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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
48/130

「7話-柘榴-(後編)」

蒼谷茂と龍勢淳の運命はいかに!?

蔦切沙也華(如月龍也)は、大事な義妹を護りきることができるのか!?

注目の7話後半でございます!!


※約3,800字です。

??? ???

蔦切沙也華(如月龍也)


 

 この世に生を受け、物心がついた頃に側に居る人間が兄だけだったらどうする?

親はどこかに行ってしまったのか、と受け入れる人も居れば、探し回ってしまう人も居るだろう。

もしかしたら、居ない世界が普通だと感じる人も居るかもしれない。


 この考え方は十人十色だが、幼い頃の淳は素直に俺たちに会いたいと言ってくれた。


「……」

「……」

「……」

だが目を輝かせる彼女を前に、俺たちは誰一人何も言葉を返すことができなかった。

それはただただ、今会わせるのはあまりに危険だから。


 というのも、彼女を含め俺たちは見た目が何年経っても変わらない為、"普通"ではない。

そのうえ、殺し屋から罪の無い人々を救っている。


 もし、両親が生きている場所を知られてしまったら?

怒りの矛先が本人にいけばまだ良いが、そうしない連中も居る。

そうなってしまったら、真っ先に狙われるのは非力な人たち。


 そしてそのまま失ってしまったら?

淳は優しい子だから、自分を責めてしまうだろう。

だが、このことを説明すれば更に傷つけることになる。

私じゃ頼りないの? 守りきれないと思っているの?

と。


 だから俺たちは、"話さない"という選択肢を選んだ。

それに対して幼い頃の淳は、何も話そうとしない俺たちから何かを感じ取ったのか、何回か寂しそうに頷くのみだった。


 しかし淳は高校生になった年に、再び俺たちを集めたのだ。

"両親のことで話がある"と言って。



 ある夏の夕飯の準備の前のことだったか。

ダイニングで焦げ茶のテーブルにそれぞれが集まると、俺たちは押し黙っている淳に視線を遣った。

時計の針が正確に時を刻んでいく。冷房と空気清浄機が「しずか」に設定され、そうっと風を送っている。

当たり前の音なのに、今日は酷く煩く感じる。


「両親に会わせてほしい」

淳は俯いたままシンプルに伝えると、俺たちの顔色を伺った。


 両親はもう……

争わない為にそう伝えることも出来た。

ただ、存在自体を消すのはハイリスクだと兄弟会議で決めたのだ。

万が一の万が一を考えて。


「親御さんはご存命だ。ただ、会うことで危険に晒してしまうから駄目だ」

と、俺が切り出すと、淳の揺れていた目が一気に吊り上がった。

「何でなん!?」

返ってきたのは、当然の疑問。


 何が危険なんだ? 養子が両親に会う場合だって、手続きを踏めば会えるのだから。

養子にすらなっていない自分なら、会わせてもらうのは当たり前。

全くもってその通りだし、俺も同じ立場ならそう思うだろう。


 だが、淳は皆とは違う。

そうは伝えられない。

すると湊が身を乗り出し、淳の目を真っすぐに見つめ、

「御両親は所謂一般の方で、殺し屋でも何でもない方たちなんだ。竜斗君も殺し屋になってから、御爺様に会っていないだろう? 彼と一緒の理由なんだ」

と、落ち着いた口調で話し始めたが、淳は尚ムッとした表情のままだ。


「じゃあ、何で龍くんが竜斗の御爺様に代わりに会ってるん? 一緒に行けばええやんか!」

淳は机を叩き、少々落ち着かない様子で声を張り上げたが、たしか彼の場合は――


「関西に行くと、昔のいざこざがあるからだ。槍試合の反則の罪を償っていない彼を見たら、何をされるか分からない。

もしかしたら彼なら自衛できるかもしれない。ただ、相手だってそれを知ってて卑怯な手を使うかもしれない。

その可能性が零でないから、龍は竜斗君を連れていかないんだよ。龍だって、100%彼を護りきれるとは限らないから……と、本人が言っていたよ」

湊が事情を説明している間、淳は沸々と怒りを抱えているのか、肩が僅かに震えていた。


「殺し屋で何年もやっているなら、100%護れや! 竜斗やって子どもとちゃうやんか! 殺し屋ってそんなに弱いん!?」

そう眉を下げる淳は、まだ若いから分かっていないのだろう。というよりも、頭では理解できているかもしれないが、心までストンと落ちきっていない。


 不安そうな顔をする淳に、湊は小さく頷いて無言で左胸を叩いた。

「龍のように心があって腕の良い殺し屋程、"(ここ)"が人一倍弱いんだよ。

大事な人を失った経験が少なからずあって、そんな思いをさせたくない、二度としたくないからな。

だから龍は竜斗君をいつも気に掛けるし、どんな人と恋人になるのか……心配で仕方がないんだ。

……相棒だからこその愛情表現って言えば、分かりやすいかな」

1番世間を見ている湊からすれば、龍の行動も淳の考え方も分かるのだろう。


 優しく語り掛ける口調の湊の言葉に、淳は少しずつ落ちついてきたのか、何度か頷いてくれた。

「じゃあ、湊も龍也も颯雅も……私の為を思って言ってくれてるんやんな?」

そう、目を上げて全員の顔を見ているときのそれは、もう憤怒の目ではなかった。

納得こそしきっていないが、少なくとも愛情は伝わったようだ。


「そうだ、分かってくれてありがとう」

真っ先に感謝したのは湊。

「分かりにくくてごめんな」

頭を下げて謝罪したのは颯雅。


 それなら俺は……

「納得してくれなくていい。これが俺たちなりの愛情なんだ」


 どういう形であれ、厳しく釘を刺す役目だろう。

夢で見た神話と同じ、愚かな結末を迎えないように。



2018年4月1日 11時45分(事件当日)

片桐組 美術室

蒼谷茂



「三角巾になるのはまだ早いんじゃない?」

空気を刺す鋭い声色の人間が、静かに扉を開けながら言いました。

この心臓が握り潰されるようなあの声は。


 ということは、つまり龍勢淳はこの状況を予想していたというのですか……?

あの笑顔と自信には、こんな根拠があったなんて。

何なんですか、あの子は。


「藤堂……からす!?」

緑澤尊は目を見開き、徐々に見えてくる扉の外を見遣り絶句しました。

それもその筈。

後から駆け付けた蔦切沙也華共々、返り血を浴びていたからです。

大方、呼んでいた暴漢軍団を始末してきたといったところでしょう。


 そのとき、背後から穏やかに息を吸う音が聞こえ、

「<(レー)いだ飆風(ジング)>」

と、技宣言をした龍勢淳は、凪状態を緑澤尊と黒野わたるにのみ創りだし、動けなくさせました。

彼らの間には風すら吹いておらず、初見では後鳥羽紅夜にナトロンで固められたのかと思いますよ。


「時間停止ですか。大したものですね」

と、にょきにょき逃げ出しながら言いますと、藤堂さんが抱腹絶倒したのです。

「よっぽど痛いんだね~!」

なんてからかいながら。


 私は長いため息をつき、

「藤堂さんも知っているでしょうに。幸いにも能力を使用されていませんでしたから、無限発情は避けられましたが」

と、下腹部を気遣いつつ徐に立ち上がりながら言いますと、藤堂さんは大きく頷きました。

「それなら良かった~。同性の性欲処理なんて嫌だし。さて、試合再開かな~」

と、藤堂さんが龍勢淳と目を合わせながら言いますと、ぎこちない動きをしながらも2人に風が吹き始めました。


 緑澤尊は外の景色を見ながら何回か頷きますと、

「なるほどですね。1分くらいですか」

と、舌なめずりをしながら余裕そうに言いました。

ただし、蔦切沙也華は藤堂さんと目配せをし、

「その1分間で攻撃を加えられなかった意味、分かりますよね?」

と、読唇できるようにゆっくりと話す蔦切沙也華に言われた2人は、俯きつつも小さく頷いたのです。


「俺たちと藤堂からすみたいな大物じゃ、格が違いすぎるって話ですよね。まぁ……貴方が来た瞬間から捻じ曲げられないと思いました」

緑澤尊は悔しそうに唇を噛みながら言いますと、黒野わたるを引き連れて教室を出て行きました。

そのすれ違い様に、私の耳元で彼はこう言ったのです。


「蒼谷さんの事は一生許しませんからね」

と。

ですので私も対抗して、

「私の上司に尻尾撒いて逃げる癖に、よく口の回る狐ですね」

と、言って退けますと、緑澤尊はにっこりとした愛想笑いをし、背を向けて歩き去りました。

貴方には許されなくて結構です。

Lunaさんにはいくら恨まれても仕方がないですが。


 言いたい事を言えてスッとした私は、メガネをクイと上げてから藤堂さんの腕に軽く触れ、

「さて、お時間ですよ」

と、教室に背を向けながら小声で言いますと、藤堂さんはボフと肩を二度叩き、

「俺、沙也華と行きたいところあるんだよね」

と、へらへら笑いながら言いますと、龍勢淳は少し残念そうにしておりました。


「蒼谷さん、またどこかで」

蔦切沙也華は一礼してから、向き直った私に言い、

「また必ず生きて会いましょう」

と、龍勢淳に微笑みかけて言いました。

それに龍勢淳は、笑顔で両手で振っておりました。


 先に激戦の中を歩き出した蔦切沙也華を見送りながら、藤堂さんはくしゃと私の頭を撫でました。

「三角巾の蒼谷は見たくないからね。ま、俺は心臓焼かれるかもしれないから、後は任せた」

なんて、まるで遺言みたいなことを口走るので、私は何が何だか分からず腕を掴んで引き止めました。


「んえ?」

間抜けた声で私を振り返る上司に、私は精一杯息を吸い込み、

「それなら、御守りを付けて行ってください!!」

と、思い切り隊服を捲りあげ、肌着の上から絶縁シートを左右の胸に貼り付けました。

 ずっと報告してきませんでしたが、貴方の弱点はLunaさんの手記から掴んでいますから。

これはほんの……治療です。


「あ、ありがとう。よく分かんないけど、大事に貼っとくね~」

と、苦笑いを浮かべ、手をふらふら振りながら、烏に乗って飛んでいく藤堂さん。

それを見送ると、どっと疲れが来て盛大なため息が出ました。


「よくからすさんの事、見てるんやな!」

と、龍勢淳に満面の笑みで私を見上げながら言われますと、思わず頬が緩んでしまいました。

藤堂さんと一緒に居る時間が長くなりますと、世話焼きになるのかもしれませんね。


 どうか御2人共、ご無事で。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

お疲れ様です。


ここで騅編の藤堂さんがスタンガンを喰らったシーンを見ると、「あっ……」ってなりますよね。

無事だった事は"BLACK"後の彼の登場により明らかになっていますが、理由は話しておりませんでした。

まさか直属の部下である蒼谷茂の思い切りとは、なんて思っていただけたら嬉しいです。


借りキャラの淳ちゃんに時止め要素があるとは……(いいぞもっとやれ)

友人考案なので、技が増える度に(いいぞもっとやれ)と思っております。


次回投稿日は12月7日(土) or 12月8日(日)でございます。

それでは良い一週間を!!


作者 趙雲

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