第一話:初めてのパーティ
「それでは、三時間の清掃ということで、銀貨三枚と銅貨六枚です」
「どうも」
報酬金に間違いがないことを確認し、僕は金を財布にしまう。
「この後はどうされますか? 依頼をお探しなら、まだ未受注の依頼を紹介しますが」
「あー……えっと、民間依頼でいい感じのってありますか?」
「民間、ですか……」
受付の女性は困った顔をした。
ギルドは様々な依頼を冒険者に紹介している。
依頼には種類があり、民間人の依頼を『民間依頼』、ギルドの依頼を『ギルド依頼』という。
そしてこの依頼だが、依頼者は引き受けてもらう相手を指名することができる。
当然だ。未熟なものが引き受けて、かえって事態を悪化されてはたまったもんじゃない。
もちろん、そうならないためにギルドも綿密な事前調査と、人員の選定を行うが、それでも間違いは起こる。
なので、依頼者は基本的に、名の売れている冒険者やパーティを指名する。そうなると、僕のような無所属の冒険者が民間依頼を受けることはほぼできない。
なので、僕は必然的にギルドの依頼を受けるのだが。
「申し訳ありません。今ある民間依頼はほぼすべて相手が指名されていまして……」
「あぁ……まあわかってましたよ。念のため聞いただけです。じゃあ、ギルドの依頼で何か……」
「少々お待ちください……今あるのは、ギルドが所有する拠点の掃除か、新人冒険者に支給する装備の回収などですね」
と、こんな風に、雑用じみた仕事ばかりなのだ、ギルドの依頼というのは。
そしてそんな雑用仕事の羽振りがいいのかと問われれば、そんなわけもなく……。
とはいえ、文句など言ってられない。そんな仕事でも、金は稼げるのだから。
「じゃあその装備の回収ってやつを」
「はい、承りました」
受付の人は、僕の隣に視線を移して言った。
「依頼を受けるのは、お二人、でよろしいでしょうか?」
「はい」
「……ええ」
僕に続いて、隣の少女も頷いた。
彼女の名は、リリア=レイディスという。
つい先日冒険者になったのだが、どのパーティにも入団することができず困っていたらしい。
どうしたものかと悩んでいるとき、僕に出会い、僕がふと呟いた言葉から、パーティメンバーを探していると思って声をかけたらしい。
「えっと、ジンさん……?」
「呼び捨てでいいよ、僕のことなんて」
ギルドを出た僕らは、依頼先の鍛冶屋に向けて歩を進めていた。
その途中で軽い自己紹介を挟んだわけだが、
「そう? じゃあ、ジン……依頼のことで聞いておきたいんだけど」
リリアは随分とフランクに話しかけてきた。
なんだろう、距離の詰め方が尋常じゃないぞ。まるで心の間には壁なんてないかのように、グイグイ距離を縮めてくる。年上に対して少しも物怖じしないとは、さすがに冒険者を志しただけある。
「装備の回収って言ってたけど、あれどういうこと?」
「ああ……。新人冒険者には、ギルドが武器や防具を支給するのは知ってるよね?」
「ええ。私も貰ったし」
その装備は、ギルドが鍛冶屋などに依頼して作ってもらっているわけだ。
で、作ってもらったら後は倉庫に放り込んでおけばいいという話でもない。
定期的に点検しないといけないし、あるいは新しく発注の依頼を出さないといけない。
「……それって、ギルドがやる仕事じゃないの?」
「そうだよ。でも、わざわざ依頼してくれてるんだ」
それがギルド依頼だ。
本来はギルドがやることである仕事を、敢えて依頼という形で僕たちに手伝わせることで、仕事を作ってくれている。
このシステムは僕のような三流冒険者にはとても有難いものだ。
「なるほど……稼ぎのいい仕事は大手にとられるから、こんな仕事でもやらなきゃ飢え死ぬってこと」
「そういうこと。もうわかると思うけど、無所属の冒険者ってのは、本当に夢がないんだ」
いや、夢どころの話じゃないな。希望すらない。
なにせ、その種を他のパーティに根こそぎ持っていかれるのだから。
「……ねえ、ジン。あなたみたいな冒険者って、ほかにもいるの?」
「いるよ。少ないけど」
実際には少ない、というより、ほぼいない、という方が正しい。
そもそも冒険者になった時点で、道は二つだ。
自分でパーティを作るか、すでにあるパーティに入るか。
新しく作る場合、とりあえずメンバーを適当に見繕うだろう。
既存のパーティに入る場合も、規模が小さかったり、非公認のパーティは、ギルド公認になるため、ある程度の人員の確保のために新人のスカウトは惜しまない。
パーティに入れない冒険者っていうのは、よっぽどの無能か、問題児だけだ。命の危険が伴う職業なのに、無所属なんて馬鹿のすることなのだ。
「なに?」
「いや……」
僕の視線に気づいたリリアが振り向く。
なんでもないよ、と僕は適当に流しながら思った。
当然だが、僕が属するのは前者。よっぽどの無能側だ。
では、彼女は一体どっちなのだろうか。
黒いコートに備えつけられフードを被り、顔を見られないよう気を遣う理由とは……。
「……っと、着いた」
僕は足を止め、隣の建物を見上げた。
『ラグノア武具店』。
目的地であることを示す看板を。
「こんにちわー」
扉を開け、中に入る。
まだ昼過ぎということもあり、店の中に客は一人もいない。
武器や防具を飾ってあるコーナーの陰から、僕の声を聴いて店員が顔を出した。
「あっ、ジンさんじゃないですか」
「ん? ああ、レフトさん。お久しぶりです」
商品の手入れを行っていたのだろうか。
店員のレフトさんは拭き物を仕舞い、カウンターまで僕らを案内する。
「いやー、一体何か月ぶりですかね?」
「前に来たのは、多分二か月以上前だったと思うよ」
「じゃあそれ以来ってことですか! ジンさん、武器の修理とかで来ることないですからね!」
「ハハハ」
武器の手入れが必要ない。
それはつまり、武器を全く使っていないということ。
当然だろう。僕はギルドの依頼しか受けていない。そして、ギルドの依頼で武器を扱うようなものは基本ない。そうなれば必然的に、僕の武器は出番を失う。
「それで、ジンさんが来たってことはやっぱり?」
「ええ。まずは武器の修理を。それと、追加でこれも……」
僕は武器を詰めた袋と、追加で注文する品名書かれたメモを手渡す。
レフトさんはそれを受け取ると、店の奥にいる親方に声をかけた。
「親方ー! 仕事の依頼でっせーっ!」
カンッ! と力強い金属音が、レフトさんの言葉に答えるように鳴り響いた。
邪魔をするな、ということだろう。
レフトさんはやれやれといった調子で首を振り、
「すみませんね、うちの親方が相変わらずで」
「気にしてませんよ。それじゃあ、僕らはこれで」
僕がそう言うと、リリアが隣で不思議そうな顔をした。
人の心が読めるわけではないが、彼女の思考が、不思議と僕にはわかった。
店を出て、僕はギルドに向かう。その途中で、リリアが問いかけてきた。
「まさか、これで終わりなの?」
「そうだよ。それが?」
「……ほんとに雑用じゃない」
それがギルド依頼だ。
ギルド職員がやる仕事を代わりにやって、日銭をもらうだけ。
もちろん、報酬は安い。けど、何もしないよりはマシだ。
まあ、普通にバイトしている方が稼げるといわれたらそれまでだが。
「ねえ、聞いてもいい?」
「いいけど」
なにを、とは言わなかった。
そんなことを言わなくても、聞かれることなど想像できる。
「なんで冒険者やってるの?」
何故。
これまで幾度となく問われてきた。
きっと、これからも問われ続けるのだろう。
僕はいつものように、変わらない答えを口にする。
「愚かだからだよ、どうしようもないほどにね」
そして、答えに対する反応も変わらない。
リリアはどこか、納得いかない様子だった。




