出会い2
「じゃあ、とりあえずベースに行くか」
腑に落ちないが、やつが仲間に入っちゃったのはもう今更どうしようもない。どうせ一時的なもんだし、一週間で帰るっても言ってたからな。とっとと話を進めよう。
「ベース?」
「秘密基地みたいなもんだよ。しょうがないから連れてってやるけど誰にも漏らすんじゃねえぞ」
「おっけおっけ。しかしすごいなあ、秘密基地とか持ってるのか」
「まあなー。最初は俺とユウキとノブの三人でつくったんだよなー」
「へえ、羨ましいなあ。僕にはそういう経験はないよ」
「なんだナオ、おめぇは友達いねぇのかよ」
「へへ、痛いとこついてくるな……」
意外だな。
こんなに厚かましい奴が友達少ないとは。こっちには図々しくも、取り入ってるのに。
喋りながら本殿の横から藪に入る。俺らの往来によって踏み固められた道を進んで、背丈ほどの藪を抜けると正面にベースが佇んでいる。木の板で三方囲い、屋根はビニールシート。正面もビニールシートとダンボールでうまく開閉できるようにしているのだ。全体が木と草でいい感じに覆われてカモフラージュされているからあまり目立たない、俺らの城だ。
「お、これかい。すごいね、想像以上だ」
そうだろう、そうだろう。なかなか苦労したんだ。この壁とかはな……まあ、今はいいか。
「中はどうなってるんだい?」
あいつは俺の顔を見てくる。まあ、ここまで来たんだ。見せてやろう。
俺はベースの正面まで行き、ビニールシートをつかんで持ち上げる。
「おー、なかなか広いな。これはマットレスか。これは……テレビ? え?」
「いや、さすがに電気はないからな。映らないよ」
「ふーん。いいインテリアだね」
それからトモヒロとタクヤによるベース紹介が始まった。やつはすごいすごいと褒めながら聞いているもんで、二人の説明にも熱が入っていく。
「いやぁ、いい基地だね」
「……なあ、もういいだろ。かなり時間が経ってんだよ。あの山に行く時間が無くなるぞ」
「あ、ああ。そうだな。今何時くらいだろう」
イカンイカン。俺も二人の説明にも聞き入っていた。ノブに突っ込まれて俺はトモヒロに問う。
トモヒロは腕に巻いている時計に視線を落とす。
「うわー、もう四時になるな」
「う~ん、往復で一時間と見ると今日行くのはもうきついか」
「だな。着いてもなんも出来ねぇ」
「しょうがねーかー。また明日だなー」
「えー、今からでも……そうだ、走っていけば間に合うよ! ねえユウキくん!」
「ううん、やめといた方がいいよ。残念だけど明日の楽しみにとっておこう」
タクヤの言い分をちーちゃんが制したところで結論だな。
まったく、とんだ災難だよ。こいつのせいで予定がグダグダだ。とは言えタクヤが言うように走っていっても無理があるし、今日は諦めるしかないな。
「やめておこう。代わりに明日の予定を今のうちに立てるとしよう」
「ああ、そうだな。何時に集まる?」
「朝一だろー!」
「うん。出来ればそうしよう。まだ日が高くならないうちにここから荷物を持って行こう。そうすれば人通りも少ないだろうし大通りからいけるだろうし。そうだな……九時でどうだ?」
「よっしゃー! 九時なー!」
「わかった。明日はあいつらも来るか聞いておく」
「ああ、ノブまかせた」
「俺も大丈夫だと思う。ねーちゃんにもいっとく」
「よし、タクヤもおっけーだな。ちーちゃんはどうだ?」
「明日の朝はちょっといけないかもしれない……午後からならいけると思うけど」
「了解。じゃあ昼にタクヤから連絡を入れるようにしよう。どこで何時に集合するか、とかな」
「うん、わかった」
タクヤはなんで俺がーとか、世話のかかるやつだなーとかじゃれついてるが、いつものことなので無視する。
「……お前は?」
俺は、一人でぼーっと突っ立ってやりとりを眺めていたあいつに向かって聞く。
「お、僕も来ていいのかい? もちろん参加させてもらうよ」
嬉しそうに……。
しょうがねえだろ。連れて行くって言っちゃったんだから。約束は約束だ。
「じゃあ明日はまずここ、ベースに集合だ。荷物をまとめて九時半までに神社を出発しよう。そしたら十時前には山に着くだろ。そして小一時間作業して十一時ちょいに山を下りて午前は終わりだ。そうなると多分荷物は一回じゃ持ちきれないだろうから午後もベースだな。時間は一時くらいからでいいだろう。時間と場所は仮だ。ちーちゃんにはタクヤが連絡すること。ここまでで何か質問は?」
周りを見渡すが質問はないようだ。いや、一人何か言いたげにこちらを見ている奴がいる。
「……なんだ? 何か質問があるか?」
「あ、いや、段取り上手いなあって思ってね」
「は?」
「いやいや、なんでもないよ。ところであの山ってのはどの山かな」
「ああ、あの山ってのは学校の向こう側にある山で……こっからは見えねえな。ちゃんとした名前はあったと思うけど……俺らの中ではあの山で定着しちゃってるな」
ふーん、と奴はうなずいている。
「よし、じゃあ質問がなければ……」
「あ、もうひとついいかな?」
「……なんだ?」
「あいつらとか、ねーちゃんとか、あと何人いるんだい? 君たちのチームは」
「こいつら以外には後三人だ。ノブの弟に妹。小二だっけか?」
「そうだ」
ノブに質問すると即答で帰ってくる。
「後、こいつのねーちゃん、俺たちと同級生だ」
「賑やかなチームだな。僕は人見知りだから気後れしちゃうな」
なに言ってんだよ。人見知りがあんな風に話しかけてくるか。この小馬鹿にしたような態度が気に入らねえな。
「……他に質問は?」
「僕はもう大丈夫だ」
周りからも無いようだ。
「それじゃあ、時間までは明日スムーズに出発できるように持ち出す荷物を決めておこう」
そうして俺らは作業を行っていった。トモヒロとタクヤはテレビをどうするとかトンチンカンなことを言っていたが概ね順調に作業は進み、仕分けがある程度終わる頃にはもう五時前になった。
「よし、こんなもんだろ。そろそろ今日は終わるか」
「ういー! つかれたー! はらへったぜー!」
「そうだな。早く帰って飯食おう。死にそうだ」
「じゃあ今日は解散だ。明日は九時にここだ。下じゃないぞ、間違えんなよ」
「お、おう。あったりめーじゃねーかよー!」
「あ、そういえばさ」
奴が手を上げて会話を遮ってきた。
「あ? なんだよ」
奴が手を上げながら会話を遮ってくる。俺は繰り返される問いかけに、思わず苛立ちを隠さずに返答してしまった。
「あ、いや、なんでも……あ、下って鳥居のところか?」
「そうだよ。そっちじゃないぞ。ここに集まるんだ」
「ああ、わかったよ」
まったく。まあ、いきなり下でって言ったら部外者にはわかんねえか。
それ以上の質問は誰からも無かった。
やる事もやったので今度こそ解散としよう。藪を通り神社に戻る。境内を通って階段を下ると、神社のふもとであいつは一人別れて帰って行った。俺たちもそれぞれの帰路につく。
途中までトモヒロと一緒に帰り五時過ぎに家に着いた。
「ただいま~」
「おかえり~」
母さんとばあちゃんが迎えてくれる。俺は手洗いうがいを済ませ部屋へと向かう。椅子に腰を下ろして今日のことを思い返した。
まったく、なんなんだあいつは。いきなり現れやがって、ことごとくこっちの予定を潰して、挙げ句の果てには成り行きで仲間入りまでする始末だ。その後もいちいち突っかかって来やがるし。
あいつらもあいつらだ。勝負は着いてないとか。いつもヘラヘラしてるくせにこういう時だけ熱くになりやがって。……まあ、正直トモヒロとあそこまで張り合ったのには驚いたけど。
でも、どこの馬の骨かもわからないやつだぞ。……もしかして別チームからのスパイとか。流石にそれはないか。それから……。
「ユウ~。お父さん帰ってきたよ~。ご飯だよ~」
ああもう、今忙しいのに! 間が悪いな!
しぶしぶ食卓に着く。けれど身体は正直だ。夕食を前にするととたんと腹が減ってきた。
「いただきまーす」
尋常じゃない! この唐揚げうますぎる! 俺はおかずの唐揚げを一生懸命頬張りその余韻が消える前に全力でご飯を掻き込む。真剣にご飯を食すことに勤しんでいると父さんが話しかけてきた。
「ユウキ。今日から夏休みか」
「あ、うん。そうだよ」
「楽しいのはわかるけど危ないことはするなよ」
「わかってるよ」
「そういえばユウ。通知表は? まだ見せてもらってないよ」
「だって母さん昼いなかったじゃないか」
「ああ、ごめんなさいね。お義母さんもすみません」
「いいんだよ、この時期の子どもにとって時間は貴重だからねえ。一分一秒一刻を争うんだろ?」
「へへ、まあね」
さすがばあちゃん、わかってるぜ。
「遊びもいいけど、勉強もするんだぞ。宿題もな」
「ため込むんじゃないよ〜。計画的に片さないとね」
「わかってるよ! 俺が過去いつため込んだ? 予定ももう立ててるんだよ!」
「な、なに怒ってるのよ」
うるさいなあ! ちゃんと予定立ててたのに、あいつらに振り回されたが為に! クソ! なんだかイライラするなあ。もうどこまでも……。
「いや、なんでもないよ。食べ終わったら通信簿持ってくるよ」
「どうだったんだ?」
「いつも通りだよ」
夕食後、通知表を母さんに渡す。さすが私の子! とひとしきり褒められた後、風呂に入る。
あー、宿題しないとなー。でも今日は疲れたなあ……いいや、明日の朝に今日の分もやるかあ。
俺は風呂から出たらもう寝ることを決意した。




