↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/18

【第十八話】エンドマークのその先で

 一学期、最後の日。元文芸部室。

 常政律郎はキーボードを叩いていた。追い込みをかけるロードレースの選手のように、今までにないくらい軽快なタッチで、文章を書き進めている。

 もう少しで、思い描いていた最終行に辿り着くのだ。

 この瞬間のために、行きつ戻りつを繰り返しながら、数百時間を費やしてきた。

 今、目の前を遮るものはなにもない。

 ロボットアニメの管制官、ハリウッド映画のスパイと同じ手つきで、律郎は、物語の終わりへと突き進んでいる。


 そして──律郎は、最後のエンターキーを押した。


 オーケストラが鳴らす最後の一音のように、タン、と音を立てて、律郎は椅子の背もたれに寄り掛かるように、両腕を上げた。

「終わった!」

「わー、すごい! お疲れ様!」

 ぱちぱちと音が聞こえて、隣を見ると、流山珠悠が座って拍手していた。

 完全に見慣れたと思っていたその笑顔が、今は、とても輝いて見えた。

「あ……うん」

 律郎はぽけーっと、その顔を見つめた。

 その視線に驚いたのか、珠悠は目をきょとんとさせて、首を傾げる。

「どうしたの……? 燃え尽き症候群?」

「いや……」

 エンドマークのついたそのお話は、風に吹かれて剥がれていくように、急激に律郎の中から存在感を弱めていった。まるで、台風が熱帯低気圧へと変わり、やがて凪へと戻っていくように。


 そして、見通しのよくなった視界で、律郎は“それ”と出会う。


 当たり前のようにそこにあって。

 当たり前すぎて、見えていなかった感情。


「俺……流山のこと、好き……みたい」


 珠悠は不意を突かれたように背筋を伸ばしたが、すぐに頬を緩ませて、いつものあの眼差しを律郎の眼差しに向けると、待ちわびたように言った。


「私も。常政くんのこと、好き」


 ただ、ふたりはそう、静かに言い交した。


 窓の外では、天高くに太陽が煌々と照っている。雲も高く、白く、上っていて、夏の気配が強まっていた。

(終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。