焦がせよ稲光、上の段 美晴3
「一か月ぐらい空いたからからそう見えてるだけかもしれないけど、なんか今日おかしくない?いつもはもっと明るかったし、そんなボーっとしてもなかったよ。」「そうかな、特になにかあったわけじゃないんだけど。」「ふーん、それならいいんだけどね、もし何かあったなら何でも言ってよ。私ね、本当の関係って嘘をつかないことにあると思うの。例えば、本当の友達とはなにかってよく聞かれるでしょ?私、その本当ってやつは嘘をつかないってことだと思うの。好きなら好きって言って、嫌なことがあったら嫌って言う。相手に対して嘘を付かないってことが真実の友情だと思うの。もし嘘を付いてしまったならば今まで友情に見えてたものの化けの皮ははがれて、中から辛酸あふれる拷問器具が姿を現すの。嘘を付かない間柄ってものはそう見つからないから私は友情なんか無くてもいいと思ってる。そうも言いながら運よく巡り合えたんだけどね。」彼女は少し笑った。
「ねえT、私は今友情に例えて話をしたけれど、今のことは恋愛にも言えると思う。あなたに今見えるのはどっち?」数十秒間を置き「遠回しに脅されてるな。」とTが渋々いうと彼女はまた少し笑った。
Tは重い腰を上げるように話し始めた。「そこまで言われたら喋るとするか。色々悟っていらっしゃるみたいだし、美晴の言う真実関係論には大いに賛成するところだから。そしてなによりも人に隠したいものであればるほど人に打ち明けたら楽になるからな。」「胸のつっかえが取れるってやつね。」「それそれ。兎も角話を始めよう。そもそも事の発端は一昨日の薄気味悪い夜から始まったんだーーーーーーーーテレビを見てたら能見が死んたって報道が流れてきたって話さ。どうも奇っかいな話だろ。」美晴は少々黙った後「にわかには信じがたい話ね。座敷童なんて現実に存在しないはずだし、あなたが「家主以外には見れない」ってのを強調したがるのが胡散臭いわね。そもそも誰かにその座敷童を見せようとしたの?」と肝胆照らす。Tの血色が悪くなる。「そういわれるとないけど、あんなものを見せられたらネットの情報を鵜呑みにせざるを得ないもんさ。」「言っていることは十二分に理解できるわ。でも百聞は一見に如かず。今からTの家に行きましょ。」「これまた急な提案だな。時間は大丈夫なの?」「えぇ、時間なら心配しないで。」「親が心配するんじゃない?」「親が?私一人暮らしじゃん。」そうだった、と反省する。「明日朝早くないの?」「うん」「ラッキー!よしきた!途中でなんか買って三人でパーティと行こう。」
「ただいま。」返事がない。ビニールがこすれる音ががしゃがしゃ響くだけ。美晴の視線が胸に突き刺さる。「あれ、おかしいな。」「おかしいわね、やっぱり座敷童なんか見えない。」「いや、そうじゃないんだ。肝心の家主であるこの俺様にも姿が見えないんだ。」「ふーん、てかマンションで家主ってなんかヘンね。」もっともなことを言う。「彼女曰く現代版座敷童だそうだから適応したってことなのさ。それにしても居ないな、テレビでも見てるものだと思ったのに。」「こんな時間まで起きてるなんて悪い子ね。」「家主以外が家に入ると消えちまうのかな。」「なんともご都合主義ね、都合がよすぎてまいっちゃう。」「確かにな。」疲れた笑みを浮かべる。「でも私Tの言うこと信じるわ。Tの隣の部屋の名札が外されてたのとあんたの例に見ない動揺っぷり、あれは嘘じゃないね。」美晴は人狼ゲームの用な推理を見せる。星一つない夜空に見られる月のような明るさがTの表情に宿った。
「それにしても相変わらず汚いわね、最後に掃除したのはいつ?」「覚えてないけど多分1か月前ぐらいかな。」「かなり前ね。」かなり前なのか、とTは思う。「でもこれは真実関係論からみたら肯定されるべき行為だけどね、前日に部屋を掃除するのなんて真実ではないのだから。」「過大解釈しなさんな。」
青空に光る太陽のような明るさを美晴は取り戻しつつあった。




