買い物
冒険者ギルドで竜人の死体を買い取ってもらった。黒い竜人が二万イリス、普通の竜人は一万イリスで売れた。運び屋には一割の三千イリスを払った。これで報酬は二万七千イリスになると思ったんだが、黒い竜人に賞金がかかっていたので、合わせて二十二万七千イリス。報酬は半分に分け、割り切れなかった銀貨一枚はもらって、金貨一枚と銀貨十四枚が今回の俺の報酬になった。
冒険者登録もついでにやった。登録費は銀貨十枚だった。再登録も銀貨十枚だった。ミラが預けていたお金は戻ってこなかった。俺も注意しないといけないが、その前に一ヶ月も働かなかったら、お金がなくなる。
レイジたちはギルドを出て、冒険者として必要な武具や道具の準備のために街中を歩いていた。
「にしても、これが三百万イリスもするとは……」
黒い竜人が持っていた短剣を感慨深く見る。
ただの短剣に見えるが、魔術師殺しと呼ばれる魔法を断ち切る武器らしい。貴重なものらしく滅多に市場に出回らないので、一応売らないで持っておくことにしたのだ。
「で、ここをまっすぐ行ったらいいんだっけ?」
「うん。露天商もあるから、ちょっと見るのもいいかも。もしかしたら、掘り出し物があるかもしれないし」
「そうか。それはぜひ見ておかないとな」
少し歩くと、道の左右に屋台や風呂敷を広げて商売をやっている人が増えた。食べ物や雑貨、武具まで色々なものを売っているようだ。
目的の武具を見て歩くが、高いのか安いのか、よくわからん。魔術師のミラに聞いても専門外だからわからないと。これは一度ちゃんとした店に行ってからがいいかもしれない。
「そこの少年。安くしておくから見ていかないかい?」
声をかけられたが、露天商を見て歩いている間に同じような事を何度も言われている。だから、横目で確認するだけに留めるつもりだったが、その商人を見て足を止める。
影が差した路地にひっそりと佇む黒い布で覆われた小さな店があった。入り口から半身を出して手招きする商人は、道化師の格好をしていた。
明らかに商人がする格好ではない。怪しさ満点だ。もしかしたら、商人ではなく、格好通り道化師なのかもしれない。
「ここだけでしか売っていない大変珍しい武具を超お手頃価格で売っちゃうよ?」
違ったようだ。本当に商人みたいだ。たぶんこいつは頭がいかれているのかもしれない。その証拠に誰も客が寄り付いていない。露店を冷やかしている人たちはこの道化師を見ると、視線を反らして若干早足で去っていっている。
「ねぇ、レイジ。早く行こう」
ミラがレイジの服の裾を引っ張って先に行こうと促す。
ミラの手を取って頷くと、足を進める――道化師の元へと。
「え? ちょっと!?」
「大丈夫だ。見るからに怪しくて、胡散臭いが、俺の直感が行けと言っている。なにより面白そうだ」
「その直感間違っているから!? 絶対行かないほうがいいって!」
嫌がるミラを引きずって店の中に入る。
中は意外と広く……というか明らかに外観より何倍も広すぎる。魔法かねぇと思うが、まあ広くて悪いことはないから置いておく。それよりも、床に敷かれた布の上に並べられた武具の数々は素人目にも尋常なものではないことがわかる。……だって、なんか黒い気みたいのが滲み出しているのが見えるから。
背中をつつかれたので振り向くと、ミラが首を左右に振っていた。
レイジは無言で頷くと、道化師の商人に向き直り口を開く。
「おすすめの品はどれだ?」
「…………っ」
ミラが背中をポカポカ叩いてくるが無視する。
「どれもこれもおすすめだけど、そうだなあ……しゃべる剣なんかどうかなあ?」
「ほー、それはいいな」
道化師が渡してきた喋る剣を受け取る。刃こぼれがひどく赤黒い汚れがそこら中についているが、これは使えるのか? ガラクタじゃないのか?
「ちなみに、会話ができないのが欠点でね。一方的に殺された人々の怨嗟の叫びが聞こえるだけなんだ。まあ、戦闘中のBGMにはいいと思うよ?」
「思ってたしゃべる剣と違う!? 最悪だろ!? そんなの持って戦えるかっ!?」
レイジは剣を床に叩きつけるように捨てる。なんて気味の悪いもの渡すんだ。幸いすぐに手放したからかなにも声は聞こえなかった。
「そうかい? 僕はいいと思うんだけどねえ。……じゃあ、これなんかどうだろう。身体能力強化に精神高揚作用があるんだ。多少の痛みを気にせず戦えるようになるよ」
「ほー、それはいいな」
鞘に収まった黒い刀を受け取る。異世界に刀があっても驚くことはない。俺より前に来た異世界人が伝えただけだろう。
鞘から抜いた刀身も黒く、鎬の部分だけ鮮血のように真っ赤な一本の線が引かれている。
道化師の言った通り全身に力が漲ってくるのがわかる。精神高揚のほうはよくわからないが、確かに身体能力強化の効果があるようだ。
「ちなみに、それの持ち主は百人斬りの……ナントカとか呼ばれていて、人を斬ってその血を刀に吸わせていたらしいよ。刀を抜いたら、人を斬りたくて斬りたくてしょうがなくなる修羅になるらしいよ」
しれっと恐ろしいことをカミングアウトされたが、時既に遅くレイジの手には抜き身の刀がある。
背中にしがみつくようにしていたミラが薄情なことにバッと素早く身を離して距離を取る。
道化師はなにを考えているかよくわからない笑みを浮かべてレイジを見ている。
その場にいる全員が動かないまま数秒が経ったがなにも起こらない。
「はて? おかしいな、呪いが効いていない……?」
やはりというべきか、ここにある武具は全部呪われているみたいだ。俺に効かない理由は全状態異常無効のおかげか。こう何度も役に立つとは、これも女神の巡り合わせということか。
とにかくマイナス効果を無視して良い武具が手に入るわけだ。この機会を逃す手はない。敷物の上の物を一通り見て、良さそうなものの値段を聞いたが、呪われてもいい値段していた。なんとか値切って、刀と衝撃緩和と自己修復効果のある端の擦り切れた黒いコートを買った。装備してみると呪いが無効化されているのか普通に見える点は良かった。
「…………っ」
店を出た後で後ろを見たミラが幽霊でも見たように少し青ざめた顔をしていた。
「ん? ……へぇ」
さっきまであったはずの店がなくなっていた。まるで最初からそこに何もなかったかのようだ。
全部普通ではなかったので、突然なくなったところで今さら驚くことはない。
歩いている内に顔色が良くなったミラと冒険者として最低限の必需品を揃えたら、お金がなくなっていた。ギルドに戻ってクエストを達成しないと今日のご飯がない。
そういうわけで、ギルドに戻ってきたレイジとミラは壁の一面を占拠している横長のクエストボードの前にいた。クエストの内容が書かれた紙が所狭しと貼られている。




