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7.決戦はひと月後

「では、婚約発表は一月後ということで。ドレスの手配はこちらでしておくわ。とびっきりかわいらしいデザインにしましょうね!」


(王妃様、めちゃくちゃ楽しそうなんだけど。テンション高っ。さては王妃様もダリア様と同じくかわいいもの好きなのかしら)


 マリエラは、今にも鼻歌を歌い出しそうな様子の王妃の姿に驚きを隠せずにいた。  


(いいわ……。普段気高く凛とした方の、はしゃいでる姿もいいっ!やっぱり王妃様も素敵だわぁ)


「えー、まぁ婚約発表の場はひと月後の夜会ということで決まったが、その後の流れはどうするんだ?」


 すっかりお仲間の一員となった王子が、ダリアに問いかける。 


「そうですね……。証人や証拠品の用意はすでに整ってますし、あとは男爵にこちらの動きを勘付かれなければ問題はないかと」


「そうか。では私はせいぜい人目につくようマリエラを伴って、噂を盛り上げるとしよう」


「衛兵の手配なんかは、すべて私に任せてちょうだいね。色々やることがたくさんね。忙しくなるわ」


 大変だわと言いつつも、王妃もすっかりノリノリである。

 こうして親子並んでいると、外見だけではなく中身も似ているように思えなくもない。


「ダリアはあまり出歩かない方がいい。お前だと気づく者がいるかもしれないからな」


 王子は心配そうな顔で、ダリアに忠告した。が、マリエラは思う。


(王子だから気付いたんだってば。他の人が気付くわけないわ。それは私が保証する。愛がなければ絶対に無理!)


 多分王子は自覚していないのだろう。自分がダリアに向ける表情に、ありありと甘い色が浮かんでいることを。


(ダリア様はダリア様で、めちゃくちゃ嬉しそうにはにかんでいらっしゃるし。……私と王妃様って、もしかしてお邪魔?)


 先ほどまで、王子とダリアは互いに顔を赤らめてまともに会話もできない有様だった。

 それはもう、傍で見ていてこちらがいたたまれなくなるくらいに。


 その二人の様子は、それはもう尊かった。

 今すぐここに王家お抱えの絵師を呼んで!と叫ぶのを堪えるのに必死だった。


(にしても、最推しのあんなシーンを目の前で見れるとは……。ほんと、生きてて良かったぁ)


「マリエラ様?ぼんやりなさって、どうかいたしました?」


 つい先程の光景を思い出し、うっとりしてしまうマリエラである。

 慌てて品のいい表情をとりつくろった。


(もう私が孤児なのはバレてるけど、仮にも王妃様と王子の御前だし。推しも見てるし、気を引き締めなくちゃ)


「なんでもありませんわ。では私は殿下と仲睦まじい振りをして、夜会の日まで男爵をせいぜい油断させておきますね」


「ええ、そうしてちょうだい」


 そう言って、ダリアは微笑んだ。


 その表情からは以前にはなかった柔らかさが感じられて、なんだか嬉しくなる。

 凛としたダリア様も素敵だけれど、やっぱり無理せず振る舞っている時の方が何倍も輝いて見える。


(推しの幸せが、やっぱり一番よね。こちらまで幸せになるもの。これこそが、推し活よ。にしても……)


 マリエラは、ダリアと嬉しそうに話している王子に視線を向ける。


 王子が私たちの計画に、「私もそれに一枚噛ませてくれ!協力しよう」とノリノリで申し出てくれたのは意外だった。


(ダリア様もびっくりされていたけど、嬉しそう……。こんなことならはじめから騙したりせずに、王子に打ち明ければよかったかも)


 ここのところずっと王子に対して感じていた罪悪感から開放されて、マリエラもほっとしていた。


 王妃様も、なんだかにこにこ嬉しそうになさっているし。


(お母さんって、こんな感じなんだな……。きっと息子が生き生きしてるのが嬉しいのね)


 ほんのちょっぴり、マリエラはうらやましくもなる。とはいえ、親の愛など今さらそんな幻想に憧れても仕方がない。

 孤児はたくましいのだ。


 それに、孤児院にいたからこそこんな素敵な最推しに出会うことができたのだから。


 ここのところ不安と緊張で張り詰めていた気持ちが、わき上がるやる気と明るい展望で晴れ渡っていく。


 新たな協力者を得て、準備は着々と進行していた。


 最後の決戦の時は、ひと月後の夜会。

 そこで、男爵の悪事を明るみにして断罪するのだ。それはもう徹底的に。


(私の最推しを傷つけようとしたその報い、心底後悔させてやるんだから!最推しの未来も幸せも、私が守ってみせる!首根っこ洗って待ってなさい!)


 マリエラは、にやりと笑みを浮かべた。


 男爵がマリエラに近づいてきたあの日からはじまったこの計画も、やっと終盤。

 頼もし過ぎる豪華な協力者たちを前に大いに奮起するのだった。




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