42話 シンシアの誓い
『かふぇ』オープンの前日、メイド服のサイズ調整も出来上がり、美千瑠と一緒にアシエル国へとお披露目に出かけた。
父と母は猫耳カチューシャが気に入り、二人で交互に付けて楽しんでいた。
ユイナには舞から頼まれた『ユイナ専用猫耳』を装着したら、頬を赤くして照れていた。
(超―可愛いんですけどっ!)
それを見た父は、アシエルでも『かふぇ』をしようと提案してきた。
どうやらハンプシャー家(ハンプティダンプティ、忘れてた)の爵位取り消しが決まり、その邸宅も売却される事になったそうだ。
ハンプティダンプティは一生檻の中が決まり、あのどじょうさんもハンプシャー家の薬師だったので、アシエル国から追放されたと言う事だ。
「やっと決まったんだね」
「養女とは言え、前王妃の家だったからな」
その前王妃サリーちゃんのお母さんは、民にケシの花を栽培させていた事に酷く怒って「そんな家の名前なんて名乗る気は無いよ」と、簡単な話で終わったそうだ。
私が父と母に拘束され、ユイナと一緒に猫耳で遊んでいる頃、美千瑠はサリーちゃんに見せに行くと言ったまま、暫く帰って来なかった。
(うふふふ)
夕方近く、イシュダールの我が家に帰るとお客さんが待っていた。
「シンシアさん」
「忙しい時に済まない」
シンシアさんは騎士隊の制服姿で待っていた。
「仕事中ですか?」
「今はアヤカに交代して貰っているから気にしないでくれ」
そう言うシンシアさんを連れて、森林の東屋に場所を移した。
「デュアリス殿の事を思い出したそうだね」
ソファに座り、お茶を淹れている私を背にそう話し掛けて来た。
「はい」
ここは返事だけしておこう。下手に謝ったらシンシアさんが気を遣いそうだ。
「本当の意味での原因は私に有るのだよ」
差し出されたお茶のカップを見つめながら、シンシアさんは自分の事を話し始めた。
伯爵家の一人娘と言う事で、兎に角甘やかされて育ったと言う。
菓子が食べたいと言えばテーブル一杯に甘い菓子が用意され、靴が欲しいと言えば玄関一杯に靴が並べられた。
そんな事が日常だったからそれが当たり前だと思っていた。
しかし、そんな日常が嫌でたまらなかったのだと彼女は言う。
「外を走ったり、馬に乗ったり、庭の木に登ったり、そんな事がしたかった」
しかし、それらは女の子がしては行けない事で、彼女の側には必ず誰かが付いていた。
「その頃、父の弟がまだ一緒に住んでいてな、叔父上が暇を見つけては私を連れ出してくれたんだ」
叔父様はその頃騎士隊の隊長で、騎士隊員の訓練所にも遊びに連れて行ってくれたそうだ。
其処では刃の無い剣を持ち、馬にも乗せて貰った。
「騎士隊に入隊したばかりだったデュアリス殿やアシュレイ殿と一緒に剣の練習をするうち、自分で言うのも何だかめきめきと腕を上げてな、あの二人に勝つ事が増えた時は嬉しかったものだ」
「えっ?あの二人に、ですか?」
「十の頃の話だ。あの頃は二人共細くて私と同じ位の背恰好だったよ。今は到底勝てる訳が無い」
女の子は十を数える頃になると縁談が舞い込む様になる。
それは許嫁と云う名の家同士の繋がりを示し、低い爵位の者は上の爵位の者を欲しがる傾向が多い。シンシアは伯爵家の一人娘、縁談は沢山舞い込んでいたらしい。
「私は騎士になりたくてな、隣国では女性騎士が居ると聞いて家を出たんだ」
しかし、世間を知らない女の子が豪奢なドレス姿で街を歩けば、それは目立つ。
裏道に入った途端に目付きの悪い大人達に囲まれ、手にしていた鞄は直ぐに奪い取られた。走って逃げても直ぐに追いつかれ、もう行き場の無い袋小路で体を丸めていたら、聞き覚えのある騎士隊員に助けられた。
「それがデュアリス殿だった」
何も言わずに手を掴まれて、ずんずんと歩く先はワイルダー公爵家の玄関だった。
其処であろう事か彼は自分の父に向かって、「私の婚約者だ」と紹介したと言う。
「デュアリス殿は全てを知っておられたようだ」
それからの毎日は楽しかった。
嫌な事はしなくて良いし、騎士隊の練習場へも毎日通った。
成人してからは隣国へ留学も果たしたし、そこで恋もした。
「しかし、私は自分の意思を相手にきちんと伝えると言う事を学ばずに来てしまった」
幼い頃に家を出る事で何とかなると思ったのが始まりで、サリヴァンの事も結局逃げる事、誤魔化す事で何とかなると思ったと言う。
「その結果、マリア殿を傷つけてしまった。本当にすまなかった」
外は夕闇に包まれ、庭を照らす外灯の明かりがやさしく揺れている。
「サリーちゃんが言ってました。シンシアさんとゆっくり話が出来て良かったって」
「サリヴァン殿が、そうか」
「半年前のあの時なら話なんて出来なかっただろうってね。今だから話が出来たんだろうって、そう言ってました」
「・・・・・」
「人間のする事に正解なんて無いと思ってます。自分が正解だと思っても、他人からは不正解だと思われてるかも知れません。それでも良いと思いませんか?自分は正解に向けて歩いて居るんですもん。ね?」
「マリア殿・・・あなたは・・・」
シンシアさんは帰る時、私に対して騎士の礼をし、片膝を付いたまま私の手を取ると、そこに口づけを落として誓いを立てた。
「私、シンシア=クラーク、ミオ=アシエル=マリア殿と共に歩み、守る事を此処に誓う」
「えっ?私に誓ってどうするんですか?」
「深く考えるな。何かあれば私を頼ってくれと言う事だ」
「はあ、ありがとうございます?」
「そうだな、例えば、デュアリス殿と喧嘩をした時など幾らでも話を聞くぞ」
「・・・その時は、宜しくお願いします!」
二人で顔を見合わせ大笑いをした。
「何を笑っている」
「へっ?」
東屋の脇道から一人の男性が歩いて来る。
騎士の制服を着た大柄な男性で、制服の胸元には青色のペンが目立っている。
「総指揮官」
「シンシアか、何かあったか」
「いえ、私の用は終わりました」
「そうか」
「はい。では私は先に戻ります」
シンシアは私にウインクを投げて、スタスタと帰って行った。
(うっ、色っぽいぞー!)
「おぅっ」
シンシアに見惚れていたら、顔面が固い胸板に激突する勢いで抱きしめられた。
「デュー、痛い」
「マイは手加減を知らぬ」
(あんたもね!)と言いたいのを堪えて、デューの腕の中から顔を出す。
「再三言われてる事を守らないからだよ」
「む、あれでも我慢しているのだぞ」
(マジっすか!?あれで我慢してるんですか?)
「どの位?」
「半分」
「はいっ???」
(絶対無理です!)
「そんな顔をするな。攫って帰りたくなる」
(嫌々、誘ってませんからっ!)
「明日、迎えに来る」
「うん。待ってる」
デューは優しくて、少しだけ(多分?)長いキスをして帰って行った。
人間のやってる事に正解って有るんでしょうかね?
どんな人でも悩んで道を選んで進んでいると思いたいのです。
最近、テレビでとんでもない事件が起こってますよね。
あの人達って本当に人間なのかな~って考えてしまいます。




