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Lip's Red - 姫様と緋色の守護者  作者: kouzi3
第2章 暗殺集団襲来
13/39

(12) 隠れ家

・・・


 夢を見た。


 --- 夕焼け。遠くに、山へ帰るカラスの鳴き声。空を染める赤い背景以外、全てが切り絵のように黒一色のシルエット ---


 --- しゃがみ込み、何かを大事そうに、かくまうように抱え込む女の子のシルエット。その横で、大勢に寄ってたかって突き回され、ボロボロの…なぜかシルエットではない僕 ---


 あれ…俺、自分のこと「僕」なんて呼んでたときがあったけ?…っていうか、いつの記憶かわからないけど、やっぱり弱いんだな俺。一人だけ色付きの幼い自分を、どこからか客観的な目線で俺は見ている。

 変だな。おそらくこれは夢なのだろうけれど、いつも見る夢は、夢の中でも俺は俺で、俺から見た世界しか目にしていなかったように思うけど。この夢は、自分を外から見ている…なんていう不自然な夢のハズなのに、なぜか夢の中の俺は、紛れもなく俺のだと感じられた。まるで、鏡の中の世界で自由に動き回る自分みたいだ。


 一方的にやられているように見えて、夢の中の俺は、しゃがみ込むシルエットの女の子のほうには、絶対に乱暴をするガキどもを近寄らせない。殴られても、蹴られても、転がされても、必ず少女を背にして立ちはだかり、そのことで乱暴なガキどもの怒りをさらに買い、また殴られる。

 あんな殴られ強い自分なんて、あまり記憶にないんだけどな。夢の中だから自分を美化してヒーローっぽく再生してるのかな?


 --- やがて、夕日も山の陰へと身を潜め、辺りが薄暗くなったことで、遠景の山々のシルエットに融け去るように悪ガキどもの姿もいつのまにか消えている。 ---


 --- 不思議と闇の中でもシルエットのままの少女。その横にへたり込んで、何故か笑っているボロボロの僕 ーーー


 不意に、俺は思いだした。


 これは子どもの頃の記憶。でも、実際には見に覚えのない記憶。いつの頃からか、気が付くと俺の記憶の底に、まるで生まれる前から住み着いているかのように、当たり前のようにある記憶。


 この後、少女は言うのだ。


 「緋色(ひいろ)


 俺の唇が、殴られ裂けて血を流している。その真っ赤に染まった、無様に血にまみれ汚れた口元。その赤い口元をポケットから取り出した白いハンカチで、ちょんちょんと拭いてくれながら、「キレイ…」と言うのだ。

 薄汚れた俺の血の色を、俺の裂けて出血し痺れすら感じられなく麻痺した唇を、まだ山の端に熾火のように残る夕日が照らす。赤に照らされる赤。そんな色を少女は「緋色」と…そして綺麗だと言ってくれた。


 俺が痛がらないように、恐るおそる、ちょんちょんと拭いてくれていた白いハンカチが、不意に遠ざかる。軽い喪失感に耐えながら、少女の手にある俺の血で汚れてしまったハンカチを目にし、「ごめん」と口にする俺。

 いつの間にか、いつもの夢と同じように、俺は夢の中の俺として、少女の顔を見つめていた。その愛らしいハズの顔を…シルエットのままで思い出せないのがもどかしい。

 少女は、もう一度、白いハンカチを俺の口元に当てようとして、ふと動きをとめ、俺の唇をじっと見つめる。


 それから、ゆっくりと少女の顔が、俺に近づき…何かを囁いたあと、少女の唇が、俺の………

・・・


・・・


 「わぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」


 自分の出した声に驚いて、後半、さらにボリュームをまして叫びながら、俺は目をさました。


 「ぐぁふ!痛っつつつつ!」


 そして、跳ね起きた拍子に、傷を負った背中に激痛が走り、悶絶する。

 暫く悶絶したあと、目をつぶり深呼吸をして、お得意の痛み切り離しスキルを発動する。なんとか、身動きがとれるようになった俺は、再び目を開き辺りをみまわした。


 恐ろしく高い位置に取り付けられた蛍光灯。そしてさらに高い位置に鉄板の天井。見覚えの無い鉄骨が剥き出しになった壁。小さな採光用の窓。所狭しと積み上げられた段ボール。口元を右手で押さえ、涙目の女の子。


 涙目の………姫様?


 耳まで真っ赤に染めて、ビックリしたような顔をして俺を睨んでいる。


 あ。突然、大声を出して跳ね起きたから、ビックリさせちゃったのかな?それとも、起き上がった拍子に、口元にヘッドバットでもかましちゃったのか!?…って、額にそんな衝撃を受けた記憶はないので、それはないか。


 「と…とつぜん、動くから…」


 口元を抑えたまま、姫様が小さな声で苦情をいう。そして、そのまま黙りこんでしまった。頬を染めているのはビックリして、血流が増えたせい?


 そんなことを考えながら、起きたばかりでハッキリしない思考の片隅に、俺は意識を失う前の出来事を思い出す。


 「そ、そうだ。しゅ、襲撃は?」


 「だ、大丈夫。お、おかげで全員無事だ」


 何もできなかった俺には、「おかげで」という言葉が辛く胸に突き刺さる。

 でも、姫様、無事だったんだ。良かった。情けないことに、戦闘の途中で恐怖と緊張に耐えきれず、俺は無様にも気をうしなってしまったようだ。姫様を守るどころか、逆に姫様に守られてしまったのだったと記憶がよみがえり、俺は自己嫌悪に陥る。

 きっと、あの後は、筆頭従者と姫様で大活躍をされたんだろうな。不甲斐ない俺が足を引っ張って、もしも誰かが…命を失ったりするような最悪な結果を迎えていたら…俺は深い罪悪感に耐えられなかっただろう。そう思うと、襲撃時の恐怖がよみがえってきて、体に力が入ってしまい、また傷が鋭く疼く。


 「痛っ!」


 「だ、大丈夫か?」


 痛みに顔をしかめる俺の背中を、優しい姫様はさすってくれる。こんな情けない俺を…。


・・・


 「は~い。そんなに傷が痛むようなら、私が座薬を入れてあげましょうか!」


 俺と姫様の気まずい沈黙が限界を迎える直前に、突然、俺の着る浴衣のような着物の裾を持ち上げて、足を無理矢理開かせようとする女の声。


 「で、電波系看護師!!!!」

 「はぃ?」


 何だか、俺の恥ずかしがる姿を見て喜ぶ性癖でもあるのかと疑いたくなるように、不意打ちをしかけてくるのは、またしても、俺の先ちょからアレをアレしたあの看護師だった。


 「いいいいいいいいいいい」


 自分でも拒絶か了承か判別できない発音になってしまったが、超高速で首を横に振って丁重にお断りをし、自分の着物の裾を直す。そんな恥ずかしいこと、姫様の前で出来るか!と心の中で憤りながら、俺は、自分が見覚えの無い場所にいることに、やっと気づいた。


 「あれ?ここ何処?…ってか、電波子(仮称)は、なんで黒い服着てるの?」


 明らかに病室ではなく、倉庫の奥のような場所に、段ボール箱を積み重ねた壁で部屋のように囲ったと思われる空間。俺が寝かされていたのも、よくよく感触を確かめると、段ボール箱の上に毛布とシーツを重ねただけの、ひどく寝心地の悪い即席ベッドだった。


 「電波子って言われた!電波子って言われた!!それは愛情表現と受け取って良いのですか!?」


 ますます、電波なリアクションで、俺の手をとり、顔を近づけてくる黒い女性看護師!?


 「うん。脈は正常。熱も無し。姫様、守護者(ガルディオン)様に異常はございませんのでご安心を…」


 はい?この電波系看護師、今、俺を何と呼びやがったんですかい?目覚めっぱなの強制的なハイテンション攻撃に俺の言語中枢も若干麻痺しているようだが、聞き間違いだろうか。


 「うむ。ありがとう。クア。…私は、ラサに知らせてくる」

 「かしこまりました。では、ワタクシは守護者様の背中の傷の具合を拝見しておきますね」


 なぜだろうか、今も口元を右手で覆ったまま、姫様は段ボール箱の部屋から出て行く。後に残される俺と電波系黒看護師。ワケが分からず、狼狽うろたえる俺に、電波系女性黒看護師はにっこりと微笑んで、こういった。


 「ささ。姫様の居ないうちに、あんな所やこんなところをキレイキレイしましょうねん?」


・・・


 数分後。


 すっきりキレイキレイになった放心状態の俺がいる。何故か風呂上がりのように髪の毛まで少し湿らせて…。


 「マモル殿。やっと目覚めたか」


 そこへ筆頭従者(ヘッダテンド)が現れて、にやりと笑う。

 期待に応えられずに、失態をさらした、こんな俺を、まだ「マモル殿」と名前で呼んでくれていることが、返って俺を辛くさせる。


 「何やら、若い娘が悲鳴を上げるような声が聞こえて来ていたが、目覚める早々にうちの女性従者(ヴァレッツ)に手を出すなんて、見かけによらずケダモノ系だったんだな」

 「俺の方が弄ばれてたんだよぉ!」


 俺は、姫様に誤解されてはたまらないので、あわてて抗議の声を上げる。


 「クア。守護者殿は怪我をされているのだ、あまり悪ふざけは良くない」と筆頭従者にたしなめられ、クアと呼ばれた電波系女性黒偽看護師は、「てへへ」と笑って、頭を下げている。

 「水の因子(ファラクル)能力(パーランス)を使って、体を洗って差し上げただけですわん。髪の毛から足の指の先まで、駆け巡る水に翻弄されて身もだえる守護者様は、とても魅力的でございましたわん」


 甘い声で言うな、甘い声で!「わん」ていう語尾もヤメロ!…と心の中で叫びつつ、それでも確かに垢や汚れが落ちてスッキリした俺がいる。

 顔を赤らめた姫様が、その発言に目を白黒させている。


 「も・ち・ろ・ん。衣は付けたままですから、ご安心を!」


 存分に俺と姫様を慌てさせて気が済んだのか、クアこと電波系(以下省略)は、今度こそ真顔に戻り口を閉じる。

 後から思えば、不甲斐ない自分に落ち込む俺を、無理矢理なテンションで励ましてくれたのかもしれないが…この時点では、俺はクアにあまり良い印象をもてなかった。


 「えっと。この電波系女性黒偽看護師モドキって、姫様たちと同じ…異世界人…ってこと?」

 「はいです。ラサ様の部下で、水の従者、クア=アオシ=ウルトでございます。この短時間の間に、とても長い二つ名を付けていただいて光栄ですが、時間の無駄ですので、これからはクアとお呼び下さい」


 異世界にも、お調子者はいたのか!!!…驚きのため、魂が散歩にいったように固まる俺に、筆頭従者が苦笑しながら、ことの顛末を説明し始める。


 「申し訳ないな。これでも、腕は確かなのだ。治癒力を高める能力も得意としていてな。守護者殿の看護には最適だと思って担当させたのだ。クアがいるからこそ、病院でなくとも、十分に守護者殿の傷を癒すことが可能なのですよ」

 「な、何で、倉庫に?」


 俺はようやく、本来なら一番に聴くべきことを聴けた。


 「騒ぎが大きくなってしまったからな。私の持つ因子の能力には、ある程度なら暗示をかけて人の記憶や認識を都合のいいように誘導する技があるのだが…敵の襲撃の規模が大きく…あの水蒸気爆発の音も、かなり遠くにまで鳴り響いてしまったゆえに、もう、あの病院に留まって誤魔化すことは、私と従者たちが手を尽くしても不可能だったのだ」


 水蒸気爆発?…ああ。俺が気を失っている間に、そんなことがあったのか。じゃぁ、それで病院が壊れちゃったってことなのかな?それにしても、何でこんな所に?


 「ここは?」

 「うむ。この2週間あまりの我々の活動の拠点として…まぁ、勝手に居候させてもらっている倉庫だ」

 「いや、そうじゃなくて…ここは、安全なの?」


 心に染みついてしまった恐怖心から、情けないけれど俺は、真っ先に危険の有無を確認してしまう。


 「いや、敵は、どうしても姫様をこの世界で確実に葬りさりたいと考えているようだ。あの病院は、私とジンが二重に結界をはり、暗示をかけたマスコミに、一時的にせよ『異国の姫を救った英雄の入院している病院』と信じこませ、人々の注目を集め、襲撃されにくいように手をうっていたにも関わらず、もう、暗殺の翌日には襲撃を受けたのだ。人目の少ないこの場所は、我々から放たれる僅かな要素(ルリミナル)を感じとられる可能性が高いと言わざるを得ない。再び襲撃を受けるのは、時間の問題だろう」


 マスコミ?異国の姫を救った英雄の入院する病院?…なんだって?


 筆頭従者の思いも寄らぬ説明に、怪訝な表情を隠せない俺。だって、姫様を守るどころか、逆に守られた挙げ句に失神しちゃっうようなダメなヤツなんだよ?どうして、そんなに俺をヒーローに仕立て上げたがるのさ?…もう、イジメに近いよ。

 

 混乱を隠せない俺に、次の襲撃が何時くるかわからないため、必要なことは全て説明するから黙って聞くように…と念を押され…俺は、自分の置かれた状況を聞かされた。


・・・

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