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あの山へ2


 アイスも食べ終わったので、作業再開だ。


 俺、トモヒロ、ノブ、タクヤとあいつの五人でソファーを運ぶ。エイコとチビ共でダンボールだ。

 ちなみにあいつが背負っていたリュックはノブラザーが背負っていくことになった。

 ハッキリ言って邪魔だからここに置いて行けと言ったが、やつは持って行くと言って聞かない。自分で背負うと主張していたが、ノブの指令でノブラザーに担当が決まった。

 もういい、好きにしろ。


 まあ、話を戻して、初っ端からこの運搬は大変だが、作業分担前の、人数が居るうちにソファーは片付けておかねばならない。

 難所は……全部だな。神社の階段も大変だし、山登りもきつい。道中もこんなの担いで商店街なんか抜けられないから回り道だろう。でも一か八か可能性を考慮して、人が少ない朝を選んだのだ。


「じゃあいくぞ。いっせーのーせっ!」


 俺の号令のもと、五人でソファーを持ち上げる。

 そこまで重くない。これならいけそうだ。エイコ率いる三人の先導に従って運搬が始まった。


 まず、藪を抜けるのに手間取った。

 だがこれはノブとあいつが後ろから力一杯押しこんで無理やり通り抜けることに成功した。

 境内を通過して、次に神社の階段だ。ここはゆっくりと足元を確認しながら降りていき、危なげなく突破だ。

 ふもとの鳥居の脇に一旦荷物を降ろして休憩とする。


 こんな所、あまり人に見られたくないなあ。ゴミを投棄しに行くとか思われたら面白くない。あの子達なんか粗大ゴミ運んでたわよ、とか噂になったら俺らの評判を落とすだろ。実際は向こうで大切に使うのになあ。

 そう考えると悠長に休憩なんてしてられないな。早く行くとしよう。

 渋る一行をなだめ、運搬再開だ。


 ここからしばらくはあの山へ向かって道なりに進む。

 この先は学校だ。迂回ルートはない。先生に見つからないように細心の注意を払わねば。

 俺たちは一旦進行を止めて、エイコに偵察を指示する。エイコは単独で校門へ向かうと、そこから頭を出して校庭内と校舎の方の様子を伺う。

 そして戻って来ると結果を報告してくれた。


「異常は確認できませんでした。問題なしです!」


 その言葉を信じ、校門前を急いで通過する。

 誰からも声がかかることなく、無事に突破することができた。


 その後大きな通りに差し掛かる。ここからのルートが問題だ。


 商店街ルートはまっすぐだから一番近いけど、間違いなく人がいる。あまり見られたくない。

 住宅街ルートは運だな。誰と遭遇するかわからないし、遭遇しないかもしれない。後、ちょい迂回ルートになる。

 工場群ルートはこの時間なら外に出てる人はまずいないだろう。しかし、遠い。


「おーい! ユウキ! どっちに行くんだよー!」


「ちょっと待てって、うーん。……ひとまず下ろそうか。エイコ、ちょっともっかい商店街の方に人がいるか見てきてくれよ」


「え、偵察は別にいいけど……人がいたらダメなの?」


「だってこんなもん運んでんだぞ。なにか言われるって」


「えー、そりゃ先生だったら見つかってなんか言われるかもしれないけど。別に悪いことしてるわけでもないし、いいんじゃない?」


「そうだよなー。ユウキ、お前考えすぎだってー」


 エイコとトモヒロからは楽観的な意見が飛び出す。……確かに一理あるが。

 うむむ、そうかなあ。俺は気にしすぎなのかな。


「子供のやることだしね。大人もそんな気にはしないと思うよ。でもまあ、もしかしたら学校の人もいるかも知れないしね。一応エイコ行ってみてきたら」


 あいつにも言われてしまった。


「あいさー。それじゃあエイコ行ってまいります」


 エイコはそう答えると、ナオの指示に従って、ささーっと効果音を口ずさみながら商店街へ走る。


「あ、そうだ。ノブラザー。ちょっと僕のリュック貸して」


 エイコの帰りを待つ間、あいつはノブラザーからリュックを受け取ると中からゴソゴソと水筒を取り出す。


「麦茶だ。みんなで飲もう。エイコの分も取っておけよ」


「うおー! 生き返るぜー!」


 用意がいいこと。でも、正直大汗かいてちょうど喉が渇いてたんだ。


「ほら、あとはユウキとエイコだ」


「お、おう」


 あいつが差し出してきた水筒を俺は受け取る。なんだか施しを受けるようで口をつける事に躊躇してしまう。

 一方で欲求は膨れ上がる。これを飲めば乾きが解消される……。目の前に差し出された事で、ますます乾きが増した気さえする……。


 俺は屈した。まあ、既にさっきアイス受け取っちゃったから、今更施しも何もないんだけどな。フタに移して一口含む。つめたい!そのまま麦茶は喉を通り身体に落ちていく。今までの疲労が幾分か解消された気分だ。


「あ、もう食べもんも飲みもんも持ってないからね。期待すんなよ~」


 なら他には何持ってんだよーと、トモヒロにリュックを引っ張られ、笑いながら抵抗している。

 余韻に浸りながらそんな光景を眺めていると、エイコが走りながら戻ってきた。

 俺はエイコに水筒を渡す。


「ほら、麦茶だって」


「あ、ありがと~。ナオの? みんなは?」


「うん。エイコが最後だよ。みんな空けちゃって」


 ナオがそう告げると、エイコは一気に飲み干した。そして水筒を返しながらエイコは報告をする。


「まだあまりお店開いてないから人はほとんどいないけど、ちらほらって感じかな。先生とかはいなかった」


 やっぱり人はいるのか。でもさっきの話の流れから、ルート変更を申し出たら遠回りになるし反感を買いかねん。まあしかたない、大丈夫か……。


「よし、じゃあ最短ルート、商店街を突っ切ろう」


「ああ、じゃあ行こうか」


 あいつは水筒をリュックにしまいながら答え、みんなも立ち上がる。

 ソファーを持ち上げ、俺たちは商店街へ入っていった。


 店は既に開店しているところも幾らかあるが、大半は準備中だ。エイコのいうとおり、お客さんは少ない。店の人も慌ただしく動き回っているが、開店の準備を終えてるところは一息ついているようだ。そんな店の中からは好奇の目が浴びせられる。みんなは気にしていないようだったが。


 あ、前から近所のおばちゃんが歩いてくる。


「あらあら、なんかすごいわねえ。あら、あなたは見ない子ねえ」


「こんにちは、里帰りに来ててこの子たちに遊んでもらってるんです」


「そうなの。がんばってねぇ~」


 この場はみんなで、ありがとうと返しておいた。

 なんだ、それだけか。

 もっとこう根掘り葉掘り聞かれて、やめなさいとか、学校にいいつけるよとか言われるかと思ったが全然大したことはなかった。

 興味はむしろあいつに行ったようだ。……あいつのおかげか?


 無事に商店街を抜けると、後はあの山まで一直線だ。一応、みんなに休憩するか聞いたが大丈夫だと答えたので一気に進む。

 山のふもとに着く頃には十時を回っていた。思ったより時間を食ってしまったな。


「下ろそう」


 みんなで腰を降ろして休む。

 ここからまた難所だ。いや、ここが最難関だな。家族でハイキングに来るような山ではあるが勾配もそこそこある。まして、こんなもん持って上がるのは骨が折れる作業だろう。気合いを入れて挑まないと。


「みんな疲れてないか?」


「当然だぜ! あとちょっとだ! 一気に行こうぜー!」


「あ、僕はちょっと疲れたかな」


「なんだよナオ、根性ねぇな。てめぇも男だろ、がんばれよ」


「ふぃ~。かなわないなあ、じゃあ行こうか」


 そう言ってあいつが立ち上がると、それにつられるようにみんなも一斉に立つ。そしてソファーを持ち上げる。

 今日は夏休みとはいえ平日。他に登山者は居ないようだ。俺はどことなく安堵し、歩みを進める。


「おい、ユウキー。どこらへんまで登るんだっけか?」


「普通に歩いて十五分くらいのところだ。一つ目の分かれ道だよ」


「あー、あそこなー」


 ここからはきつかった。ずーっとゆるい上り坂だ。俺たちはフォーメーション変更をする。ノブとあいつで前後から挟む。両脇に俺とトモヒロが位置し、タクヤは適当に隙間に入る。その隊形で二十分ほどかけてようやく分かれ道のところへたどり着いた。


「はあ、はあ。よ、ようやく着いたー」


「みんなお疲れ。一旦ソファーは傍に置いておこう。まずはあの場所の確認だ」


「ついに不思議な場所もお目見えか」


 ああ、連れて行ってやるよ。俺が目を奪われた世界に。


「こっちだ。確か……」


 初心者コースの道をほぼ直角にそれて、林の中を少し進む。すると左手に木が3本隙間なく生えているところがあるので、これに背を向けるように角度を変える。そこからさっきと同じくらい進むと。


「あったあった、この先に少し明るいところがあるだろう。そこだよ」


「うおおおー。なんなんだこの目的地までのルートは。途中の方向転換とかスゲー雰囲気あるな」


 まだその場所に到着もしていないうちにそこまで褒められるとはな。そんなんじゃこの後、身が持たないぜ。


 林を抜ける。

 目の前に広がるは、ほぼ円形に木が生えていないスペースだった。広さはざっとバスケの半コートくらいかな。山道の地面は土だった、今通って来た林も所々に草が生えている程度だけど、ここは芝生のように草が生えそろっている。上を遮るものが無い分、山道よりも明るくて、緑が鮮やかに映える。さしずめ緑の空間、いや、緑の領域といったところか。


「ほう……」


「なんだここ……すげぇな」


「いい感じにひらけてんなー」


「ほんとに……ふしぎだね」


「なんだろうな。なんかの巣とか、けもの道……って感じでもないしなあ。さ、ソファー運びこもうぜ」


「いやあ、通れるかなあ」


 俺たちは山道まで戻るとソファーを担ぐ。

 神社の藪の時よろしく、今来た道に無理矢理ソファーをねじ込むと、木々の隙間をなんとか縫って緑の領域まで持ってくることができた。


「こっちからあっちの道はうっすらと見えんのなー。あっちからも見えんのかな?」


 ほんとだ、気にしてなかったな。相変わらずトモヒロは目ざといやつだ。どうだろうな、確かめてみないと。


「ああ、さっき見たけどあっちからはよほど意識してよーく見ないとわからない感じだったよ。こういう場所があるってあらかじめ知っていればなんとかって感じだね。

 ここはハイキングコースなんだっけ。丁度分かれ道だしみんなの意識はこんな林の奥じゃなくて前方の道に向くだろうね」


 あいつがそう答える。さっきソファー取りに戻った時、確認してたのか。ここにも目ざとい奴がいたもんだ。


「一直線にはひらけてないからな。それにこっちの方がやや地面が低くなってるようだし目線からも合わないんだろう」


 たった今確認して気がついた点を付け加えておく。そういうことだね、とあいつはそれに同調してきた。多分あいつはわかってなかったな。

 ともあれ、ひと仕事終えた。と言っても真ん中にソファーを置いて横にダンボールを積んだだけだけどな。午前中はこんなもんか。


「じゃあ午前の作業はここまでだな。午後は予定通り神社で。トモヒロ、今何時?」


「んー、十一時十分くらい」


「帰って十二時だな。一時……いや、一時半集合にしよう。タクヤはちーちゃんに連絡な」


「分かったよ」


「あ、神社って上かな? 下かな?」


 話を閉めようと思ったところであいつから質問が飛んで来た。神社といえば普段は下だ、そう決まっている。まあ、部外者にはわからないよな。けども今日の場合は……。


「そうだな、ソファーとか持って来ちゃったからあっちにはないけど、下は暑いしな。ベースでいいだろう」


 こいつが居たら階段の競争もできないしな。


「わかった。今度は遅れないように気をつけるよ」


 どうだかな。一応予防線を張っておくか。


「二時にはここに向かうからな。時間通り出発するからみんなも遅れんなよ」


「オッケー」


「よし、それじゃあ帰ろう」


 俺たちはこの場を後にして山を降りた。



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