間違い
再開します。明日も投稿するので、今回は短めです。
「九重レイジさん、あなたは死にました」
そんな聞き覚えのある声とともにレイジが目を覚ますと、どこか見覚えのある暗い空間にいた。
そして、唯一光に照らされたところに無駄に豪華な椅子に座っている虹色の髪の女性――女神イーリス――がいる。
神みたいに慈悲深い表情でこちらを見るイーリスに言いたいことがある。
「いや、俺死んでないから」
「ふふっ、別に隠さなくてもいいんですよ? 転生してたった二日で死んでも何の恥でもありませんから」
「いや、だから死んでないって言ってるだろ」
レイジは冗談ではなく至って真剣な顔をしている。次第にイーリスは不安げな顔になっていく。
「……えーと、マジ?」
「マジだ」
「ちょっと待ってて」
イーリスは手元で忙しなく指を動かしている。
レイジには見えないが何かを操っているようだ。
「……確か、ケイオスだったわね。……蘇生場で、ココノエ、レイジと……、よしっ、出た」
ネットで検索しているみたいだ。
「状態は……、うわっ、本当に生きて……、あ、死んだ……」
最後のほうがよく聞きとれなかった。
「どうしたんだ?」
「え、いや、その……」
イーリスが頬に汗を滲ませながら口ごもる。
調子が良くないのだろうか顔色が悪い。
「ど、どうしたら……、もしばれたら他のやつに何を言われるか……。はっ、そうよ。ばれなかったらなかったことと一緒よ。……神託で七曜草を……うん、これで……」
ぶつぶつと呟きながらまた何かを操作をしている。
「なにかあったのか?」
「え? う、ううん。なにもないよ? 死んだと思って魂を呼んだら身体の生命維持ができなくなって本当に死んだなんてことはないから本当だから! すぐ戻ってくるから大人しく待ってて!」
早口にまくしたてると、返事も聞かずにどこかに走り去ってしまう。
二、三分くらいだろうか息を切らしたイーリスが戻ってきた。
「そ、それじゃあ、すぐに戻ってもらうわ!」
「おい、待った。まさか何事もなかったかのように返すなんて言わないよな?」
「……な、なにを言っているかわからないなあ? 本当全然わからないよ?」
詰め寄るレイジと目線を合わせようとしない。
「こ、こうなったら、強制送還っ!」
「待っ……ああああああああああぁぁーー……!」
レイジの足元に穴が空き、悲鳴を上げながら落ちていった。
「あのクソ女神ぃーー!」
「わぁっ!?」
叫びながら飛び起きると、目の前に驚いた顔をしたミラがいた。
どうやら、イーリスに強制退場させられて、教会に戻ってきたみたいだ。
「だ、大丈夫?」
「ちょっと悪い夢を見ていただけだ。……起きたんなら、さっさとギルドに行くぞ」
歩き出したレイジの前に女神官が現れて足を止める。
「世話になったな」
「いえ、いいのですよ。……彼はつれない態度をしていますが、心配してずっとあなたの傍にいたのですよ。愛されていますね?」
「ぶっ……!?」
とんでもないことを女神官が言うので、思わず吹き出してしまう。
「え……? そ、そうなの?」
頬をかすかに赤く染めて、ちらちらとミラが窺ってくる。
「な、なにを言っているんだ? 俺がどこか行ったら合流できなくなるかもしれないだろ? だから、待っていただけだ。それだけだ」
「ふふっ、素直ではないですね」
女神官のわかっていますという顔がむかつく。こいつ俺をからかって楽しんでるんじゃないか。
「お前が死んだから、無駄に時間をくったんだ。余計なことしている暇はないぞ」
レイジはミラをおいて先に行ってしまう。
「わざわざ起きるまで待ってくれる人なんていませんよ。大切にしたほうがいいですよ」
「はい!」
ミラは嬉しそうに微笑んでレイジの背中を小走りで追う。




