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ユーカリと殺し屋の万年筆  作者: 趙雲
龍勢淳編
49/130

「8話-妄想-(前編)」

今回は、佐藤永吉が語り手になってくれております。

佐藤永吉と同期である黒河月道との出会い―― 一体どこに「妄想」が隠れているのか。


※約3,900字です。

2018年4月1日 12時過ぎ(事件当日)

片桐組 鷹階1階 階段前



 俺の同期で元相棒で、とりあえず半端なくハニートラップが上手いスナイパーが居るんだけど知ってる?

……こう言えば、だいたいの人が大きく頷き同じ名前を挙げる。

黒河月道(くろかわ るろう)のこと?」

と。


 それがすっごく嬉しくて、とっても心が温かくて温かくて仕方ないんだ。

月道って呼びにくいから"るろちゃん"って呼ぶけど、小さい頃に公園で歌っているのを見たことがあるんだ。

たしか――



「え~きっちゃん!」

頭をポコンと叩かれたと思ったら、今回ペアになった同じ片桐組で烏階の(れん)ちゃんが怒ってた。

恋ちゃんは黒縁メガネが似合う、150cm台の少しポチャッとした女の子だ。

ちなみに同期で、るろちゃんの奥さん。


「ごめんごめん!」

って、ウィンクしながら舌を出すと、真後ろに敵が居たので真上に蹴り上げて失神させた。

「そろそろ2階に上がれそうだから、気合入れて行くよ!」

と、逆方向に歩きながら言うから、腕をグイと引くと地図を見ながら首を傾げた。

「恋ちゃん方向音痴だから、俺が案内するよ!」

って、地図に手を伸ばしながら言うと、恋ちゃんは少ししゃがんで俺に地図を渡した。


 あ~言ってなかった! びっくりするよね!?

佐藤永吉(さとう えいきち)、22歳、B型で144cmで~片桐組狼階エース。

武器は忍者道具! いつまで経っても見習い半人前……だけど、毎日楽しいよ!!

1番嫌いなのは勉強と修行!


 で、るろちゃんとは元相棒だけど、小さい頃に一緒に総長に拾われた仲だよ。

そうそう、俺にも笑ったことがないるろちゃんの笑顔を見ることが、今年の目標!


 話戻すけど、背が低いから女の子にもしゃがまれる。

だけど俺は一度も気にしたことないし、しゃがんでくれるから嬉しいって感じかな。


「え~っと……分かった! この階段を上れば2階に行けるから、ダッシュしよう!」

と、地図片手に走りだそうとすると、恋ちゃんに止められた。

「敵とは戦わずに行きたいんだけどね~? えいきっちゃん?」

恋ちゃんは思い切り見下して言うけど、あんまり戦いたくないっていつも言うんだよね。

「は~い! 言う事聞きま~す!」

こうやって笑顔で言うと、恋ちゃんもに~っこり八重歯を見せて笑ってくれるんだ。



「あの」

その途中で俺たちを呼び止めたのは、恋ちゃんより少し背が高い女の子と烏階の蒼谷茂さん。

蒼谷さんは何でも知ってる真面目な人ってイメージ!

この女の子は誰なんだろう?


「この2人は、佐藤永吉と黒河恋だ」

蒼谷さんが掌で差しながら紹介してくれたから、敵じゃないんだね。

「2人、この人は裾野の相棒の奥さんで、龍勢淳という」

って、後から付いて来ていた女の子を紹介する蒼谷さん。

階段から見下す蒼谷さんって新鮮だなぁ。

えっと裾野さんって、俺の兄ちゃんと蒼谷さんと同期だった強い人だね。

頭良さそうで、いつも先回りできる人。


「は~い、よろしくね!」

俺は階段を駆け下りて握手をすると、淳ちゃんも笑顔で返してくれた。


――よろしくね!!

握手する笑顔の小さな男の子たち。


 これ、"妄想"と一緒……?


「……!!」

一瞬だけど、何か映像が見えたような。

「あっ、よろしくね!」

俺は持ち前のニコニコ笑顔で立ち去ると、恋ちゃんと蒼谷さんが話し込んでいる側に潜り込んだ。


「共闘ですね、いいですよ。上司の頼みですしね~」

恋ちゃんは、蒼谷さんのお願いを受けたみたい。ということは、一緒に行くのかな?

「ありがとうございます。私たちもなるべく敵は避けたい方針ですから、お互い最低限に留めましょう」

って、恋ちゃんと握手をしながら言う蒼谷さん、やっぱり言葉が難しい。

言い方なのかな~?


「えいきっちゃん、蒼谷さんと淳さんと一緒に行くからね」

って、一応俺にも言ってくれたけど、途中から聞いていたのは気付かれてない?

忍術自動発動しちゃったのかな!?

「おっけ~!」

俺はつい嬉しくて飛び跳ねると、淳ちゃんが笑顔を向けてくれた。


「私もえいきっちゃんって呼んでええかな?」

淳ちゃんは黒髪で少し髪が長くてサラサラそう。とにかく笑顔がかわいくて、つい大きく頷いていた。

「淳ちゃん、一緒に戦おうね!」

って、言葉を口にしてから、俺の心の中で歯車が少しずつ逆に回り始めた。


 一緒だ。

俺の"妄想"の中のあの子に――



 数年前――



 佐藤永吉は関東の南寄りの地域で生を受けた……真面目過ぎたかな。

4つ上の兄ちゃんで、今は佐藤組を創って総長を務める佐藤順夜(さとう じゅんや)とは、何もかもが正反対だ。

背は50cm以上も高く、武器も大振りのものでソウイウ経験もある。

しかも相手は裾野さん。

その割に顔はそこまで格好良くないけど、鏡をずーっと見ているナルシシスト。

口数が少なくて自己中だけど、的を得た一言を言って皆を驚かせている。

ゲイで男にしか興味が無いけど、俺には無関心のフリばっかしていた。


 本当はチビってイジめられたときも、ずっと笑っていた俺を叱ってくれて、イジメっ子たちを倒してくれた。

嫌なら言えって言われても、話しかけられているから笑っちゃうんだ。

俺には何て言っているか、よく分からないんだもの。


 それで先生にも呼び出されて叩かれたけど、先生の前でも笑っていたら兄ちゃんが助けてくれた。

そのときは何も言わなかったけど、一緒に帰ったら少しだけ笑ってくれたんだ。



 そんなとき、兄ちゃんが殺し屋になるって家を出てって……俺もすぐ後を付いて行った。

だけどはぐれて道が分からなくなって、公園に辿り着いたんだ。

そこで見かけたのが、公園で小声で歌っているるろちゃん。


 あまりに上手くって、昼間は子どもから大人まで集まってて、俺はいつも見てるだけ。

話しかけたかったけど、眺めているのが精いっぱいだった。

何なんだろう、昔から寄せ付けないところがあったのかなぁ。


 だからいつも、彼と仲良くなったらどんなに楽しいか……妄想ばかりしていた。

一緒に歌ったり、お話したり、お絵描きしたり、遊んだり…………どの彼も笑顔だった。

そんな彼と一緒に居られたらいいな、お友達になりたいな。

夢がいつしかそれになっていたんだけどね!



 そしたら急に目の前が真っ暗になって、男の人たちに目隠しをされて沢山殴られた。

痛かったけど、俺のところに来てくれたから笑えてきて……そしたらまた殴られて。

そのときも、ずーっとるろちゃんとの楽しい妄想をして。

ずっとお腹を抱えて笑っていたら、気味悪がられて逃げられたんだ。


 そのときも何されているのか分からなくて、笑顔で居たら何日かして目隠しを外してくれた人が居て。

その人が片桐湊冴総長だった。

「何で君は、ずっと笑っているんだ」

頭が悪いことを一瞬で見抜いた総長が、俺の為にわざわざ言葉を崩してくれた。

って、この話をしたらるろちゃんが後から解説を言ってくれた。

「分からないから。分からない事があると、楽しくなっちゃうんだ」

って、俺が答えると、総長は傷を手当しながら頭をポンと撫でてくれた。


 このとき、もう公園から歌声は聞こえなかった。

るろちゃんはどこかに行ってしまったのだろうか。

「一緒に行こう。お兄さんが待っているよ」

総長はそう言うと、小さく頷いた俺の手を引いて片桐組に連れて行った。


 それで総長室に入ったら、るろちゃんが居て思わず変な声が出てしまった。

だって歌っている時も無表情だった彼が、無言で立っているのがちょっと怖かったんだもの。

「黒河月道、よろしく」

雪男みたいに冷たいるろちゃんと握手しても、俺は笑顔を彼に向けた。

「永吉だよ! きちべえって呼んでよ!」

って、ガツガツと踏み込んで言うと、遠慮がちにニックネームで呼んでくれるようになったっけな~。


 それから相棒になって、ずっと人形みたいに笑わないるろちゃんを眺めては……笑顔で歌うるろちゃんを妄想して笑っていた。

それで正直、目の前で抜くのにも抵抗がなかったのは……仕事として始めたハニートラップの為の女装があまりに綺麗で、ちょっとまぁ。

本人を前に、その姿を妄想しながらしていたから。

これ、るろちゃんに言ったら呆れられたけど、止めろと言われていないからおっけーなのかな!?


 ……いい加減、真面目に話をするね。

俺が妄想するようになったのは、兄ちゃんの姿に憧れすぎて自分では無理だってどこかでセーブして。

妄想の中なら叶えられるかなって、興味本位でやり始めたのがきっかけ。


 でも笑顔のるろちゃんとか、女装のるろちゃんが俺を好きとかいくら妄想しても……目の前にずっと居るのに笑わないから、俺の中で折れたのかな。

ある日パタッと止めたんだ。

妄想の中でも叶わないものは叶わないし、るろちゃんは結婚式でも笑わなかったし。

結局、逃げていただけなんだなって。

それをるろちゃんは総長みたいに見抜いて、笑顔を見せない事を通したんじゃないかな。


・・・


 だけど、目の前に笑顔のるろちゃんの妄想と一緒の笑顔をする子が居たら、妄想が100%悪いものじゃないって思う。

淳ちゃんの笑顔を見たら、妄想なんてずーっとやるんじゃなくて、時々が1番なんだって思わせてくれる。


 今は裾野さんを助けに行っている、あのるろちゃんの覚悟を決めた顔。

勝って勝って、裾野さんを助け出してくれている妄想くらい……したって良いよね?

るろちゃんは俺よりもずーっと頭が良くって、スナイパーとしても一流なんだから。



 不意におでこに恋ちゃんの柔い指が当たったと思ったら、

「いてっ」

う~ん、忍者がデコピンを喰らうとは。

「な~にニヤけてんだ~?」

って、結婚指輪を光らせて言う恋ちゃんは、人の心をほんの少しだけ読めるみたい。

「ふっふ~ん、内緒~!」

だからきっと何を考えていたか分かるんだろうけど、俺は階段の踊り場でぐるぐる回りながらまた妄想に少しだけ浸かっていた、



 この4人が、3時間以内にお宝に辿り着ける妄想を。

お疲れ様です。

遅くなってしまい、申し訳ございません。


次回投稿日は、12月15日(土)か16日(日)でございます。

それでは良い一週間を!!


趙雲

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