番外編 むっさい二人
「おい、アルバート」
「何ですか、デュアリス殿」
此処は食堂へ続く廊下の角。
アルバートは南の回廊から降りてきて、デュアリスは西の廊下からやって来た所で顔を合わせた。
「お前に聞きたい事がある」
「何ですか」
「どうしてお前はスマホを使えるのだ」
「ああ、それについては食事をしながらにしませんか」
少し昼の時間からずれている為か余り人はおらず、相席をする事も無く大きなテーブルに腰を下ろした。
俺はタンシチューと根野菜の蒸した物、硬めのバケットを前に置いた。
向かい側に座るアルバートの前にはショクパンと呼ばれる四角くやわらかいパンと果物、それとボールに入った生クリームである。
アルバートはパンの上に生クリームを塗りその上に果物を乗せ、更に生クリームを重ねて半分に折り口に運んだ。
「それは食事と云うより菓子では無いのか」
アルバートはパンの端からはみ出したクリームを舐めながら、にっこりと微笑んで答えてくれた。
「これはミオが日本で良く食べていた食事です」
「・・・異世界とは不思議な所だな」
「そうでも無いですよ?結構楽しかったですけどね。因みに日本ではクレープと呼ばれておりました」
楽しそうに美味しそうに食べるアルバートに呆れながら自分の食事を黙々と進めていたら、目の前の奇人変人の手が止まり突然話始めた。
「子供は、望めないかも知れません」
「・・・そうか」
考えてはいた事である。だからと言って、ミオを手放す気は毛頭無い。
「体の組織が微妙に違うと思います」
「例えば?」
「ミオやモエ達の世界の人間は体から静電気を発生させているんです。それは微弱な雷に似た物と思って下さって結構です」
「セイデンキ」
「そうです。その静電気を利用してスマホの画面を操作するんです」
「・・・・・」
「この国の人間は静電気を殆ど持って居ません。でもその代わりに持っているのが魔力なんです。そう考えて頂ければ良いと思います」
「そうか。それについては何となく分かったが、それでは何故お前がスマホを使えるのだ」
「それはですね、」
そう言いながらポケットに手を入れて、何やらごそごそと探している。
「有った有った、これですよ、こ、れ」
目の前のテーブルの上に乗せられたのは、しわくちゃで薄汚れた黄色い手袋である。
それもごわごわとした布製で、指先だけが黒くなっている。
「これが、何だ」
「向こうの世界は四季と言う季節が有って、冬と言う季節はとても寒いんです。外を歩く時は暖かい服を着て暖かい靴を履く。それと同じで手にも手袋を嵌めるんです。しかし、手袋を嵌めるとスマホが使えないので、手袋の先を特殊コーティングして使えるようにしたその名も「スマホ手袋」って言う物なんですよ~」
得意げな顔で力説されても、目の前に有るのは指先が黒くなっている只の黄色い手袋である。
「それを嵌めればスマホが使えると言う事か」
「はい。画面の操作は出来ますがアプリは起動しませんよ」
「何だ。結局使えんのか」
「使えるんなら、とっくに私が使ってますよ」
「それもそうか」
変な所で納得した二人である。
食事も済んで珈琲を飲んでいる時に、デュアリスはもう一つ気になっていた事を聞いてみる。
「白いアプリの下に有った、黒いアプリは何なのだ」
「余白が気になったから黒くしてみただけですよ」
「おい。それは・・・」
「ってのも有りますけど、使ったアプリの魔力を取り込む為のアプリです」
「・・・還元魔法か」
「流石ですね、デュアリス殿。アプリと言っても結局は魔法ですからね。使い終わったら回収して原石に戻すんです」
「だから原石は小さくても十分な訳だ」
「ええ、そうです。でも孰れは劣化すると思いますよ。二十年先か三十年先かは分かりませんけどね」
「・・・あのスマホとやらを、もう少し小さく出来ないものか」
「直ぐには無理です。でもいずれ、何とかしようとは思っています」
「そうか」
「はい」
お互い考える事は同じ様だ。
「そう言えば最近奥方を見ないな」
「登城拒否をしております」
「登城拒否?」
「登校拒否と同じです。城に行きたくない、行かないと言って駄々を捏ねて引籠っております」
「・・・何か有ったのか?」
「国王と王妃に構われ過ぎたんですよ。娘が欲しかったそうですからね」
「あの人達は加減を知らんからな。私からも言っておこう」
「モエは元々引籠りな所が有りますから、気にしないで下さい」
「そう言えばミオもアシエルに帰らないと駄々を捏ねた事があったな」
「クオーレ殿もかなり溺愛してるみたいですね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「お互い、大変な娘を手にしたな」
暫く黙っていた二人だったが、互いに握手をし、肩を叩いて食堂を後にした。
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完結に伴い、タイトルの変更をしました。




