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抱擁症

ピピピピ…ピピピピッ…


「うぅ…ん〜…」


 規則的な電子音と、カーテンからちらつく眩しい日差しが、深く心地よい夢をみていた脳に刺激してくる。実に気分が悪い。

 ベッドの上で、知りたくなかった朝の訪れに呻きながら、腕を伸ばしてアラームを止め、抱えていたクッションを抱きしめ直して、また眠りにつ…。


「…って、おきろぉ〜!」


 …こうとしたとこで、一部始終を見ていたらしい、勢いよく部屋のドアをあけて入ってきた妹の灯利に、クッションを剥がされる。実に気分が悪い。


「う〜…、もちっと寝かせてくれ…」

「だぁめ! もう起きる! さっさと着替える! ご飯を食べる! じゃないと学校遅れるよ!」

「…ぁれ、今日って土曜日じゃな…」

「今日は金曜日!」


 クッションを取り返そうと伸ばした両手を止め、尋ねると、これまた痛い現実という名の刃が飛んでくる。休日だと思っていた脳が一気にブルーになっていく。


「…まじかぁ〜」

「だから、もたもたすなっ!」


 取り返したクッションを抱きしめ、再びベッドに顔を埋めると、今度は妹の平手が飛んできた。



☆★☆



「輝馬〜、なんで朝から頬が腫れてんだ?」

「…朝から見たくもない現実を突きつけられたからだよ……ふぁ〜…」

「それ返答になってないよ〜」


 少し腫れた頬を擦りながら、込み上げてくるあくびを噛みころす。朝からヒドイ目にあったものだ。


「大体、朝ってだけで憂鬱なのに…」

「輝馬は、ほっといたらずっと寝てそー」


  そう言って微笑うのは、僕、『風崎 輝馬』と同じ高校に通う幼なじみの『加藤 とあ』だ。

 とあとは、家が近く、こうして毎日のように一緒に登校している。今日も朝遅く出てきた輝馬を待っていてくれたのだ。

 

「しかしまぁ、輝馬もなかなか妹離れが出来ませんな〜」

「いや、あいつが勝手にやってるだけだから、僕頼んでないから」

「またまたぁ、ご謙遜を〜、どうせまた、いちゃいちゃしてたんだろ〜」

「してねぇよ…なんでそーなる…」

「朝から、灯利ちゃんの声が隣まで聞こえてくるんだよ〜」

「…まじかよ」


 地味に初耳のことに呻きながら、ため息をつく。ホントに朝と言うものはなんでこんなに優しくないんだろう?


「…また『抱擁症』か?」

「……」


 話しを切り替え、少し真面目そうに聞いてくるとあ。


「…まぁ、そうだな、はやく直さないといけないんだけどなぁ…」

「まぁ、焦らずゆっくりだね〜」

 

 僕は、とある悩みを抱えていた。

 

 『抱擁症』

 

 それは僕らが勝手につけた名前だが、もうすっかり馴染んでしまった。

 誰でもストレスを抱えると、自分に合った解消法があると思う。例えばスポーツだったり、読書だったり、音楽を聞くことだったり…。それが、僕の場合は、クッションを抱きしめること、なのだ。

 

 確かに、抱擁はストレスの解消法としても、あるかもしれないが、僕の場合は少し違う。常に何か抱えていないと落ち着かないのだ。流石に学校では出来ないが、本当は授業中もずっと抱えていたい。抱えていないとそれこそストレスになってしまう。そのくらい酷いのだった。

 

 しかし、普通の男子高校生としては、クッションを抱えて、授業を受けているなどの噂が広がれば、とても恥ずかしい…(そもそも、その前に先生に没収される)。はやくこれを直したいと思っているのだが、それがどうしても無理なのであった。


それが今日まで続き、疲れが溜まったと言う訳である。


 (…本当にどうしたものかな)


「…おーい、聞いてるかぁ?」

「おわ、…なんだよ」

「聞いてね〜な、おい」


 ま、いつものことか、ととあは失礼なことを言ってから、切り出した。


「今日の委員会決めのことだよ、輝馬はどこ入る気なの?」

「あぁ、そのことか…図書委員にしようと思ってる」

「やっぱりね、じゃあ俺も図書委員だ」


 さも当たり前のように、とあが言う。とあは昔から何かと僕にくっついてくる事が多かった。


「……」


 そう、あのことがあってから。


「…なぁ、とあ、お前、まだあのこと引きずってるだろ」

「……」

「僕のことは心配せずにお前には好きなことやって欲しんだ」


 真面目にそう想う、今まで心配してくれた感謝の意を込めて。

 とあは、こちらをチラッと見て、大丈夫だよ、と微笑う。


「現状でも駄目なやつが何いってんだか、心配しない方がおかしいわ」

「…確かにそうだけど」

「それに、俺の勝手な問題でもある、だからこれは俺の勝手にやってることだ、気にすんな」

「……」


 ホントに、とあはいいやつだ、昔から。


「…ありがとう」


 素直に感謝の気持ちを伝えると、なんのことだか〜、ととあは微笑う。そんな他愛もない雑談を続けていると、次第に学校が見えてくる、そして、校門の前に誰か立っているのが見えた。


 とあが、げっ、と言ったの同時に、校門の前に立っていた体育教師の荒金が、「お前ら、遅刻なのになんで呑気に歩いてやがるっ!、さっさと急がんか!」と怒鳴ってきたので、とっとこ二人で教室へ向かうのだった。…いつものことだが。

初投稿の初心者です。よろしくお願いします。

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