人の敵と戦闘中だ。

 数は勝っているし、一人一人の技量にそれほど差はないので制圧は時間の問題だろう。

「貴様ら、何をしている!

 早く旗を探すぞ!」


 いつの間にか相手の陣地に侵入していたオールバックの指揮官が、大声で俺たちを呼んだ。


「大した指揮もせず、なんなのですかあの男は!」

「ラフィさん、今は急ごう。

 旗を回収しないと」


 ラフィはノノノに諭され、膨れた顔をへこませた。


「そうですね。

 ただその前に、双子に質問があります。

 この闇の魔術を数分後に解除することはできますか?」

「「可能」」

「では数分後にこの魔術を解除してください。

 ラフィは少しやることがあるので、皆さんは先行してください」


 意味ありげな笑みを見せるラフィ。

 どうやら、彼女ならではの作戦があるようだ。


「わかった」


 周囲に敵影はない。

 お互い旗の回収に全力を注いでいる以上、ラフィが襲われる心配もないだろう。

 そう判断して。

 俺たちはラフィの言葉に従い、ツェルミンを追いかけた。

 先行する横柄な指揮官に追いつくのは容易だった。

 走っている速度から察するに、身体能力はそれほどでもないのかもしれない。


「やっと追いついたか」


 俺たちが横に並んだのをチラリと確認し。


「まずは正門まで行くぞ。

 正門付近に微弱な魔力を感じたのでな」


 ツェルミンの口から、意外にも頼れる発言を聞くことができた。

 大きな魔力であれば、何もせずとも感じることはできるが、

 旗に流れる魔力はかなり微弱だったので、距離があると探知もしづらい。

 この男の発言を疑うわけではないが、俺自身も敷地内の魔力を探ってみた。

 正門に、魔力が二つ。

 正門を北側として見て、西側に四つ、東側に四つ、魔力を感じた。

 恐らく(フラッグ)に間違いないだろうが、俺達のチームの黒旗よりも多少だが魔力が強いように感じる。

 これではフラッグの位置がバレバレだった。


(もしかしたら、相手チームの戦術だろうか?)


 何か意図があると考えるのが無難に違いない。


「正確な本数はわからないが、旗の位置は掴んだ。

 少し走る速度を上げるぞ。

 しっかりと付いてこいよ」


 ツェルミンが自信たっぷりにそう宣言し、「風よ――」と魔術を行使し加速した。

 しかし、風の魔術を行使してもツェルミンの動きはお世辞にも速いとは言えなかった。 これならいっそ。


「ツェルミン、先行してもいいか?」

「先行? まあ、できるのなら構わないが?」

「そうか。なら、先に行かせてもらおう」


 許可は得た。

 俺は周囲の速度に合わせて走るのをやめ――加速した。


「なっ!?」


 一瞬背後から叫びにも似た声が聞こえたが。


「なぜ魔術の行使もなしに僕より――」


 直ぐに距離が大きく開いてしまった為、ツェルミンが俺にどんな言葉を向けたのかははっきりわからなかった。

 そのまま全速力で疾走し、正門にたどり着いた。


 無駄に敷地が広い為、移動だけでもかなり面倒だ。

 噴水から正門まで、直線距離で数百メートルはあるんじゃないだろうか?

 その上、小さな旗まで探さなくてはならないのだから厄介だ。


「この辺りで間違いないはずだが……」


 間違いなく微量な魔力を感じる。

 だが視界で確認できる位置に旗は見当たらなかった。


(だとすると……)


 少し考え、俺は正門の前で膝をついた。

 そして、魔力を感じる位置(ポイント)に手を伸ばす。

 すると。


「なるほどな」


 指先に何かが当たった。

 柔らかい布のような感触がする。

 俺はそれを軽く摘み、魔術解除(ディスペル)を行使すると。

 何もない空間からまりで浮き上がるように白い旗が姿を現した。

 だが残念な事に、その旗には黒い髑髏ドクロが刻まれていた。


「……抜かなくて正解だったな」


 だが、これで旗から感じる魔力が少し強かった理由がわかった。

 敵チームは、フラッグ自体に幻惑の魔術を掛け視覚から遮っていたのだ。

 こんな仕掛けをしていれば、旗から少し強い魔力を感じたのも当然だろう。


「追いついた」

「旗はある?」


 背後から聞こえたルーシィとルーフィの声に振り返り。


「見つけるには見つけたんだがな」


 俺は地面に突き刺さっている死旗に目を向けた。

 双子の姉妹は俺の視線を追って、旗に描かれた髑髏を視界に入れた。


「ど、どうだ? 成果はあったか?」

「遅くなって……ごめんなさい」


 ルーシィとルーフィから少し遅れて、ツェルミンとノノノが到着した。

 二人とも軽く息を切らせ、髪の毛を乱している。


「一本見つけたが、死旗だ。

 それよりも、少し面倒なことがわかった」


 俺は敵チームの旗全てに、幻惑の魔術が掛けられている可能性があることを伝えた。


「厄介だな……。

 旗のおおよその位置は直ぐに察知できても、結局場所の特定に時間がかかるではないか」


 乱れたオールバックを直すように撫でながら、指揮官が眉を顰めている。


「旗が見えなくてもフィールドがここまで広くなければ大した問題じゃないんだけど。

 見えない旗が十本ともなると、一つ一つのフラッグにディスペルを掛けているんじゃ、それだけで時間がかかっちゃうもんね。

 この特別ルールでは、死旗デスフラッグの基本と言われる戦術に沿って行動してちゃダメなのかも」


 小人族のノノノも柔和な表情を引き締めていた。

 ノノノの言葉通りというわけではないが、相手チームは単独行動に近い形で一人一人がスタート直後に疾走していた。

 広いフィールドを纏まって動くよりも、単独で旗を探した方が効率的だと考えた者がいたのだろう。

 今回の旗増し敷地内全体がフィールドという特別ルールならば、確かに効率的なやり方のように思える。

 誰か一人でも旗を見つければ、直ぐに回収できるのだから。


「どうする指揮官(リーダー)?」


 これは今から戦術を変更するか? という意味も込めて俺は尋ねた。

 すると。


「……左右に展開した班の状況を知りたい。

 もし魔力の探知もせずに『目』だけで旗を探しているとすれば、見つけようがないからな。

 僕とマルスは右に展開した班を、双子は左に展開した班に移動してくれ。

 ノノノは中央にもう一本あるはずの旗の回収を頼む」


 完全に単独行動ではないが、分かれて行動するように指示が出された。

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