5.秘密はいつかバレるもの
「ダリア様っ!良かった。偽の情報だと分かっていても、やっぱり不安で……」
この日、マリエラはあの襲撃事件以来はじめてダリアと対面していた。
男爵の様子から計画がうまく進んでいることは分かっていたが、それでも心配だったのだ。
男たちを取り押さえる最中にけがでもしていないか、もしこの一報が真実だったら、とあれやこれや考えては、ずっとそわそわしていた。
「心配かけてごめんなさい、マリエラ。見ての通り、かすり傷ひとつないわ」
推しのかわいい笑顔に、マリエラは安堵と幸福感に満たされていた。
それに今日のダリアの姿は、王宮での黒の装いともダリアの本来の好みともまた違って、なんとも新鮮である。
どうもここのところ推し要素が足りなくて、もやもやしていたところだ。
(できることならこのままの姿を、絵にしたい!そして、部屋にでかでかと飾りたい!)
ダリアの絵に囲まれた生活をふと想像して、マリエラはにんまりと笑ってしまう。
「それにしても上手くいきましたね。男爵もすっかり信じ切って、朝から祝杯を上げてましたよ」
男爵は、証拠として雇った男たちが差し出した黒髪の束と血濡れのドレスを見てよく確認もせずにさっさと追い返したらしい。しかも約束の後払い分の金を、この期に及んで値切ってきたというから驚きだ。
そのおかげで、男たちは伯爵家に全面的におとなしく協力することを確約したらしい。
「男爵のお金への執着は想像以上ね。死罪よりも、全財産を没収して貧乏暮らしをさせるほうが、よっぽどこたえるかもしれないわ」
「そうですね。権力は確かに魅力的みたいですけど、いざとなったら側室でも構わない。王子の子をさっさと孕んで既成事実を作ってしまえとも言ってましたし」
ダリアとマリエラは、王妃の温室を出て王宮の主回廊へと向かう。
温室のある離れまでは人払いをしてあるから、こんな話も人目を気にせずできるが、ここからはそうはいかない。
二人ともさっと婚約者候補の男爵令嬢と、マリエラ専属の教育女官としての仮面をかぶる。
しずしずと令嬢らしいお行儀のいい歩き方で、回廊を歩いていく。そこに向こうから歩いてくる一人の男性の姿が見えた。
(……大変っ!王子がくる)
とっさにダリアは顔を伏せ、マリエラの影にちょうど隠れるようにして通り過ぎる。
マリエラは挨拶もなしにすますわけにもいかず、ダリアを先に行かせた後で王子に声をかけた。
「殿下、このようなところでお会いするなんて珍しいですね」
「……ああ、マリエラか。いや、ちょっと考え事をしていたらいつのまにかこんなところまで来てしまった。マリエラは王妃教育の帰りか?」
生気のない顔でぼんやりと受け答えする王子を目にして、マリエラは少し気の毒に思った。
(きっとダリア様のことが心配なのね……。無理もないわ。事情をすべて知っていた私だって、あんなに不安だったもの)
「はい。今から部屋へと戻るところです。殿下もお疲れのご様子ですから、少しお休みになられてはいかがですか?」
ついかわいそうになって、そんな言葉をかけてしまうマリエラである。同じ人を大切に想う者同士、気持ちはおおいに理解できる。
「ああ、そうだな。どうも色々あって疲れているよ……ん?おい!お前、ちょっと待て」
はっと何かに驚いたように、王子が歩き去るダリアの背中に声をかける。
(えっ!?ちょっと待って。王子っ?)
止める間もなく王子はダリアの方へと駆け寄ると、その肩をがっとつかんだ。
「これは……一体どういうことだ?なぜお前がここに、それにその格好は……?」
万事休す、とはこのことである。
マリエラは、天を仰いだ。




