30話 姐さん、茶が入りました
私は花沢萌(はなざわもえ)。美桜(ミオ=マリア)の姉である。
しかし八歳違うと言う事と、両親が早くに亡くなっているので気分は親である。
庭で拾った外人が異世界人だと理解した時に、何時かはこういう時が来るのでは無いかと多少の心構えみたいなのは持っていたが、現実に起こるとやっぱり嫌な物である。
それも自分ではなく、大事な妹に降り掛かったかと思うと、余計に複雑な心境だったりするのだ。(まじで腹立ったしね)
此処はアルの実家の一室である。
漸く会った妹は声が出ず、嬉しいやら悔しいやら気持ちは複雑だ。
今、城の神官長だと言う爺さんが来て、美桜に掛けられた術を排除してくれている。
向こうの国で掛けられた術は、言葉を理解する為の術らしいが、一歩間違えれば術者の言う事しか聞かないと言う恐ろしい術らしい。今はそう言った体に直接術を施す事は禁じられており、封印されてから八十年近くなるらしい。
そんな術をわざわざ使った馬鹿な王子も気に入らないが、そういう事がありそうだと思って緩和する術を込めた飴玉を渡したと言う、あの爺さんも気に入らない。
(其処まで分かっているなら教えてあげる事は出来ないもんかねえ?)
しかし、久しぶりに会った妹は、何て言うか幼くなっていた。
念願叶って「猫バス」に乗って来たのだから幼くも感じるかもしれないが、一緒に来たクオーレさんとやらにやたらと懐いていて面白く無い。
まあ、八か月も放ったらかしにしてしまったのだから、あの子もそれなりに自分の居場所を作っていたと言う事なんだろうけどさ。
八か月かあ。
そんなに経ってたんだねえ。
美桜を異世界に飛ばしたアルも、咄嗟の判断だったのは分かる。
あのまま階段を転げ落ちていたら、間違いなく生命の危機は訪れただろう。
だからって、異世界。
病院とかそういう事を思いつかなかったアルは、やっぱり異世界の人間なんだろうなあ。
あのストーカー野郎はすぐさま警察に突き出してやった。
刺した人間が居ないのは変な話なので、私が身代わりになって訴えてあげたが、もう既にあのストーカー野郎は狂っていてお話にならなかった。
結局精神の疾患と言う事で有罪にはならなかったが、一生まともに戻る事も無さそうだった。
「猫耳かふぇ」はあの事件の後、直ぐに閉店にした。
バイトの子達も殆ど辞めたが、行き場の無い三人の子が残った。
一人は親から受ける虐待に耐えられずに家出をした美千瑠(みちる)
養護施設で育った綾香(あやか)
両親が離婚をして祖母の家で暮らす舞(まい)しかし祖母さんが病死をした為結局一人になってしまった。
この三人は半家族状態だったのもあり、悩んだ末、事実を告白したら一緒に行くと口を揃えて言ったのだった。
元の世界で暮らすのが困難な子達が、異世界でやって行けるかは疑問が有る。
それでも、あの子達を置いて行くのも心配で、結局は連れて来たのだけど・・・・・
どうしても合わない子が居たら日本に戻そうと考えていたが、どうやらその心配は要らない様だ。
兎に角、この八か月間は忙しかった。
警察での取り調べや報道機関の取材に追われ、事件の決着を迎えるまでに六か月係った。
店の閉店後には不動産屋との手続きが有り、自宅の処分や売買等、本当に面倒この上なかった。
両親のお墓の事もお寺に永久供養して貰うように頼んだり、小説家としての私の印税の取り扱いをどうするか等、片づける事は山の様に有ったのだ。
アルは手伝うよと言ってくれたが、異世界人には分かる筈も無いので、全て一人で片づけて来た。
でもアルには三人の妹達(妹と言う事で面倒を見る決心をしました)と一緒に、持って行く最低限の物を用意して貰うなど、それはそれで大変そうだった。
本当なら直ぐにでも迎えに行きたかったんだ。
アルの魔力が戻るのを待って、直ぐに行きたかったんだ。
「ぉ・・おねえ・・ちゃん・・」
「・・・美桜」
「お姉ちゃん!」
「うん」
声が出るようになり、首元に有った変な痣は綺麗に消えていた。
ソファに座っていた私にダイビングする妹の、久しぶりに聞く少し高めの声は耳に馴染んで心地好かった。
コンコン、ノックの音がする。
返事をするより先にドアが少しだけ開いて、見知った顔が三つ、鼻より上の部分だけを揃って覗かせている。
「もういいよ。入っておいで」
私に抱き着いて離れない美桜を囲んで、久しぶりの対面に大騒ぎとなったのだった。
暫くするとまたノックの音が部屋に響いた。
広間で皆が待っているから、顔を出して欲しいとの要望である。
久しぶりの再会の邪魔をするのかっ!と思ったが、王妃様まで来ているんだからしょうがない。
「夜は皆で寝よう」その一言で納得して貰った。
広間へ行って見ると、あっと言う間に皆に取り囲まれた。
口々に「お帰り」とか「大変だったね」とか、労いの言葉を掛けてくれている。
「お、お姉ちゃん、皆が何言ってるか分かんないよっ!」
そうだった。
別室で昼寝をしていたアルを叩き起こしてスマホを受け取り、皆で作った腰に下げるポーチに入れて渡してやる。
「うぉ!皆とお揃いだ!」
大喜びの美桜を連れて、また広間へと戻った。
皆に囲まれながら、楽しそうに話をしている美桜。
しかし、その輪に入らずに少し離れた所からその様子を見ている者もいる。
クオーレとユイナは当然として、
王妃様。
アルの両親。
それと、シンシアと総指揮官殿。
他の妹三人はテーブルに用意された数種類のケーキを試食している。
我妹はどう決断するのだろうか。
賑やかな喧噪も落ち着き、美桜が王妃様の元へと向かってお辞儀をした。
王妃はその様な事をするなと言って泣き笑いの顔をしている。王妃は王妃なりに心配していたのだろう。
一言二言話しをして、王妃は神官の爺さん達と帰って行った。
アルの両親は始終謝っていた。
無理をさせただの、意向を聞かなかっただの、優しくなかっただのと謝っている。
美桜はそれに対して、誰も何も悪くないよ、と笑顔で答えている。
シンシアと総指揮官の前に行った時、周りの人達はこれからの行方に固唾を飲んで居た。
今この場で喜びと同時に困惑を抱えているこの二人は、どう見ても周りから浮いている。
何から言おうか迷っているシンシアは、取り合えず謝る事にしたようだ。
それに対して美桜はやはり笑っており、折角一緒に練習した合気道が役に立た無かったと言って合気道の型なんぞ始めている。
そしてシンシアは隣に居る総指揮官をチラリと見て、あの一件についても謝りたいと再度頭を下げたのだった。
しかし美桜はその二人を交互に見ながら、何の事?と不思議そうな顔をしている。
総指揮官が口を開きかけた時、美桜がまた変な事を言いだした。
「あ!シンシアさんの婚約者さんだね!かっこいい人だね!」
そう言って総指揮官の前に立ち、「初めまして」と言って令嬢の挨拶をしたのだから周りは騒然としたのである。
最初に口を切ったのはサンドラだ。
「ちょっと、マリア、いい加減にしなさいよっ!」
美桜は何で自分が怒られているのか分から無いと言う顔をして、目を丸くしてサンドラを見つめている。
その表情に何か気が付いたのか、サンドラも目を丸くして黙ってしまった。
それを見ていた他の人達もまさかの展開に驚き、部屋の中がしーんと静まり返っている。
私はやんわりとその場から美桜を連れ出し、ケーキ三昧している三人の妹の元へと連れて行った。
この三人、状況と言うか場の雰囲気を感じ取るのが上手なので、旨い具合にフォローを始めた。
「美桜、これ美味しいよ」
「あら、こっちのチョコレートケーキの方が美味しいですわ」
「みたらし団子が無い」
「全部食べるー!あ、ユイナー!一緒に食べよう」
美桜はユイナを紹介しつつ、皆で仲良くお茶を始めたのだった。
最近美桜の口から「デュアリス」の名前が出てこなかったのは、こういう事だったからです。
サブタイトルは個人的な見解です(笑)スミマセン・・・




