表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lip's Red - 姫様と緋色の守護者  作者: kouzi3
第2章 暗殺集団襲来
12/39

(11) 守護者…豹変

※この回は、筆頭従者ラサの視点で語られています。

・・・


 マモル殿の反応をキッカケに、私も襲撃者の放つ殺気を辛うじて感じ取ることができた。先を越されたことに筆頭従者(ヘッダテンド)としては、悔しさを禁じ得ないが、今は姫様をお守りすることが優先だ。自分にそう言い聞かせるために、私は敢えて、声に出してマモル殿を賞賛することにした。


 「さすが姫様の守護者(ガルディオン)だな。私より先に異変に気が付くとは…」


 姫様を守るためだけに、筆頭従者として、日々、修練を積んできた私だが、やはり世界の現象の一部として「姫様の守護者」に定められたマモル殿には叶わないようだ。守護者は、伝承にあるとおり、詠唱者(シャンティル)に迫る危機を、誰よりも早く察することができるということか。


 しかし、いち早く襲撃の気配を察知出来ることの意味は大きい。私は、襲撃者の発する殺気をより強く感じる病室の入り口からの襲撃を警戒し、姫様を背後に隠す。聡明な姫様は、何も言葉は発しないものの、我々の様子ややり取りで、やはり襲撃が迫っていることをお悟りになったようで、自ら私の陰に身を寄せる。ご自分が襲撃の一番の的であることを十分に理解された上で、私の戦闘の妨げにならぬよう最善の配置に着いてくださったのだ。


 ここまでの態勢に移れただけでも十分な優位だが、マモル殿がより早く気配を察知してくれたおかげで、さらに、臨機応変に体を動かせるように体から力を抜くとともに、因子(ファラクル)能力(パーランス)を襲撃と同時に発動できるよう、左腕を扉の方へ向かって掲げる余裕も生まれた。左目を眇めて、いつでも照準を結べるように精神を集中する。

 姫様に危機が迫ることは忌むべきことだが、これは先日、姫様を巧く守れなかった自分への失地回復のまたとないチャンスなのだ。万全の態勢を整えるため、呼吸法を戦闘時のためのそれへと変える。


 「違う!ラサ!あっちだ」


 背後で、マモル殿が私を呼ぶ。しまった。先日と同様、注意を逆方向に誘導されて、逆に姫様を敵襲に晒してしまった。焦りと同時に、自分への怒りで平常心を失いそうになるのを、呼吸を整えることで辛うじて抑え、思わず思ったとおりに忌々しさを口にしてしまう。


 「また、逆からかよ!」


 叫ぶと同時に、私は可能な限りの速さで、手のひらに要素(ルリミナル)を集め、私の持つ能力の中で最も連射速度と攻撃力のバランスの取れた闇の因子の能力を選択、発動し、それを窓から侵入しようとしていた襲撃者に向かって放った。

 要素により具現化した闇の因子に打たれて、黒い服の襲撃者が一人、落下していく。予想どおり、入れ替わるように別の黒服の襲撃者が、今度は2人同時に現れる。


 「同じ手に引っかかった自分に腹が立つ!…ということで、その怒りの憂さをお前達で晴らすから覚悟しとけ」


 私は、姫様の前ではあるが戦意を高揚するために、敢えて乱暴な言葉使いで、相手を威嚇する。

 威嚇されて怯むような相手ではないことは百も承知だが、言いながら今度は右腕も上げ、両腕で闇の因子の能力を具現化する。


 より早く窓からの襲撃者に対応するために、マモル殿の横を抜けて、さらにその前に躍り出た。横切る瞬間、しっかりと自分のすべきことを悟って、またしても自らマモル殿の陰に身を寄せて守りの姿勢を取る姫様を確認する。そして、襲撃の瞬間に盛大な音を立てて割れた窓ガラスの飛び散った破片の一つで唇に傷を負ったようだが、それでも姫様の前で壁になろうとするマモル殿を視界に一瞬だけ納め、私は、両腕から同時に闇の因子の能力を発動し、2人目と3人目の襲撃者を窓の外に落下させる。


 (少し、表情が硬いようだが…姫様を守ってくれるんだよな?守護者殿?)


 これまでの襲撃者への反応から、間違いなく守護者としての能力を発揮していると信じてはいるが、従者(ヴァレッツ)が訓練で叩き込まれる戦闘姿勢の常識からすると、かなり体に力みがあるように感じるが…まぁ、マモル殿は、こちらの世界の住人だからな。我々とは違う戦闘思想に立っておられるのであろうよ…と、結論づけ、意識を再び窓に集中させる。


 「マモル殿!扉側は、任せたぞ」


 最初に病室の入り口側に感じた殺気。それが陽動だけとは到底思えないため、私はマモル殿に向かって叫んだ。

 が、しかし、当然に返されると予想したマモル殿からの承諾を告げる声が無い。まさか?

 次から次へと進入を試みる襲撃者に辛くも対応しながら、斜め後方のマモル殿の様子を再度窺う。


 「ジン。何をやっている。今度こそ姫様をお守りする、名誉挽回のチャンスだろうが!」


 マモル殿が頼りにならないことに、私はやっと気づいた。ダメだ。彼は、戦闘経験が無いのか?。先ほどまで、あまりにも的確に襲撃への反応を見せていたので、期待しすぎてしまった。先日、姫様を守った…というのは、マモル殿本人が何度も訴えていたとおり、やはり姫様の嘘だったのか?なら、姫様は、何故、彼を守護者に?


 しかし、今は悠長に考えているヒマはない。私は、病室の外に控えているハズの風の因子の能力者であるジンに向かって怒鳴った。


 が、ジンからの応答は無く、病室の外の廊下で、何かが弾け破壊される音と、何人かが直接入り乱れているような喧噪が聞こえてきた。


 「くそっ。廊下は、廊下で取り込み中かよ」


 その背後へ意識の分散が仇となった。私としたことが、一瞬、廊下側に気を逸らしてしまい、襲撃者の一人を撃ち漏らしてしまう。病室内に侵入を果たした襲撃者は、私には目もくれず、マモル殿の後ろにいる姫様めがけて、死の因子の能力を発動しようと、指先に要素を集中した。


 (まずい!マモル殿、せめて姫様の盾となってくれ!)


 マモル殿は、何とか一人だけ逃げようなどとはせずに、身をより硬くするだけではあったが、姫様の盾にはなろうとしてくれているようだ。が、守護者と詠唱者の定めを考えれば、マモル殿に死なれても困るのである。

 私は、さらに窓から進入しようとする2人の襲撃者に対応しつつ、せめて初撃が致命傷とならないように祈ることしかできなかった。


 「がっ…!」


 次の瞬間、襲撃者は、突然、のけぞり崩れ落ちる。見れば、マモル殿の左脇から、姫様の細い腕が前方に伸ばされ、彼の震える体を右から優しく抱き支えている。姫様がご自分の因子の能力を発動し、襲撃者を撃ったのだ。

 放心状態の彼の耳元で、姫様が「安心しろ。これからは、私がお前を守るといっただろう?」と優しく声をかける。そして、あろうことか彼を背中から抱きしめ「落ち着け。私は、お前を信じている」と伝えた。

 私は、複雑な想いでそれを見やる。姫様、何故、そこまでマモル殿を?


 姫様の意志を尊重し、一度は無理矢理に自分の中に封印すると誓った疑問を、どうしても抑えきれない。

 しかし、実際に、それを姫様に問う余裕は与えられず、次々と進入を試みる襲撃者への対応に追われる。



 その時



 「ラサ。次の2人を突き落としたら30秒間、敵の襲撃が止む。その隙に態勢を整え、それに続く30秒感は姫様ご自身に対処していただくから、キミは、60秒以内に、水の因子の能力者(パーランシャル)と、炎の因子の能力者を連れて、ここへ戻れ」



 信じられないぐらい落ち着いた声が病室内に凜と響いた。



 「誰だ…君は?」彼につられ私も「君」という呼称で思わず問いかけてしまう。相手がマモル殿であることは、間違いないと分かっているのに、それでも確認せずにはおられぬほど、数瞬前とは彼を取り巻く空気が変わっている。


 「無駄話している余裕はないぞ?筆頭従者。姫様を確実に助けたいなら、キミは黙って守護者の指示に従えば良い」


 彼を背中から抱きしめている姫様の両の目が、反射の様に一瞬震え、そして喜びに大きく見開かれる。何が何だか理解できずに混乱する中、何とか次の襲撃者2人を窓から撃退した私は、その後、数秒の間、確かに襲撃が続く気配が途絶えたことを確認し、姫様の表情から「あぁ、<彼>が、姫様を助けた者なのだ」と今更ながら悟ったことで覚悟を決め、自分が取るべき最善の行動を選択した。


 「あと55秒以内だ。キミの最善を尽くせ」


 姫様の真の守護者の指示ならば、従者たるものただ従うのみ。幼少時より叩き込まれた「従者の心得」に従い、私は弾けるように廊下へ飛び出た。


 呼吸をやや乱しながらも、ジンが、その風の因子の能力により襲撃者1人を廊下の遙か遠くまで吹き飛ばし、そこで私に気づいて駆け寄ってきた。「無事か?」「はい。姫様は」「案ずるな守護者と一緒だ」と短い会話を交わしながら、階段室へと戦いの場を押しやりつつある我が従者隊の健闘を確認する。

 「守護者」という単語に、やや複雑な表情を浮かべつつ、ジンは私に「ご指示を」と次の指示を求めてくる。


 「水と炎…この両名は、今どこに?」


 私が問うと、ジンは3秒ほど目を閉じ、風の流れを読む。


 「水は…1つ下の階に、炎は…あ、今、その階段から下りてきます」

 「よし。ジン。お前は、水の所へ行き、水と代われ。そして水を守護者の病室まで届けろ」

 「水は…今、3名の敵に対応中です。代わりつつ届けるとなると少し時間をいただきますが、よろしいか?」


 ジンは、指示に対して必ずその期限を確認する。仕事を任せる相手として、話が早くて助かる。だから俺はジンを次席従者として扱うのだ。その想いは口には出さずに、告げる。


 「残り35秒だ、お前の全力で当たれ」


 全てを聞き終わる前に、ジンの姿が霞んで消えた。要素の集中速度が誰よりも速く、能力の発現を即座にこなすことが出来るのも、風の因子を持つ者の優位性だ。

 ジンの言うとおりに、炎の因子の能力者が階段室から廊下へと現れる。


 「ラサ様。上の階は対処を完了しました」

 「関係ない者まで、炭にしたのでは無いだろうな?」

 「私の炎は、そのような粗暴なマネはいたしません」

 「わかっている」


 軽口を叩きながらも、残り少ない時間を気にしつつ、守護者の病室へ炎をアゴでいざなう。

 なんとか残り10秒には、守護者の元に炎を届けることができた。


 病室に入った瞬間。私は信じられないものを見たような気がした。


 既に新たな襲撃者が窓から侵入を果たし、姫様と守護者へ死の因子の能力を発現した青白い光の矢を放っている…のだが、直進しかしないハズの要素(ルリミナル)の奔流は、矢としての務めを果たせぬまま、守護者の手前で大きく拡散され、角度を変えて狙いを逸らされ、消えていく。

 しかし、守護者…マモル殿が何かをしているようにも見えない。私が部屋を出る時と同じように、姫様の前にのベッドの上で、上半身を起こして姫様の盾になっているだけのように見える。

 いや。違うか。先ほどまでの身を硬直させて全く戦闘には向かないと思わせたその姿勢の有り様が、熟練の従者と見まごう…いやそれを越える力の持ち主であるかのように、力みの全くない、自然な姿勢となっていた。


 そのマモル殿を文字通り盾として、姫様はしっかりと迎撃の担い手として役割を全うされている。


 (しかし…、なんなのだ?この豹変ぶりは…)


 その私の思念を感じ取りでもしたかのように、マモル殿が、横目で我々の方に注意を向ける。それを隙とみた敵の襲撃者が死の因子の矢を再び放つが、マモル殿の注意の有無に関係なく、やはり矢は拡散し、角度を変えて消えていく。そして、姫様がまた反撃する。


 「やぁ、間に合ったのかい?あと5秒だな」


 不思議なほど穏やかな、しかし、恐れなど微塵も感じさせぬ自身に満ちた声で、マモル殿が声をかけてくる。


 「水の従者も、今、現れるハズだ。ジンの…風の能力で届けられて…」


 私の言葉が終わらぬうちに、水の従者が現れる。

 守護者の顔が笑みに変わる。本当に、これが、あのマモル殿なのか?


 「やぁ、間に合ったね。じゃぁ、いくよ」



 次の瞬間。



 何の指示も受けていないハズの水と炎の2人が、まるで最初から決めてあった作戦を実行するかのように、その因子の能力を、襲撃者が現れる窓の手前に発現させた。見事なタイミングで。



      【 どん 】



 突然の爆発音とともに、私の視界は白の一色に染められた。


 爆発…水蒸気の瞬間的な発生?だろうか…まどの外、そしてその上部に向かって、熱と衝撃が走り抜け、襲撃者の猛攻が止む。

 その、白い水煙が全て消えるまで、私の目と耳は、その機能を正常に戻すことができなかった。

 しかし、それを境に襲撃はピタリと収まり、私の戦闘能力の低下が問題となるような事態は訪れなかった。


 ややあって、ジンが姿を現す。


 「ラサ様。どうやら襲撃は退けられたようです。何処にも、奴らの気配はありません」

 「ふん。今の音で、この世界の警察機構が来ることを恐れたか?」

 「さて。どうでしょう。一応、この病院の医師や他の患者、見舞い客などに、我々の戦闘の巻き沿いとなったものは居ないようです」

 「うむ。それは良かった。しかし、騒ぎにはなるな。私の因子の能力で、少しの間なら認識を歪め、また暗示にかけることで時間かせぎはできるが…」


 そこで、私はマモル殿に目を向ける。

 今、どのような技を使ったのかは分かりかねるが、見事としか言いようのない采配をしてみせたのだ。この後について、マモル殿の意見を聞こうと、そう思ったのだが。


 マモル殿をベッドに横たえ、姫様が、その頭を優しく撫でながら、歌うようにつぶやいた。


 「また、お前は私を助けて…そして、眠りについてしまったのだな…」


・・・


 それぞれに複雑な思いを抱いたであろう従者たちに向かって、私は指示を飛ばす。

 とりあえず、危機は去った。

 騒ぎとなり、注目されている間は、奴らも再び襲撃してくることはないだろう。

 しかし、我々が、この騒ぎの中心だと知られるのは、それはそれでやっかいなことだ。


 私の闇の因子の能力で、ある程度、人々の記憶と認識はごまかすことが可能だが…。

 従者たちにも、その偽装工作を手伝ってもらわなければならない。


 何が起きたか分からない無関係の被害者を我々も装う必要があるのだ。


・・・


 マモル殿に関しては、興味の尽きないところではあるが、今は、その思いを心から追いやって、私は…私たち従者は、姫様がお困りになるような事態を防ぐことに専念することを頷き合い、それぞれの持ち場へと散った。


 そんな我々の複雑な気持ちを知ることなく、姫様の守護者は、姫様に優しく頭を撫でられながら、気持ちよさそうに眠りについている。

 

・・・ 

※やっと物語が動き始め、主人公も活躍しはじめました。

できるだけ、面白いといわれる作品にするよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。(もちろん、応援が無くても、話の最後までちゃんと頑張るつもりで書きます。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ