クラス訓練④
「了解」
ノノノは表情を引き締め、直ぐに行動を開始した。
対照的に。
「私たち、ご主人様と別?」
「イヤ。一緒がいい」
ルーシィとルーフィは首を横に振った。
「なっ――い、イヤだと!?
し、指示通りに行動してくれないか?」
そんな双子の態度があまりにも予想外だったのか、傲岸不遜な指揮官が多少下手になっていた。
あまり思わしくない試合の状況に焦りがあるのだろう。
「ルーシィ、ルーフィ、頼む」
俺からも二人に頼むと。
「わかった」
「従う」
即答された。
「おい! なんなのだそれは! だったら最初から従ってくれ!」
怒声を上げる指揮官の剣幕など全く気にした様子もなく、二人は直ぐに行動を開始した。
「む、無視だと……」
地味にショックを受けているのだろうか。
あんぐりと口を開いて固まっていた。
「ショックを受けてる場合か?
さっさと行くぞ?」
「わ、わかっている!
それに、ショックなど受けておらん!」
声を張り上げて否定する辺り、図星をついてしまったようだ。
だが、ようやく行動を開始することができた。
白旗チームのフィールドは、黒旗のチームに比べて建物が少なく見晴らしがいい。
今俺達が走っている方向には、図書館という施設があるくらいで他には目立つような建物はなかった。
その施設もそれなりにでかくはあるが、俺達のチームのフィールドには学院校舎や集会場、また宿舎がある為、旗を目から遮る場所が多いという点では、白旗チームより有利と言えるかもしれない。
だからこそ、相手チームは旗を消すという戦術に出たのかもしれない。
現状、フィールドや状況に応じて確実に手を打っているのは相手チームの方だろう。
相手チームの旗の回収状況はわからないが、まだ負けが確定するほどの戦況ではない。
(……しかし)
俺の前方を走るオールバックの指揮官だが、やはり走る速度は早いといえない。
行動を共にしろと指示があった以上それに従うが、これ以上戦況が悪くなるようなら、単独行動を取らせてもらったほうがいいかもしれない。
(……チーム戦というのは、難しいものだな)
走りながら、そんなことを思った。
それから、図書館の裏からチームメイトが数人が駆け抜けるのが見えた。
右に展開した班で間違いない。
向こうも俺達に気付いたようで、こちらに向かってきた。
「はぁ……はぁ……お、お前ら、成果はあったか?」
息も絶え絶えのツェルミンが、肩で息をしながらチームメイトの狼人達に尋ねると。
「ああ。だが、あいつら旗を消してるみたいでな」
どうやらこの班も旗が見えないという事には気付いていたようで。
そう言いながら目付きの鋭い狼人が、右手をツェルミンに向けた。
「どうしたのだ?」
「旗だ。魔術解除できるヤツが班にいなかったから、このまま抜いてきた」
狼人と犬人によって構成されているこの班は、魔術ではなく身体能力に優れたメンバーを選び構成しているのだから仕方ないだろう。
しかし、旗を確認せずに抜くとは、思い切ったことをしたようだ。
「それは死旗の可能性もあるんじゃないか?」
「いや、死旗かどうかは抜いた瞬間に判断できるのだ。
抜くと旗の布部分が燃えて棒だけになる仕掛けが施されているからな」
俺の質問にツェルミンが答えた。
ラフィが死旗には微量な魔力が流れていると言っていたが、そんな仕掛けが施されているのか。
「なるほどな。
旗が燃えるなら気付かないわけがないか」
俺は狼人が差し出していた旗の布を摘み、魔術解除を行使した。
すると相手チームの白い旗が見えて。
「うむ! まず一本だな!」
「ああ。他の旗もさっさと回収しよう」
微量な魔力を放っているのは位置は残り三箇所。
位置はだいたい把握できている。
俺はそれをチームメイトに伝えようと、口を開いたところで。
「や、やっと追いつきました……」
ラフィの声が聞こえた。
目を向けると、真っ白な肌をほんのりと赤くしたラフィが、小走りで(彼女は本気なのかもしれないが)やってきた。
俺の寄りかかるように身体を預けたラフィがゆっくりと息を整えた後。
「相手チームの生徒から、全ての旗の位置を聞き出してきました。
これで勝利確定です!」
俺を見上げてニッコリと可愛らしい笑みで勝利宣言を口にした。
誇らしそうに耳がパタパタと揺れていて、反射的にその耳を撫でてしまった。
モフモフとして毛並みがよくサラサラだった。
「ぁ――も、もう、耳はダメですマルスさん」
「す、すまん。反射的に触ってしまった……」
ダメと言いながらもラフィはイヤそうな顔はしておらず、気持ち良さそうに目をとろんとさせて身体をすりよせてくる。
「お、おい! ふざけている場合か!
ど、どうやってそんなことをしたのだ!」
「……もう! 今からマルスさんとラブラブしようと言うところで、余計なチャチャを入れないでほしいのです!」
「貴様は勝ちたくないのか!」
「あなたは馬鹿ですか?
マルスさんとラブラブすることより、ラフィが大切にしなければいけないことなどありません!」
いやラフィ、そんな堂々と宣言しないでくれ。
チームメイトたちが明らかな敵意を持って俺を睨んでいた。
その目からは怒りだろうか? 何らかの感情が灯っていた。
「テメェー、マルス!
前から思ってたが獣人の女神であるラフィちゃんを独り占めしてんじゃねえ!」
「そうだぞマルス君!
女神とは信仰の対象なのだ! 独占していいものではない!」
(……女神って、何を言ってるんだこいつら?)
彼らが発露している感情は怒りではないのかもしれない。
「お前ら! 試合に集中しろ!」
一喝する指揮官。
だが、遊んでいる場合ではないのは事実だ。
「ラフィ、話してくれるか!」
「はい! 勿論です!」
輝くばかりの笑顔で即答された。
「おい! だったら僕が聞いた時にさっさと話さんか!」
ツェルミンの悲しみの叫びが青空に響き渡った。
相手チームの視点でも書きたいのですが、物語のテンポが悪くなる恐れがあるので現状では省く予定です。
一章完結後くらいに付け足せればと考えております。




